第201話指輪の行方

 ラベリティ王国内は今とても荒れている状態だが、頼りにならない国王がいる王城内でもある大騒ぎが起きていた。


 それは国王であるイアンディカス・ラベリティからの指示により、前王アランジュール・ラベリティと、前々王アランデュカス・ラベリティの遺品の品々を、徹底的に調べ上げていたからだった。


 たった一つの ”聖女の指輪” を探すため、王族遺品管理官を筆頭に、国王イアンディカスの補佐官や側付き達全員が、昼夜を問わず王族専用の保管庫内で働き蜂のように駆けずり回っていた。


 勿論、歴代の王の遺品の目録は残っているのだが、残念ながらその中に ”聖女の指輪” なる物は記載されてはいなかった。


 それにアランデュカス・ラベリティ王の時代、確かに聖女達一行がラベリティ王国に来たという文献は残ってはいたのだが、”聖女の指輪” に関しては何も記載されていなかったのだ。


 エリザベーラ王妃の父、ションシップ前侯爵の思い違いでは?


 子供の頃の記憶……というものでは現実味が足りないのでは?


 そんな言葉が出掛かった王族遺品部の管理官達だったが、とりあえず聖女の指輪がない事実だけをイアンディカス王に伝えた。


 その報告を聞いたイアンディカス王は当然ながら激怒し、管理官たちの管理不足だと責任を問いつめ、案の定徹底的に城内を調べ上げるようにと言ってきた。


「もし見つからなければ遺品管理官達は全員打首にする!」


 国の危機を救うための唯一の品、 ”聖女の指輪” の紛失。


 イアンディカスの命令は当然のことかも知れないが、そもそもその ”聖女の指輪” がどのような形の指輪なのか、そして本当に ”聖女の指輪” という名の指輪なのか、そして本当に存在する物なのか……


 それが分からない管理官達には困惑しか沸かなかった。


 ただでさえ王族に不満が集まる中で、国王の曖昧な品探しの指示。


 それも王妃の父親の 「見たと思う」 「多分あったはず」 という漠然とした記憶を元にした探し物。


 管理官たちだけでなくその家族までも、この理不尽な王の指示に怒りが募る。


 そんな彼らの怒りに焦った人物は、勿論王のイアンディカスや王妃のエリザベーラではなく、彼らの側付きや補佐官だった。


 もし不満が募り国内でクーデターでも起きてしまったら、当然王の側近ともいえる自分たちの命は無いだろう。


 一蓮托生。


 王の側近として選ばれた瞬間から彼らにはそれが付いて回る。


 死なないためにも、地を這ってでも ”聖女の指輪” を探し出し、成果を上げなければならない。


 本当にその ”聖女の指輪” があるかどうかも疑わしいが、自分達の命がかかっている。


 下手をしたら大切な家族までも命を落とす事になるだろう。


 王や王妃、王子がどうなろうが構わないが、国の混乱の原因は自分達には責任は無いのだから死ぬ必要はない。


 王子であったアランを平気で森へと捨てた王や王妃の側近達。


 彼らの心はとうに王族から離れ、自分本意となっていた。





「おい、お前たち、何をやっているんだ? そんなところで遊んでいるのか?」

「ディ、ディランジュール殿下!」


 場内の騒がしさに気がついたからか、それともお腹が減ったからか、探し物作業に絶対に役に立たないであろうディランジュールが、自分の側近達をぞろぞろと引き連れて保管庫へとやってきた。


 前国王、前々国王の遺品の中には国宝と呼べる品もある。


 ディランジュールの側近の中には、そんな品々に怪しい目つきを向ける下品な者もいた。


 もし盗まれでもしたら……


 と、管理官達やイアンディカスの側近たちにそんな不安が過るが、未来の王を無下にも出来ない。


 仕方なく素直に「聖女の指輪を探しております」と伝えると、珍しくディランジュールが何かを考え出した。


 


