第145話ナンデス家の厄介者

「ユージン……ジギスムント・ナンデスを知っているか?」

「ええ、勿論でございます。ジギスムントは私の祖父の弟です。ですが、何十年も昔にフラっと居なくなっておりますし、私は一度も会ったことがございません。年齢的にも生きてはいない可能性もあると思いますが……」


 アレクが宰相であるユージンに問いかけた人物、ジギスムント・ナンデス。


 その人こそ、シェアード侯爵家から妻の実家で有ったクロウ家に引き取られたと、レオナルドの書籍に書かれていた人物である。


 ユージンが「一度も会っていない」と言った事で、ニーナはある確証を得ていた。


 呪いの証拠を消そうと魔法を使った人物こそ、このジギスムントだろうと……


 本人がいない今、”払拭の呪い”の魔法を使った理由はハッキリとは分からないが、ニーナの予想としては、自分の出自を知ったからではないか? と思っている。


 シェアード侯爵家の行為を知ったジギスムントは、家族に害が伸びないようにするためか、はたまた自分の今の地位を失わないようにする為か、それは分からない所だが、とにかくシェアード侯爵家の出身である……という事実を消し去りたかったのではないかと思う。


 それも当然だろう、問題を起こし取り潰しになった家の生まれだと知れ渡ったら外聞が悪すぎる。


 気質がミラと似て自分本位の人間ならば尚更だろう。


 セラの森へもきっと足を運んだのだろう。


 ベンダー家の事も調べた可能性もある。


 ジギスムントは多分、シェアード侯爵家の何かを目にしたか聞いたかしたのだ。


 日記なのか、はたまた一緒に育ったナンデス家の義兄か、それとも義父からか、成人した際に自分の生まれの事を聞いたのかもしれない。


 子を残すな……


 結婚をするな……


 生かされただけでも感謝しろ……


 と、そう言われた可能性もある。


 禁断の魔法、”払拭の呪い” を使えば、自分がどうなるか想像出来なかったのだろうか?


 いや、魔法にかなり詳しく無ければ、この呪い自体使えるものではない。


 つまり断片的に耳に挟んで、それを使ってみた。


 自分の能力を過信した可能性もある。


 そして失敗し、いや、成功したからこそ命を落とした。


 それがニーナの予想だった。



「ユージン……そのジギスムントの事で何か知っていることは有るか?」

「そうですね……ナンデス家の厄介者だった……とだけは以前父に聞いた事が有ります……」

「厄介者? ユージン、わかる範囲で我々にそれを教えて貰えるか?」

「はい、陛下。ジギスムント大叔父は気性の荒い方だった様で、兄で有った祖父も手を焼いていたそうです。大叔父が結婚したい相手が出来た時、祖父は理由があって反対したようですが、大叔父はそれが気に入らなかった……それからすぐに大叔父は姿を消した……父からはそう聞いております」


 ニーナはやはり、と頷いた。


 ただユージンは、何故今更いなくなった大叔父の話題が出るのかと疑問に思っている様だ。


 これがミューならば名推理を爆発させて「敵国の逆襲かっ?!」みたいな事を言い出しそうなところだが、そこはユージンだ、流石この国の宰相。


 天然ドジっ子ではあるが冷静だ。


 ユージンの思考の中では、何故国王陛下とニーナ様がずっと姿を見せていない大叔父の事を気にするのか? と、疑問が湧いていた。


 出されたお茶を飲もうと、砂糖をひと匙入れようとしてユージンは大幅に失敗しているが、考え事をしているユージンはその事に全く気が付いていない。


 そう、ユージンがドジっ子になる時は、大抵考え事をしている時なのだ。


 そして大人味のお茶を飲み、ユージンが行き着いた答えはただ一つ。


 大叔父が何かこの国に迷惑をかけた、それだけだった。



「大叔父がこの国にとって不利益になることをもたらしたのですね?」


 ユージンに問いかけられたアレクは、誤魔化しが効かない相手でもある為素直に頷く。


 そしてニーナが、ユージンに語り出した。


「ユージン、貴方はシェアード侯爵家をご存知で?」


 国の宰相であるユージンはすぐに頷く。


 国の歴史や家名は全て頭に入っている。


 勿論消え去った家もだ。


 ユージンは飲み掛けていたお茶を少し襟元に溢しながら頷き、ニーナに答えた。


「はい、ニーナ様、シェアード侯爵家は断絶された家でございます。家族全員、王家を襲った罪で処刑され、遠縁でない限り子孫はいないかと……」

「ええ、表向きはそうなっております。ですが貴方の大叔父とされているジギスムントこそ、シェアード侯爵家の生き残り。事件当時まだ幼かったジギスムントは彼の母方の実家であった貴方の家、ナンデス家に引き取られたのです」

