第122話国王陛下との話合い③
「それから、先程も話に出ましたけれど……大聖女神殿へ行った際に、少し司祭たちを注意を致しましたの……」
あれが ”少しの注意” という言葉で済むのは、ニーナの常識の中だけだろう……
一般的には脅し……
いや、天使のような悪魔の姿をした可愛い少女が、ドラゴン並みの魔力で司祭や騎士たちを威圧し、お説教した。
そう、それだけのことだ。
なのであの場に居たシェリルもベランジェも、何も口をはさむことなく話は進む。
アレクもまさか聖騎士たちの剣が天井に刺さったままだとは知らず、口頭注意と受け取り言葉を返した。
「注意ですか?」
「ええ……大聖女神殿が建てられた意味を、あの者達は穿き違えておりました……一度王であるアレクからも注意をして頂けますか? あれではせっかく育った聖女をダメにされてしまいます……もし司祭達に厳しい教育が必要ならば、私とシェリルがたーっぷりと教育して差し上げますわよ」
「そ、それは……申し訳ございませんでした……あのママン……いえ、ニーナ様……大聖女神殿では……あの……一体何が合ったのでしょうか?」
城内での大騒ぎの中で、大聖女神殿で閉じ込められたらような言葉は聞こえたが、実際どのような状況だったのかはアレクには分からない。
ニーナはクスクスと笑い出すと、楽しそうに答えてくれた。
「フフフ……ええ、司祭達が聖騎士を使って私達を一室に閉じ込めようとして下さったのですよ。フフフ……それもたった鍵数個を掛けただけで……シェリルとベランジェをあんなもので拘束しようだなんて……私の弟子を馬鹿にしておりますわ。最低でも騎士100人、結界を張ったミスリルの牢屋、そして檻の中には猛毒を持った魔獣でも用意しなければ、私の弟子たちにはまったく手ごたえが有りませんわ。ねえ、ミューもそう思うでしょう?」
「ひっ……わ、私は……その……閉じ込めろなどとは……」
ニーナの威圧に、王の元補佐官バーソロミュー・クロウこと、ミューは圧倒される。
そう、確かに今日シェリルが大聖女神殿に来るという情報を聞き「足止めしておくように」と司祭たちにお願いはしていた。
だがまさか司祭達がシェリルとベランジェを閉じ込め、攻撃まで仕掛けようとしていたとは知らなかった。
それに、司祭たちの聖女たちを顧みない行動も、全く気付いていなかった。
心優しいグレイスにニーナたち一行のお怒りから救い出され、ホッとしたのも束の間。
ミューはまだまだ極刑を逃れたと安心はできないようだった。
そんな汗だく正座元補佐官のミューを気にすることなく、シェリルが話しだした。
「私が大聖女神殿にいる時は王であるアレクと密に連絡を取ることが出来ました……けれど、まだ若いセーラが大聖女になった事で、司祭たちも気が緩んだのでしょう。勝手なことをやり出したのです……今後は大聖女神殿は王が管理し、秘密裏に状況把握もして頂きたいですわ……」
怒りの聖女スマイルを浮かべるシェリルに、ミューはゾクゾクしたが。
アレクは口を尖らせ、子供の様に意見を述べた。
「えええー、シェリルー、それって国王である私がシェリルの抜けた穴を塞げって事―?」
「まあ、アレク、貴方はこの国の王ですよ、それぐらいの仕事をするのは、当然の事でしょう」
「はあ? 何それ、ママンに大聖女神殿を任されたのはシェリルでしょー。私はすぐにでも王位を譲ってママンに付いて行く気満々なんだからねー」
「何を甘えた事を言っているのです。大聖女神殿は国の守り、今神殿が円滑に運営されていない現状で、貴方が王位を譲るなどあり得ませんわ」
「ズッルー、シェリルズッル、自分ばっかり楽しい思いしようとしてんじゃーん」
「当然でしょう。私はこれまで大聖女として十分にやって来たのです。腑抜けた王の貴方とは違うのですよ」
ギャアギャアと姉弟喧嘩が始まり、ニーナはため息を吐く。
