第205話結婚式②

「――いかなる時も共に過ごし、愛を持って互いに支え合う事を、ここに誓いますか?」


「「はい、誓います」」


 ナレッジ大公領に新しく出来た大聖女神殿で、ニーナが聖女としと初めて執り行う結婚式。


 今日そこで元大聖女であるシェリルと、その心友であり、本日シェリルの夫となる子鹿顔の男は、お互いの顔を見つめ合い……では勿論なく!


 ふわふわと宙に浮き、誓いの言葉を二人に問いかける聖女ニーナに釘付けとなりながら、今永遠の(二人の推し、ニーナへの)愛を誓い合った。


 ニーナを挟んで見つめ合う二人の誓いの言葉を聞き、会場からは溢れんばかりの拍手が上がる。


 そして会場外へと向け歩きだした二人の為に、先導してフラワーシャワーの花道を作るのは、ベンダー男爵家の愛され天使シェリーと、子鹿顔の男の姪にあたるブリアナ・ナンデスだ。


 そう、大聖女シェリルと共にニーナへの忠誠とも取れる愛を誓った小鹿顔の男は、リチュオル国の元宰相、ユージン・ナンデスなのだ。


 ニーナについて話し合ううちに、シェリルとユージンは気が付けば心友となっていた。


 そしてニーナへの深い愛情を共に感じ合い、善き夫婦となってニーナを傍で支えていこうと決意した。


 そんな重いニーナ愛が、新妻となったシェリルに負けず劣らずのユージンは、城に居たころの顔つきとは明らかに違い、今日は穏やかで嬉しそうな表情を浮かべている。


 その上額にあった箪笥の角でぶつけた古傷も、今日の結婚式に合わせニーナの手によって綺麗さっぱり消されているため、以前よりも尚更若く見える。


 普通の治癒師では消せない古傷を、憧れのニーナに消して貰った時のユージンは、感動のあまり熱病に魘されているのかのような状態になった。


 ニーナの魔法を間近で見れる。


 その上自分自身にニーナの魔法をかけて貰える。


 結婚式万歳!


 ニーナが娘と認め可愛がるシェリルのことを、自分も一生大事にしよう! 


 それはニーナへの憧れが重すぎるユージンが、そのニーナの魔法を受け、心友のシェリルへの愛を改めて感じた瞬間でもあった。



 そして普段ならばドジっ子爆弾を連発しそうなユージンだが、隣に立つ同士(妻です)シェリルのお陰で、今のところ……いや、朝一でパンを食べようとして一緒に自分の指を噛んでしまった以外は、今の所何もない。


 その上、今夫婦の愛を誓うにあたり、目の前で憧れの存在であるニーナが自分とシェリルの為に魔法を使ってくれたことで、ニーナファンの一人として絶対にその魔法を見逃せないユージンは、いつも以上に隙がなく、ビンビンに危険察知能力が働いていた。


 そのお陰で今日はドジが少ない様だ。


 これこそ幸せ中の幸いだろう。


 そんなユージンはリチュオル国の宰相だったころではあり得ないほどの優し気な笑みを浮かべ、愛妻となったシェリルに話かけた。


「シェリル、今日この日にニーナ様に同士である貴女との縁をがっちりと結んで頂いた……お陰で私は世界一の幸せ者になれたよ……」

「ええ、あなた、私も同じ気持ちですわ。あの可愛いニーナ様の初めてを私達が頂いたのですもの、絶対に最強の夫婦になりましょうね、フフフ……」


 と、大勢の拍手に囲まれながら、新婚となった二人はそんな甘い? 会話をする。


 ニーナの側で、ニーナを見守りながら、ニーナを支える。


 ニーナ(セラニーナ)に以前から憧れていた二人にとって、これ以上に無い最高の結婚式となった。





「ブリアナちゃん、お花全部なくなっちゃったねー」

「ええ、あの……シ、シェリーさま、そ、そうで、ございますですわねー……」

「あ、ブリアナちゃんの肩に花びら乗ってるよー。私が取ってあげるね、うふふ、ブリアナちゃん、可愛いー」

「はふうううっ!」


 ナンデス侯爵家の当主であり、長男であったユージンが、この結婚により爵位を弟に譲り、ナレッジ大公領に移り済むこととなった。


 ユージンはシェリルとの結婚を決める前から、いずれ弟オーブリーに爵位を譲ると決めていたため、この結婚が良いきっかけだと、さっさっと手続きを進め、侯爵家の仕事をとっとと弟に任せ、ナレッジ大公領めちゃ早でやって来た。