「大叔父がシェアード侯爵家の出身?」


 ユージンは驚きはしたが、すぐに納得は出来た。


 そう、ナンデス家の人間はどちらかと言うと冷静な考えを持つ人間が多い。


 その中でジギスムントだけは喜怒哀楽の怒の部分が激しかったと、昔父に聞いたことがある。


 父が幼い頃に会った大叔父は、兄である祖父にはまったく似ていなかったそうだ。


 残されている肖像画を見ても、ジギスムントは顔が長く、小顔揃いのナンデス家とは思えない骨格だ。


 兄弟ではなく従兄弟だったと聞けば……それなりに納得出来るものだった。



「そうですか……それで大叔父は一体何をしたのでしょう? そもそもシェアード侯爵家は何をしてお家断絶となったのでしょうか? シェアード侯爵家の事件の内容の詳しい文献は、どこにも残っておりませんでしたので……」


 ニーナは頷き、ここまで調べ上げた呪いの事をユージンに伝えた。


 シェアード侯爵家の娘が王家とベンダー家を逆恨みし、禁断の魔法を掛けた事。


 そしてその呪いを知られない様にする為、ジギスムントがまた別の呪いを掛けたであろう事。


 ユージンはこれだけ衝撃的な話を聞いてもやはり冷静で、過去の親族の行いを恥いりながらも、しっかりと受け止めていた。


 流石宰相と言える姿だろう。


 ヘタレのミューとは違う所だ……




「ニーナ様、それで……このお話を私にした事には理由があるのですよね? この呪いを解く為の何か?……このお話が過去の親族の行いに対し、私に謝罪を求めた訳では無いという事だけは分かっておりますが……」

「フフフ……流石ユージン殿ですわね。話が早くて助かりますわ。実は……呪いを解くために、ユージン殿にお願いがありますの」

「ええ、勿論、何なりと仰って下さい。私に出来る事であればなんでも致します!」


 熱意あるユージンの物言いに、ニーナは可愛らしい笑顔で頷く。


 この場でこの笑顔を見て怯えるのは、ミューだけだ。


 ニーナはフフフ……と可愛くまた笑うと、ユージンに答えた。


「ユージン殿には私がベンダー男爵になる事に、協力していただきたいのですわ」


 ニーナの言った言葉に驚いたのは、ユージンだけでなく、この部屋にいる全員だった。


 ニーナがベンダー男爵になる。


 6歳児にしか見えないニーナが爵位を受ける。


 それは普通では……そう普通の一般的な常識では考えられない事だった。


 だからこそ、ニーナの笑顔に皆が注目したのだった。




☆☆☆



おはようございます。白猫なおです。本日もよろしくお願いいたします。(=^・^=)

ユージンは小鹿のような可愛い顔をしています。年齢はアレクと同じ50歳設定ですが三十代に見えるぐらいの可愛い顔です。少年の頃はさぞかし可愛かったと思います。からかわれていたのは可愛かったからでしょう。その中には本気でユージンの事が好きだった男子もいたでしょうね。ナンデス家は小顔の者が多いです。羨ましい。


そしてジギスムントは、シェアード侯爵家の馬顔を色濃く引いていました。

各侯爵家は動物っぽい顔を設定しています。因みにクロウ家はネズミ顔です。特にミューのおじいさんはネズミ顔がハッキリしてます。キャロライン王女の血のお陰で、息子のバルテレミーは可愛いネズミ顔になっています。孫世代のミューたちもネズミ顔ですがお祖父さんよりは可愛い顔です。特にミューの上の兄、バルテールナーは母親に一番似ているのでハンサムです。以上設定ネタでした。

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