第152話リチュオル国役員会議②

「面を上げよ」


 アレクの声掛けに頭を上げた役員達は驚いた。


 やはり見間違いなどではなく、天使と思われる美少女が王の横に当然のようにいたからだ。


 そう、それもただ横にいるのでは無い。


 フヨフヨと宙に浮き、王と同じ高さに立って……いや、位置につけている。


 ここに集まったのはこの国の役員達だ。


 なので驚いてはいるが、皆平静をどうにか装い顔には出さないでいる。


 だが、心の中では皆滅茶苦茶動揺していた。


 あれ? あの子、絶対天使だよね?!


 あの可愛子ちゃんは、絶対天使でしょう?!


 だって、普通じゃあり得ない可愛さだもんね?!


 それに宙に浮いちゃってますけどーーー?!


 と、そんな役員達の心の叫びなど、ニーナもアレクも気にすること無く、中央の席へと着く。


 皆が気になる美少女は、席へ着いてもフヨフヨと浮いたままだ。


 多分背の低さから、椅子に座ればテーブルで顔が隠れてしまう事に気を使っているのだろう。


 そんな大人のような気遣いとか、どーかよりも、役員達が気になって仕方がないのは、美少女の長時間平気で浮いていられるほどの魔力量と細かな魔法力だった。


 どう考えてもこの子は普通の子供ではない。


 やっぱり天使だよ!!


 そんな動揺する役員達を見て、ユージンは(してやったり!) と内心でニヤリとしていた。



「今日皆に集まって貰ったのは……こちらにいらっしゃる、天……ゴホンッ、ニーナ様に付いての願いがあってのことだ……」


 役員達はアレクの言葉に頷き、ゴクリと喉を鳴らす。


 きっと陛下は、手に入れた天使様を逃すつもりはないのだろう……


 もしやウィルフレッド殿下と婚約か?


 いや、何か国宝を与え気を引くのか?


 役員達がそんな感じで勝手に脳内予想する中で、アレクは話を続けた。



「こちらにいらっしゃるニーナ様は、ずっとこの国の要であるセラの森を守っていて下さった一族のお嬢様である……」

「セラの森?」


 役員達は口々にセラの森の名を口にする。


 この国に ”セラの森” などと名のつく森が有ることなど、歴史に詳しい役員達でさえ知らぬ事だった。


 陛下は役員たちの困惑する心を読み取り、ニーナ様の家族がこれまで何を守っていたのかを話出した。


 セラの森とは、これまで秘密裏にされていた、とても魔素が強く、魔獣の多い森。


 この国一の騎士であるアルホンヌ様とクラリッサ様が森を調べたところ、凶悪な魔獣がぞろぞろと出てきたらしい。


 その森をずっと守っていた一族こそ、今まだ宙に浮いたままのニーナ様の家族。


 そしてニーナ様の家族は、ある呪いからもこの国を守っていた。


 今は無きある一家が、王家に掛けた呪い。


 それを抑え込んでいたのが、ニーナ様の一族のようだ。


 自分たち役員でさえも知らぬところでそんな事が……


 と皆驚く。


 けれど、ニーナの登場が余りにも子供離れ……いや、人間離れしているためこの話を疑う者はいない。


 そして今回その呪いを根本から取り除く為、ニーナ様からある願いがあるのだと陛下は仰った。



「皆様、初めまして、私はニーナ・ベンダー。レオナルド・ベンダー大公とセラ・ナレッジ様を祖にもつ一家の末娘でございます……」


 レオナルド王子と大聖女セラ・ナレッジの名が出た事で、役員達が息を呑む。


 両名とも役員であれば知らないはずがない程の有名人。


 いや、国中の者が知っていると言える人物だ。


 そう、レオナルド王子といえば、その見た目だけでなく、慈悲深さや、優秀さで、”王族の見本” とまで言われたお方だ。


 今でも国民に愛される王子でもある。



 そしてセラ・ナレッジ様。


 セラ様と言えばこの国だけでなく、世界一有名な大聖女と言える。


 あの神になったと言われるセラニーナ様と、セラ・ナレッジ様こそ、この国が誇れる自慢の聖女だろう。


 その血を引くニーナ様。


 それが分かれば、ニーナ様が未だにこの場で宙に浮き続ける事が出来るのも、皆理解出来る気がした。



「今回、私が王家の呪いを全て取り除きたいと思っておりますの……」


 会場中がザワリと騒つく。


 これまで解けなかった呪いが今更解ける物なのか? と皆困惑気味なのだろう。


 それも当然だ。


 呪いとは、時が経てば経つほど濃く強く醜悪になるものだ。


 だが少女が浮かべるその笑顔には、自信だけでなく余裕さえ感じられた。


 この少女ならば……


 役員たちにそう思わせる何かが、ニーナにはあるのだった。



「呪いを解くにあたり、もしもの事を考え、私をベンダー男爵に叙爵して頂きたいのです」 

「えっ?」

「ベンダー男爵になり、セラの森に掛かる呪いを全て私の身に受けてしまえば、その呪いが今後この国を脅かすことはないでしょう」


 少女の覚悟を聞き役員達は呆然となる。


 こんなにも小さな少女が自分の身を、その命を、この国の為に捧げようとしている。


 やはりこの子は天使だ。


 誰がなんと言おうと天使だ!


