第120話国王陛下との話合い
セラニーナ・ディフォルトの名を聞いた補佐官は固まっていた。
神にまでなったと言われている、セラニーナ様。
その方がニーナ・ベンダー様?
何が何だか分からない。
だが、それを聞いたことで何故国王陛下が「ママン」と呼んでいたのか理解出来た。
そしてシェリル、ベランジェ、アルホンヌ、クラリッサが国王陛下の願いを聞き入れず、城を出て行ったのかも納得だった。
そう、補佐官でさえ知っていた。
セラニーナ様が彼らの師であり、母であり、友であった事を……
そしてそんなこの国の巨星ともいえる方を疑い、戦いを挑もうとしていた自分自身の愚かさに補佐官は改めてゾッとした。
神に喧嘩を売るなど死んで当然の事だった。
良く命があったものだと、自分の運の良さに、いや、許して下さったセラニーナ様の優しさに感動した。
だが、それと共に信じられない程の重大な秘密を知ってしまったと……恐怖が一気に湧き上がる。
セラニーナ様が生きている。
いや若返っていると知られれば、どうなる事か……
きっと国中の貴族からセラニーナ様、いやニーナ様宛に婚姻の申し込みが届くだろう。
いやそれどころか世界中から届く可能性もある。
中にはどうにかしてニーナ様を誘拐しようとアホな事を思いつく輩まで出てくる可能性もある。
どう考えても返り討ちにされるのは目に見えているが、幼い子供にしか見えない今のニーナ様の姿ならば、どうにか出来るだろうと思う愚かな者も必ずいる事だろう。
それはニーナ様欲しさにこの国で戦争が起きる可能性もあるという事だ。
目の前にいる6歳児の価値の高さを理解した補佐官はごくりと喉を鳴らし、また青い顔になっていた。
「アレク……まず初めに、私の事を説明いたしましょう」
人払いがされているアレクの部屋で、ニーナはセラニーナがどうやってニーナになったのかを説明し始めた。
弟子たちも詳しい話は聞いていなかったので、ニーナの話にしっかりと耳を傾ける。
グレイスやカルロも勿論ニーナの不思議体験をしっかりと聞いている。
ただし人払いがされているアレクの部屋に残され、皆の前で正座したままの補佐官は、セラニーナ様の重大な秘密を聞いてしまった事に、益々震えていた。
もしこの秘密を誤って漏らしてしまったら……
自分の首が飛ぶだけでは済まされないだろう……
クロウ侯爵家の家族全員が極刑になることは間違いがない……
例え敵国の間者に掴まろうとも、絶対に話してはいけないこの国の最重要機密だ。
けれど補佐官以外の皆は、そんな恐ろしい話を聞いても何故かご機嫌でニコニコとしている。
この恐怖がもしかして分からないのだろうか?
それに間者ではなく実は一般人だったグレイスなんかは「アハハ、ニーナ様らしいですねー」とお気楽な様子だ。
グレイスは本当にその辺にいる庶民なのか?
王の前でもそれ程緊張しているように見えない。
それに何故かクラリッサ様と手を繋ぎ、時折見つめ合っては二人共頬を染めている。
えっ? 付き合ってんの?
恋人同士なの?
ラブラブなの?
私には恋人もいないのに?! ←ここ大事!!
と突っ込みたくなった補佐官だが、自分の推理力の低さを今日十分に味わった事で、その浅い考えに対し首を横に振る。
そう、とにかく今はいちゃついてる二人より、この秘密をどうするかが大事。
この国を、そしてセラニーナ様を守らなければ!
私こそがニーナ様の守護神に!
力の限り鉄壁となってみせよう!
トラブルメーカーバーソロミュー・クロウは、またまた勝手に自己高評価し、そんな危機察知能力に火をつけていた。
ニーナを守るなど……到底無理なのに……
「それから……私は隣国の王子であるアランデュール・ラベリティを森で拾いました」
「「はっ?」」
ニーナの言葉にアレクと異常思考を起こしていた補佐官の声が揃う。
カルロだけは(そりゃあそうなるわ~)と二人の気持ちをよく理解していた。
ニーナは王子であるアランを森で拾った話をし、今は自分の弟子であり、クラリッサの弟子でもあることを伝えた。
アランがしっかり独り立ちした時は、皆で国へと送り届ける予定であることも話す。
アレクは「そうですか……」と全ての話に納得していたが、補佐官とカルロは同情をしていた。
誰に同情していたかと言うと……勿論それは隣国の王族にだ。
ニーナが攻め込んでくる……(送り届けるだけです)
笑顔でごり押ししてくる。
その恐怖を今日数十分の間に十分に感じた補佐官と、十分に楽しんだカルロ。
アランのふるさとである隣国にも、勿論セラニーナの素晴らしさは伝わっている。
そのセラニーナ様が可愛いニーナの姿でやって来る。
きっと最初はその見た目に騙される事だろう。
そしてそんな美少女ニーナが笑顔を浮かべ、自分達が追い出した王子を弟子だと言って連れてくる。
それもニーナの弟子たち全員連れてのご登場。
もしかしたらその日が隣国ラベリティ王国の最後の日となるかもしれない……
アランの家族は今更だがアランに速攻で謝った方が良いのでは? と補佐官は自分の体験をもとに凄く心配になった。
反対にカルロは心配しながらも、その時は絶対に付いて行こうとワクワクしていた。
まああちらの王族は何もしていないアランを嘘の罪で追い出したので自業自得だ。
だからこそニーナを止める気は補佐官もカルロも勿論起きない。
それに現実的にニーナを止める事など誰にも出来はしないのだった……
「それからですね……アランは私がラベリティ王国の前々王に贈った指輪を持っていますの」
「指輪……でございますか?」
アレクだけでなく皆が驚く。
そんな話は初めて聞いたからだ。
ラベリティ王国には聖女がいない、けれどその守りは完璧で、それはニーナが贈ったその指輪の力のお陰なのだとニーナは説明する。
「あの指輪にはラベリティ王国の平和を願って祈りを捧げておきました……王の魔法の力を補助するものとでも言いましょうか……簡単に言うと、国の結界の力を強くするものですわね……」
それを聞いて皆の顔が青くなる。
政治に興味がないアルホンヌでさえ、その恐ろしさを理解できたようだ。
ただしクラリッサは相変わらずグレイスに夢中だ。
もうイチャイチャは別の部屋でやって下さい。
そう、この国には聖女がいる。
そして大聖女の祈りが国を守っている。
けれど聖女が生まれないラベリティ王国では、王が国を守るために力を注いでいるのだろう。
そしてそれを助けるニーナの指輪とともにアランを国外へ出してしまった。
ラベリティ王国が今どうなっているのかは分からないが、相当大変なことになっているのだけは想像が付く。
そのうちこのリチュオル王国に援助の申し出があるのでは無いかと、ニーナはとっても可愛らしい笑顔で話した。
「フフフ……ねえアレク、その時は私がラベリティ王国へと向かおうと思いますの……フフフ……勿論アランを連れてねー、今から楽しみですわ」
そう言い切ったニーナの笑顔を見て弟子たちは頷き、補佐官だけが「ヒイイ」と声を漏らした。
そう、ニーナの怒りに火を注いだのは自分だけでは無かった。
きっと自分以上の攻撃をあちらの王族は受けるのだろう……
その恐怖が良くわかる補佐官は、隣国ラベリティ王国の王族にまたまたちょっとだけ同情した。
どうか国が亡びる事だけは有りませんように……
と、友好国の無事を補佐官は心から祈ったのだった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます