ナレッジ大公領
第204話結婚式
レモンのように爽やかな風が吹き抜け、フレッシュで弾けるような日差しが注ぐナレッジ大公領。
毒々しいミラの呪いが消え去ってからあっと言う間に月日が経ち。
セラニーナ・ディフォルトことニーナ・ベンダーは、8歳になっていた。
その見た目は以前より美しく輝き、天使と間違われても仕方ない程に神秘的な可愛らしさを醸し出していた。
だがその幼い体の内に秘める魔力量はドラゴン10体以上の力を持ち、ニーナの息吹で簡単に一つの国が滅びてしまうのでは? と恐れられるほどの魔法力までも身に着けていた。
そしてそんなニーナの成長と共に、死ごき部こと、ニーナ軍団も著しく成長しており、ナレッジ大公家に刃向かうものなどこのリチュオル国には存在しない……とまで言われる程になっていた。
だが、その情報は一部の貴族だけのもの。
何故ならナレッジ大公こと、当主のエリク自身が王城などで開かれる夜会に出席することが、殆どないからだ。
そう、それはたった一度だけ……
あの禍々しいミラの呪いから、このリチュオル国を救った功績を褒賞されたその一度きりだけ……
秘密のベールに包まれたナレッジ大公夫妻は、その褒賞授与式にてリチュオル国の貴族たちの前にその神々しい姿を現したのだ。
それも呪いの影響でずっと病んでいたはずのエリクとアルマの体調を考慮し、褒賞を受けたのはニーナがミラの呪いを退治してから一年後の事だった。
何故ならば二人の体調が……ではなく、ニーナ達三兄姉妹の母であるアルマの、漏れて溢れて流れて仕方がない魅了を、どうにか抑えるための修行がニーナの手によって行われていたからだった。
「えー、あたしー、別に飛びぬけた美人なんかじゃないよー。この辺りじゃふつーうの顔してるじゃなーい?」
アルマは気軽にそんな事を言うが、比べる相手が自分の家族だけなのでそれも当然だ。
アルマの母も、アルマの祖母も、勿論全員が、それはそれは美しかった。
そしてそんなアルマの子供である、ニーナやシェリーも、その上男の子であるディランさえも、周りから会った瞬間に天使と間違われる程美しく可愛い。
それに夫であるエリクも、美男子という言葉では言い表せない程の美しさを兼ね備えている。
つまりアルマの周りには無駄に美しい者たちしかいないため、自分の類まれなる女神のような美しさに、アルマはとことん無頓着なのだ。
「お母様、ですがお母様は魔力も美し過ぎるのです……ですから誰もがお母様に魅了されてしまうのですわ」
そんなニーナの真の言葉を、アルマは母想いの娘のただのお世辞だと受け止める。
「もう、ニーナったらー、すっごく可愛い事言っちゃってー、もう、このこのこのー、今日は母さんニーナを離さないぞー、うふふ、一緒に寝ちゃおっかー?」
と、ニーナの危機回避の言葉が全く伝わらない上に、そーんな嬉しい切り返しをする。
アルマ本人に自分の魅力がどれほどあるのかが中々伝わらなかった為、アルマの溢れんばかりの魅了の魔法を押さえる修行は、天才児ニーナからしてもとっても苦労した訳だ。
だが、そこはニーナとシェリルの踏ん張りと努力と根性で、何とかなーんとかアルマの魅力を半分に……いや、4分の1ぐらいまではどうにか抑える事が出来た。
ただし、それも笑顔になるとまた違う。
アルマに微笑まれてしまうと、誰もが魂が抜けてしまうのだ。
特にアルマは誰にでもすぐに心を開いてしまう。
挨拶をすれば皆友達。
そんな感覚だ。
なので夜会では元大聖女のシェリルと、クロウ家の長男でありエリクの補佐官となったバルテールナーが、二人に付き従い魅了される人々の被害を少しでも抑えるために奮闘した。
それプラス、クラリッサとアルホンヌが騎士として二人の周りを固め、厳戒態勢をとったのだ。
そんな魅力あふれるナレッジ大公夫妻に話しかけることを許されたのは、勿論国王であるアレクサンドル・リチュオルと王太子のレイモンド・リチュオルだった。