 ニーナが父親の呪いを先に解こうと企んだ作戦は、今この国の役員達に感動の嵐を巻き起こしていた。


「それともう一つ……我がベンダー家は元々はベンダー大公家でございました。森を守るため、王都へ来れない間に、知らぬ間に何者かの手によって男爵家に落とされ、そして気がつけば貴族名簿からも消されておりました。これは命を懸けてこの国を守って来た我が家に対し、余りにも酷い仕打ちでは無いかと思っております。私がベンダー男爵になると共に、我が実家であるベンダー男爵家を大公家に陞爵して頂き、これまでの褒賞として頂けたらと思っております」


 6歳児の発する言葉とは思えない話にも、役員達からは反対の声など上がりはしなかった。


 何年も……いや、何十年も、この国を支え続けていた一家。


 役員たちは大公位を陞爵して当然だと思うぐらいに感謝していた。


 ニーナの姿は、もう皆天使にしか見えていないらしい……


 まあ、反対して天使に逃げられでもしたら大変だと思っているのかもしれないが……


 取りあえず、ニーナたちの作戦は思い通りには進んでいる。


 ただ少し、ニーナを見る役員たちの目が熱っぽくなっていて怖くもあった……


 役員達が才能あふれるニーナを欲するのは当然の事なのだろう。



「皆、ニーナ様の話を受け入れてくれた事、この国の王として感謝する。これはニーナ様の願いであるが、我々王族の願いでもある。この呪いは王族にも、そして今後王家に嫁ぐ者にも関わってくるものだ。皆の理解が得られた事、心より感謝する……」


 アレクはそう言って役員達皆に頭を下げた。


 母を亡くしたアレク。


 自分の子や孫に同じ思いはさせたくはない。


 この醜悪な呪いを自分の代で終わらせる。


 アレクはそれこそが自分の王としての最後の仕事だろうと、そう思っていた。



「皆様、有難うございます。では最後に私が呪いを解く力が本当にあるのか……そして男爵位に相応しい力が本当にあるのか……それを見て頂きたいと思います」


 ニーナの言葉を聞き皆が「えっ?」となる。


 アレクやユージンでさえも同じ表情だ。


 そう、ニーナは入場してからずっとフヨフヨと浮いている。


 それだけで充分にニーナが持っている力を示していると言えるのだが、ニーナにとって宙に浮く事など、息を吸って吐く事と変わりはない。


 ニーナはユージンと約束した 「役員たちに力を見せ付ける」 と言う言葉を実行するため、気合いを入れた。


「では、参りますわ!」


 ニーナが気合いを入れた瞬間、ガタガタと役員会議場の部屋が揺れ出す。


 地震なのか? と思っていたら、窓の景色が少しずつ変わるのが分かった。


 それを見て、恐怖から悲鳴を上げる役員もいる。


 そう、今ニーナは、城ごと空中に浮かばせているのだ。


 力を見せるならば、誰でも分かるこれが良いだろうと、ニーナは気軽に考えた。


 残念ながらニーナは、役員達に力を見せつけるどころか、かなりの恐怖を与えていた。


 城を持ち上げる程の魔法使い。


 もうこの少女は人間ではない!


 絶対に逆らってはならない!


 ニーナはこのほんの一瞬の魔法で、役員達を恐怖のずんどこ……いや、どん底へと落としたのだった。



「いかがでしょうか? これで認めて頂けますか?」


 恐怖のあまり声が出ない役員達は、一生懸命首を振って頷き、肯定を表した。


 それを見たニーナの、キラキラ輝くドヤ顔の笑顔が何よりも怖いと感じた役員達なのだった。


 これによりニーナの作戦はある意味成功したようだ。


 ベンダー男爵。


 6歳児の美少女が、史上最年少で爵位を叙爵する事が決まった瞬間だった。



☆☆☆


おはようございます。白猫なおです。(=^・^=)

お話を進めるため、ニーナの男爵叙爵、満場一致で進みましたー。怖くて誰も反論できない……可能性も無くはない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る