第203話アランを探せ!
「なにぃ!! あの大罪人で大馬鹿者のあのアランが聖女の指輪を持って逃げただとーーっ!! ではこの国が荒れている原因はあいつの、あのアランのせいだと言うのかっ?!」
「は、はい、陛下、そ、その通りでございます……」
聖女の指輪捜索隊として、王族専用遺品庫内を駆けずり回っていた王の傍付きたちや遺品管理官達は、王子であるディランジュールの助言を聞き、自分達の力では聖女の指輪を見つけられないと諦めた瞬間、全責任を今は亡き(と思っている)アランに擦り付ける事にした。
聖女の指輪を保管していたであろう遺品庫の管理にも、そして聖女の指輪が見つからなかった事に対しても、自分達にはなんの責任もない、元王子だったアランが勝手に持ち出しただけ……と、そう報告をしたのだ。
そう短気で厄介者で我儘である国王のイアンディカスに報告する為には、この世界に存在しないであろうアランのせいにするのが一番手っ取り早かったのだ。
聖女の指輪を見つけられなかった事実を報告すれば、下手をしたら自分たちは処刑される可能性もある。
ならば一応イアンディカスの息子であった、第一王子のアランのせいにするのが一番無難だ。
それにアランはもうこの国に戻ることはない……というか死んでいるだろう。
そう、死人に口なし。
アランには、言い訳も、弁明も、釈明も、何も出来はしない。
アランごと聖女の指輪は消えてしまった。
勝手に持ち出した。
そう伝えれば流石にボンクラ王であるイアンディカスでも、今のこのラベリティ王国の状態では、人員を使い、当てのない森でアランを探せなどと馬鹿な指示は出さないだろう。
今現在第七騎士団迄ある騎士団全てが城から出払っており、その上頼りになる宰相さえも王城から離れている状態だ。
何か有った時にイアンディカスが頼れる相手は、どう考えても自分達しかいない。
どれほど愚かな王であったとしても流石に自分を守ってくれる側近を、魔獣が蔓延る状態の外へなど出すわけがない。
そう、普通に考えればそんな事は出来ないはずなのだ。
イアンディカスの側近達や管理官たちはそう考えて「アラン泥棒説」を伝えたのだが、短慮なイアンディカスにそれが通用するはずはないのだった。
「お前達! 今すぐアランを探しに行け! この国の危機を救う為だ! いいか、すぐにだ、すぐ様だぞ! 大馬鹿者のアランは死んでいても構わない! だが、聖女の指輪だけはなんとしても探し出し取り戻せ! 大事な私の命が掛かっているのだぞ! この国が終わるかもしれないのだぞ! さっさと行ってこい!」
イアンディカスの無謀な命を受けた側近や管理官達は押し黙る。
聖女の指輪を探しに行けと言われても、どこをどうさがして良いか分からない。
アランを国端の森へと捨てに行った者もこの中にはいるが、アランが捨てられたまま動くことなく今も尚そこにいるとは考えられないし、普通に考えてとっくの昔に魔獣のお腹の中で消化されている……というのがリアルな話だろう。
それに護衛として騎士団も付けない状態で自分達が王都を出たら、戦いなどとはこれまで縁のなかった自分達が魔獣に瞬殺されるのは分かり切っている。
行かねば斬首、行けば即死。
どちらに転んでも死を逃れられない。
誰かこの危機的状況を乗り切る案を出してくれ!
どうにか適当な事を言って王の機嫌をとりつくろえ!