そして宰相であるユージン・ナンデスも側へとよれば、美し過ぎるナレッジ大公夫妻に近づいて来ようとする者はいなかった。
見た目だけが幼過ぎるため、褒賞会後の夜会に出席出来なかったニーナだったが、彼らのお陰で安心して……いや、ちょっとだけの心配だけで、どうにかナレッジ大公夫妻のお披露目の日を迎えられたのだった。
「ニーナ、見て見て見てー」
真っ白でふわふわとしたドレスを身に纏い、花冠を付けたシェリーがニーナに声を掛ける。
ニーナも同じ衣装を身に着けてはいるのだが、そこは目に入れても痛くないほどに可愛い姉のドレス姿だ。
忙しい手を止め、ニーナは愛するシェリーへと振り返る。
そしてその後ろからはこれまた愛しいディオンとエリク、そして少しお腹が膨らんでまたまた魅力がパワーアップしたアルマも、美しい装いで顔を出す。
そう、あの一度きりの夜会に出席したあと、アルマは妊娠したのだ。
自分の体に新しい命を宿した事が分かったアルマは、「私の中のニーナがきっと生まれてくるんだよー」と優しい微笑みを浮かべ、ニーナにそう伝えてきた。
ニーナがニーナの人生を奪ってしまったと、気にしている気持ちがある事に、アルマは母として気付いていたようだ。
ニーナとして生きて行こう。
アルマからニーナが生まれ変わると聞いて、自分の人生を切り開いて行こうと、そう決めたニーナだった。
「ニーナ様、こちらの準備、全て整いましたー」
「まあ、グレイス、有難う。こちらも準備は完璧ですわ。クラリッサ達はどうかしら?」
「はい、クラリッサ様達も配置完了と聞いております。後は主役の登場のみですね」
いつもとは違い、髪を固めタキシード姿で報告に来たグレイスに、ニーナは笑顔を返す。
そして大切な娘へと視線を移す。
「シェリル、とっても美しいですわ、誰よりも輝いています」
師匠であり、先輩であり、そして母親代わりであったニーナの言葉に、シェリルは優しく微笑み小さく頷いた。
「うん! シェリル様すっごく綺麗ー! 女神様みたーい!」
「本当、本当、シェリル様ってば可愛いよねー!」
「俺もシェリル様とっても素敵だと思う!」
「私もこれ程美しい女性をエスコート出来るなんて誉だよ」
シェリルの家族となったベンダー一家(ナレッジ大公一家)のお褒めの言葉にも、少し恥ずかしそうに頬を染め、シェリルは頷いた。
「皆様、有難うございます……私、とても幸せですわ」
「フフフ……あらまあ、シェリルったら、それは言う相手が違いますわよ」
「はい、ニーナ様、そうですわね。でもきっと彼も……私と同じ気持ちだと思いますわ……何故なら彼の方は、私の運命の相手なのですから……」
普通ならば惚気だと取れる言葉だが、シェリルのその言葉には 「ニーナを支える!」 という覚悟のようなものが現れていた。
そう、今日は元大聖女シェリルの結婚式。
白いレースで出来たベールの上からでも、シェリルの運命の相手との、燃え滾る力強い想いは伝わってくる。
ニーナの側にいるための、最善の相手との結婚式。
そんな頼りになる相棒であり、愛しいの彼のことを、シェリルは ”心友” だと思い、愛していた。
「では、シェリル様、参りましょうか……」
領主であるエリクにエスコートされ、美魔女シェリルは進んで行く。
ナレッジ大公領で初となる結婚式。
美しいベンダー家の家族全員が見守る中、シェリルの結婚式は執り行われのだった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
さてさて新章は結婚式のお話から始まりました。結婚式の主役であるシェリルのSSは先日の近況報告にて投稿してありますので、宜しければそちらもご覧くださいませ。シェリルの結婚相手が分かります。(笑)
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