第153話新ベンダー男爵誕生

 役員会議にてニーナの男爵叙爵が決まった翌日。


 直ぐにリチュオル国の貴族たちに向け、王城での夜会の招待状が送られた。


 三日後に王城にて夜会を開くという突然の案内だったが、貴族達はある噂を小耳にはさんでいたため、その夜会にはリチュオル国の殆どの貴族が参加を示した。


 そう、今王都で噂に上がっている天使様の事を、王が何か仰るに違いない。


 リチュオル国の者達は王城に天使が舞い降りたと聞いてから、この日を心待ちにしていたのだ。


 この夜会はどんな事があろうとも行かねばならぬ!


 そんな気合い入りまくりの貴族達が、今宵王城に集まり、遂に国王陛下入場の時間となった。


 皆がワクワクとしながら陛下の入場を見守る中、貴族達は一瞬で笑顔のまま固まった。


 そう、王であるアレクが会場内へ入場するとともに、その後ろからフヨフヨと宙に浮き、後を付いてくる少女がいたからだ。


 余りの驚きに王の入場途中だというのに、会場内にざわめきが立つ。


 宙に浮いている幼い少女……


 という事が常識ではまず有りえない!


 そして何よりも少女のその見た目だ。


 この国には珍しい亜麻色の髪に、その知的な瞳はオーキッド色という、不思議な色合いを持つ美少女。


 それだけでも宝石のような美しさがあるのに、その宙に浮く佇まいが、まだ幼いというのに既に品のある淑女そのものだ。


 浮かべる笑顔も子供の物とは思えない、威厳のような物まで持ち合わせている。


 この子供はただものではない。


 絶対、天使だ!


 天使以外あり得ない!


 ニーナが登場した瞬間、会場中の貴族そう納得をした。




 どうやら宰相であるユージンの噂撒き作戦は、功を奏したようだ。


 心の中でほくそ笑むユージンは、今日は今の所、大きなおっちょこちょいはやらかしていない。


 強いて言えば自宅で扉に手を挟んだぐらいだろうか……


 あ、いや、引き出しにも手を挟んだかもしれない。


 あと、馬車から降りる時もタラップを踏み間違えて、一気に飛び降りたかもしれない。


 そう、たったそれぐらいだった。


 今日はユージンにとってほぼミスの無い、完璧で最高な1日だったと言っても良い。


 その上自分の撒いた種で、ここに集まった貴族を驚かせる事が出来た。


 ニーナの登場に唖然となる貴族たちをアレクの後ろに立ち見つめながら、大満足なユージンなのだった。



「急な夜会でありながらも、今宵大勢の者に集まって貰い感謝している」


 アレクの言葉に貴族たちは頭を下げながらも、視線はニーナに釘付けという器用な事をしている。


 そう、今のニーナからは誰も目が離せない状態だ。


 ニーナは相変わらず宙に浮き、淑女の笑顔を浮かべている。


 貴族達のほうが、魔力量は大丈夫なのか? と心配になるぐらいだ。


 そんな少女の横には、護衛の為だろう、金の騎士アルホンヌ様と、炎の騎士クラリッサ様が睨みを利かせ立っている。


 そしてその一歩後ろでは、クロウ侯爵家の三男坊で有り、あのキャロライン王女の孫でもある、バーソロミュー・クロウが何故か控えている。


 その上、あの大聖女であるシェリル様や、夜会嫌いだと言われているベランジェ様まで少女の傍にいる。


 それだけであの少女がただものではないことは分かるのに、今も尚、余裕顔で宙に浮いている少女。


 普通では考えられない光景を目の当たりにし、貴族達はアレクの挨拶の言葉など、馬の耳に念仏状態だった。


 とにかくニーナの事が気になって仕方がない……


 それが正直な気持ちだろう。


 一瞬ならまだしも、連続で宙に浮き続けるなど大人でも難しいのだから……



「では、今日の夜会の目的を皆に発表させて貰おう」


 アレクはそう皆に声を掛けると、宙に浮いているニーナに一歩前に出てもらった。


 尚更会場中の視線がニーナに集まる。


 そんな中でアレクは、ニーナを貴族達に自慢げに紹介をした。



「こちらに居らっしゃるご令嬢は、あのセラ・ナレッジ様とレオナルド・ベンダー大公の両方の血筋を引いた才能溢れるご令嬢だ」


 有名な聖女セラ・ナレッジと、王家の鏡とまで言われたレオナルド・ベンダー大公の名が出たことで、また会場中がざわめき立つ。


 あの少女が天使であるのも当然だと皆納得顔だ。


 そんな中アレクの言葉は続く。



「こちらのご令嬢、ニーナ・ベンダー様は、今回この国の危機を防いで下さった。その上ご実家のベンダー家は、秘密裏にずっと王家を守って下さっていたのだ。今回その感謝の意味を込め、ニーナ様には男爵位の叙爵を、そしてご実家には大公位を陞爵し、元の地位に就いて貰おうと思っている。ニーナ様のご両親は未だに領地から離れられない程の魔法を駆使し、この国を守って下さっているのだ。私は感謝しても仕切れないほどの恩を感じている。これは役員会議にて正式に決まった事でもある。皆にも異論が無いと信じ、ここに発表させて貰った」


 ざわめき立つ会場からは「天使様有難う存じます」「天使様に国を守って頂いていただなんて」などなど、驚きと感謝の声が上がった。


 ニーナはそんな皆に淑女の礼をすると、可愛らしい声で挨拶を始めた。


「陛下よりご紹介頂きましたニーナ・ベンダーでございます。皆様に幸せが舞い降りますように、癒しを贈らせて頂きます」


 ニーナは立ちっぱなしで疲れているだろう貴族達に向け、父親であるエレクの為に鍛え上げた癒しの魔法を掛けた。


 それはニーナの力を誇示するには持ってこいの魔法であった。


 この国の天使、ニーナ・ベンダー様。


 そう印象付けるのに成功したと言える。


 貴族達は今宵の奇跡を忘れる事は無いだろう。


 きっと明日には ”奇跡の光” などとまた噂が立つはずだ。


 そんな中、ニーナと歳の近い子を持つ親達は今まさに獲物を狙うかのような目で、ニーナを見つめていた。


 天使を我が家に!


 ニーナの幼く可愛い見た目しか知らない愚かな……いや、可哀想な被害者達は、ニーナをどうにかして手に入れたいと、そんな欲を掻き出していた。


 それは自ら火の中に飛び込む行為に近いが、今現在の大人しく可愛らしいニーナしかしらない貴族達が、その危険に気付くはずもないのだった。


 どうか平穏無事に貴族達が過ごせますように……


 そう願いたくなるほど、今宵のニーナは魅力的なのだ。


 ニーナ・ベンダー男爵。


 それはとても甘く魅力的な名に聞こえたのだろう……




☆☆☆




おはようございます。遅くなりましたー。白猫なおです。(=^・^=)

後で人物紹介を投稿させて頂きます。宜しくお願い致します。

このお話でこの章も終わりです。やっとベンダー男爵領に帰れます……王都編がこんなに長くなるとは思ってもいませんでした(;'∀')


アレクは大げさにニーナを紹介しています。

この国に危機を招いたのはミューですが、そんな恐ろしいことを国にお越したのはニーナです。助けるどころか恐ろしくて危険な6歳児ですが……アレクは良いところしか言いません。大人しくて可愛い子だと貴族達が勘違いするのも当然ですね。

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