この場に集まる側近や管理官たちの目があちらこちらへ泳いでいると、「話は聞きましたわ」と王妃であるエリザベーラが、また当然顔で王の執務室へとやって来た。
いつもならば渋い顔をするイアンディカスの補佐官たちも、今日は、今日だけは、図々しくエリザベーラが執務室にやって来たことにホッとする。
王妃の補佐官たちと聖女の指輪を探したこともあり、少しだけ友情が芽生え、同じ境遇を持つものとして、心にゆとりをもって出迎えられたことも大きいが、何よりも誰もいい案が出せない緊急事態の沈黙に、エリザベーラが救いであったことは確かだった。
この時だけは贅沢王妃でしかないエリザベーラが、イアンディカスの妻であって良かったと、この場に居る皆が共感した瞬間だった。
「貴方、聞きましたわ。なんでも聖女の指輪をあのアランがもって逃げていたとか……まったくあの者はどこまで卑しい生まれなのでしょう、情けない、性根が腐っておりますわ。この国の王子でありながら、あの者は私達に迷惑しか掛けない愚か者ですわね。もっと早くに処刑でもしていればこんな事にはならなかったでしょうに……甘い気持ちで森へと逃がしたことがいけませんでしたわ……やはり可愛いディランを殺そうとしたあのアランには、情けなど掛ける必要などなかったのですわね……」
「エリザベーラ!! そんな事は私だって分かっている! だが今更アランを罰する事などできはしない! 聖女の指輪だってどう探して良いものか……」
場所もはばからず、側近たちの前でめそめそと泣き出した頼りないイアンディカスを、エリザベーラは聖母のような表情を浮かべ抱きしめる。
だが、そんな演技をしても、ここにいる側近たちや管理官たちにはなにも響かない。
何故なら王子であったアランを嘘の罪で断罪した人物こそ、このエリザベーラだからだ。
それにアランを簡単に殺してしまってはつまらないと、魔獣が出る森へと捨てろと陰で命令したのも、このエリザベーラだと誰もが知っている。
勿論王であるイアンディカスの命とはなってはいるが、妻の尻に敷かれ、言いなりになっている王を見れば、誰の案なのかは一目瞭然だ。
なのに今更、良き妻、良き母、良き王妃のフリをしたとしても、彼らの目にはうすら寒いとだけしか映らなかった。
側近たちに冷めた目を向けられているとも気付かない王と王妃は、二人だけの愛の劇場を繰り広げた。
「貴方、泣かなくってもいいのですよ、大丈夫、この私にお任せくださいませ」
「エリザベーラ……だが、アランはとっくに……」
「まあまあ、貴方しっかりなさいませ、私達が探しているのはアランなどという愚か者ではございません、聖女の指輪を探しているのですよ」
「それは分かっているが……こ奴らがアランがもって逃げたと……」
半泣き状態のイアンディカスが、「お前のせいだ」とでもいうかのように、側近や管理官たちを指さし睨む。
だがどう考えても国王でありながら、そんな指輪の存在さえも知らなかった、イアンディカスこそが一番悪いのではないか……という叫びたい気持ちは、側近たちは何とか耐えた。
国王でなかったら殴ってやりたい!
こんなやつ魔獣の前に突き出してやりたい!
ここの所の無理難題を振られ過ぎて怒りを我慢出来なくなっていた補佐官や管理官たちは、内心そんな恐ろしいことを考えていた。
「フフフ……ですから、宝を持って逃げたアランなど、もうどうでもいいのです」
「えっ……? どういうことだ?」
「指輪がないのであればまた作ればいい、聖女が来るのであればまた贈らせれば良い……フフフ……ただそれだけのことなのですよ」
「な、なる程!」
いい案出ましたーーー! と喜び合う国王夫妻の傍で、側近や管理官達は只々呆れ、声が出なかった。
自国の防衛が自分達ではままならず、隣国のリチュオル国へと聖女を支援していただくようにお願いする立場でありながら、尚且つ指輪まで贈れと厚かましいことを、この夫婦は言っているのだ。
呆れて物も言えないとはこの事だろう。
だが当然この二人は必ずそれを実行する。
きっと麗しの王子であるディランを一目でも見れば、聖女は文句なしで指輪を贈るとでも考えているのだろう。
それはこの国の一番の問題はこの国王夫妻なのだと、ここに集まる誰もにそう思わせた瞬間だった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)
これでこの章は終わりになります。次章からやっとニーナたちの出番となります。この章でもちらりとシェリーやギデオンが登場しましたが、先ずは皆が今現在どんな感じなのかのお話になると思います。楽しんで頂けたら有難いです。m(__)m
ディランジュール、アランの弟。
イアンディカス、アランの父。
エリザベーラ、イアンディカスの妻、王妃、アランの義母
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