 そんな仕事が早く、宰相にまで成り上がり、伯爵家であったナンデス家を侯爵迄押し上げた優秀な兄ユージンに対し、普通なら嫉妬のあまり落ち込んでしまったり、兄嫌いになってしまいそうだが、弟のオーブリーはドジっ子の兄が昔から大好きだった。


 そしてオーブリーの子供二人も、宰相であり、ハンサムでカッコイイ叔父が大好きだった。


 そんな叔父がナレッジ大公領に移り住むと聞き、子供たちは寂しいと無暮れていたのだが、今日の結婚式でナレッジ大公家の子供である、天使シェリーとディオンと会って、そんな気持ちなどどこかへ吹き飛んでいた。


 そう、すっかり可愛い二人の毒に犯されてしまったのだ。


 可哀想に……


「クリス、クリスも貴族学校に入学するんだろう? 俺もなんだー、宜しくねー」

「うわぁあ、あ、はい……ディ、ディオン君……よ、よろちくです……」

「クリスはさー、どの教科が得意? 俺はねー計算、シェリル様に沢山教えて頂いたんだー」

「わ、わ、わ、私も……計算は得意でしゅ……」

「そうなんだー! じゃあ、ライバルだね! ライバルって友情の証なんだってアルホンヌ師匠がそう言ってた。ってことは、俺達もうマブダチだね!」

「ぶふぉっ!」


 高位貴族の子であるクリスからすると、ライバルでマブダチとは意味不明な言葉だったが、天使のようなディオンに笑顔付きでガバッと抱きしめられると、もう何も考えられなくなってしまった。


 そしてこちらでも被害が続く。


 すっかり同い年のブリアナを気に入った天使シェリーは、ブリアナと手を繋ぎ、ビュッフェスタイルの披露宴会場をご機嫌で見て回る。


 天使に振り回されて幸せなブリアナは、キャパオーバーで疲労困憊だ。


「ねえ、ブリアナちゃん、ブリアナちゃんはどの料理が好き? 私が取ってあげるよー」

「ふぇえ? わ、私は……その……な、なんでも大好きです」

「そうなのー? 好き嫌いない子はおりこうさんなんだよー。ブリアナちゃん良い子だね。素敵ー」

「ひゅいいっ!」


 ブリアナのか細い腕に、可愛い天使シェリーがぎゅっと抱き着いた。


 ブリアナはその衝撃で心臓が口から飛び出すかと思ったが、屋敷での厳しい令嬢教育のお陰か、どうにか堪えることが出来た。


 大好きな叔父の結婚。


 最初はなんでそんな遠くへ行ってしまうの? と思ったが、今天使に毒されたナンデス家のこの二人は、「叔父様ってば、やっぱり天才です!」と天使二人と親戚になれたことを喜んでいた。


 そしてそれを見つめる少女が一人。


 ミラの呪いと戦った時よりも、ちょっとだけ身長が伸び、ちょっとだけ見た目も女の子らしくなり、益々凶悪な魔力を醸し出す……ニーナ・ベンダー男爵、八歳。


 そんなニーナはまったく子供らしくない雰囲気で、幸せそうな表情を浮かべながら、結婚式ではしゃぐ家族の様子を眺めていた。


「フフフ……賑やかな結婚式です事……ねえ、ファブリス?」

「はい、ニーナ様、最高に幸せですね!」

「まあ、ファブリス、最高はまだ早いですわ。レチェンテ国にナレッジ大公家あり、そう言われるようになるまでは、私は手をゆるめませんことよ……」

「はい、ニーナ様! 私も微力ながらお手伝いさせて頂きます!」

「ええ、ファブリス、一緒に頑張りましょうね」


 ミラの呪いを倒し、ナレッジ大公領を発展させた今、ニーナは次の目標に向けて動きだす。


 大切な家族が集まるこのナレッジ大公領を、世界一幸せな領地へと……


 ニーナの目標は、必ず叶えて見せる夢でも合った。





☆☆☆





こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

シェリルのお相手はユージンでした。SSを見て下さった方はご存じでしたよね。ユージンの方が年下設定です。エリクとアルマとはタイプが違う最強夫婦の出来上がりですね。えっ?グレイスとクラリッサですか?ウフフ……あの二人はそう簡単にはくっつけませんよー。

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