全くいい大人だというの、いつまで経ってもこの子達は変わらない。
ベランジェは当然、シェリルとアレクを止める気など無い。
勿論クラリッサとアルホンヌも我関せずだ。
そしてカルロはニヤニヤし、グレイスはポカンと可愛い顔をしている。
まあこちらの二人はしょうがないとしても……
弟子たちの喧嘩を止めるのはいつも母親代わりのニーナの役目となる。
そう、ニーナの弟子たちの本気の兄弟喧嘩を止められる者など、他にはいないのだ。
ニーナがチラリと一般人のミューに視線を送れば、案の定青くなっている。
先程までニーナ自身もミューに威圧を掛けていた事など棚に上げ、周りの様子を気にすることなく子供の様に喧嘩をするシェリルとアレクに呆れていた。
ニーナは 「はー……」 と大きなため息を吐くと、二人に声を掛けた。
「貴方達いい加減になさいませ、大人げが有りませんわよ!」
鶴の一声ならぬニーナの一声で、シェリルとアレクは押し黙る。
だけどその顔には (自分は悪くないもん!) とハッキリ書いてある。
プイッと顔を背け合う二人にニーナはまたため息を吐き、仕方なく提案を出した。
「仕方が有りませんわね……暫くは私とシェリルが大聖女神殿の様子を見る事にいたしましょう……」
「ニーナ様!」
「ママン!」
「大聖女神殿はもしかしたら、いずれお姉様が通う事になるかもしれません……ですが今の状態の大聖女神殿に、大切なお姉様を預ける気には私はなれません……司祭たちの心を入れ替えさせ、徹底的に教育し直さなければならないでしょう……シェリルも、アレクも、それでよろしいですわね?」
二人は渋々ながら頷いた。
結局ニーナの手を煩わせることに納得は行かないが、それでもニーナと一緒に居られるのならば、どんな手伝いもしようとは二人は思っている。
そんなやり取りを見ながら、元補佐官のミューが気になったのはニーナの言葉だった。
そうニーナは確かに「お姉様」と言ったのだ。
つまりこの恐ろしい6歳児と同じような人物が、まだこの世界には居るかもしれない。
あの噂に上がっていた姫様とはもしや……
そう気が付いた名推理家ミューは、自然と喉の奥をひゅっと鳴らしていたのだった。
「それからアレク……暫く王城に滞在しても宜しいかしら?」
「ええ、それは勿論です! ママンだったら昔の様に住んで頂いても構いません!」
「フフフ……有難う。実はね、少しだけ王族専用の秘密の図書室に用事があるの……」
「何かお調べ物で?」
「ええ、ベンダー男爵家の呪いについて……少し調べさせて欲しいのよ」
「呪い……」
「この呪い……私の予想では、王家に深く関わっているはずですわ。ですから何としても解かなければなりません。これは我が家のベンダー男爵家の為だけでなく、この国の為でもあるのです」
こうしてニーナの一声で、ニーナ一行の王城滞在が決まった。
この後ベンダー男爵家にはドラゴを転移移動させ、王城滞在の連絡をし、そして王都の屋敷にいたシェリーやディオン達も王城に呼び寄せた。
これからニーナの呪いとの闘いが本格的に始まる。
はてさて一体どうなるのか……
こればかりは神にしか分からないだろう。
そして……今、街中では、この国に天使が舞い降りた話が広がっている。
この噂がアランの国ラベリティ王国に届くまで、後もう少し……
果たしてこちらもどうなるか……
守りの弱まったラベリティ王国は無事なのか……
ニーナの頭の中には、ベンダー男爵家立て直しに向けての野望が渦巻いているのだった。
☆☆☆
この章も今日で終了です。次章はお城でのお話になります。(=^・^=)
後で人物紹介投稿します。少しだけですが変化が有りましたので投稿します。
クロウ一家も、グレイス一家も載せました。よろしくお願いいたします。
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