「もしかしてさー、その探してる指輪って、お爺様の指輪のことか?」


 あてにはならないと、邪魔でしかないと侮っていたディランジュールの言葉に、管理官や側近達は息を呑む。


 ディランジュール殿下にも昔の記憶があったのか? と驚き半分、自分たちの話をちゃんと聞けたんだ! と驚き半分、皆の期待がそんなアホ王子扱いされているディランジュールに集まる。


「うーん……それってあの指輪だろ?」


 とディランジュールが壁を指す。


 そこには歴代の王の肖像画が飾ってあり、ディランジュールに指差された祖父アランジュール・ラベリティ王の指には、幾つもの指輪がはまっていた。


 ディランジュールはトコトコとアランジュールの肖像画の近くまでいき、また指を指す。


 そして得意げに話し出した。


「これだろう? お爺様の大事にしてた指輪って、この角砂糖の指輪だろう?」


 確かに指輪にはめられている宝石は……いや、指輪の魔石は白く、菱形で、四角い角砂糖に見えなくもない。


 幼かったディランジュールならば角砂糖と確実に勘違いしただろう。


 肖像画を見て 「やっぱり美味しそうだよなぁ」 と懐かしそうに語るディランジュールの言葉を聞きながら、管理官達の視線はアランジュール王の隣にあるアランデュカス・ラベリティ王の肖像画へと移る。


 するとその肖像画の中の、アランデュカス王の指にも、同じ角砂糖の指輪が描かれていた。


 もしかしたらディランジュール殿下が言った ”角砂糖の指輪” というものこそが、探している ”聖女の指輪” なのかもしれない。


 自分達の命と、国の存亡を救う指輪が見つかったかもしれない……


 そんな希望が見え出した管理官や側近たちが心の中で歓喜した瞬間、ディランジュールがまた呟いた。


「本当はさー、僕がこの指輪欲しかったんだけどさー、角砂糖なんて高貴な僕には相応しくないってお爺様にいわれちゃってさー、気がついた時には兄上の……いや、あの犯罪者の指に角砂糖がはめてあったんだよねー。まあ、お爺様はあいつには角砂糖ぐらいがお似合いだって思ったんだろうねー。それもそうだろう、だって僕と違って高貴な血が流れていないあいつに似合う宝石なんて、この世にある訳がないんだからねー」


 ディランジュールは自分自慢に満足したのか 「あはは」 と楽し気に笑いながら部屋から出て行った。


 呆然とし何も答えない管理官や側近達に飽きたのかもしれない。


 いや、それともお腹が減ったのかもしれない……


 ただディランジュールが初めて国の為に役に立った、そんな瞬間であったことは確しかだった。


 そんなこの場の英雄となったディランジュールの去り際に、そのディランジュールの側近達が遺品を物色してはいたが、流石にこれだけの管理官達の目の前で遺品をくすねる勇気はなかったようで、そっと元に戻すとディランジュールの後について行った。


 残された管理官や、王と王妃の側近達はまだ動かない。


 いや、動けない……という方が正しいだろう。


 アランを国境端に捨てに行った者達も、この中には多くいる。


 そしてアランを偽りの罪で追放した事は、ここにいる全員が知っている事実。


 もし、”聖女の指輪” とともに、アランを追放した事でこの国が荒れているとしたら?


 もし、その ”聖女の指輪” を使いこなせる人物がアラン殿下だけだとしたら?


 そして無実の罪で森へと捨てたアラン殿下が、死んでしまった可能性はどれほどの確率か?


 王城内での探し物が、気がつけば広大な森での探し物に変わってしまった。


 その上今は国も荒れ、魔獣が蔓延っている状態だ。


 アランを、そして ”聖女の指輪” を、探しに行こうとしても……


 このまま放置しようとしても……


 そして、国王イアンディカスにこの事実を報告しようとしても……


 どれを選択しても自分達の命の危機は高まるばかりだと、この部屋に集まる全員がアランを思い青くなったのだった。






☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

今日もラベリティ王国の王族祭りです。分かり辛くてすみません。てへぺろ。

ディランジュール、アランの弟。

アランデュカス、アランの曽祖父。

アランジュール、アランの祖父。

イアンディカス、アランの父。

私も間違えそうです。ややっこしー。

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