王城へ
第102話舐められたシェリルとベランジェ
ニーナ達は大聖女神殿を出ると、王都にあるニーナの屋敷へと向かっていた。
「流石にアルホンヌ、クラリッサを力づくで捕まえようと思う愚か者はいないでしょう……そんなことをしたら王都が消し飛んでしまいますからね」
ニーナは皆を落ち着かせようと思いそう口にしたが、王都が消し去ると聞いてチュルリとチャオがソワソワしだす。
その瞬間は絶対に見逃せないと窓の外を見つめ、何か始まるのでは? と期待の籠った目をしていた。
もし王都が消し飛ぶような出来事があっても、ニーナが側にいる限り自分達は大丈夫。
チュルリとチャオにはそんな考えが多少はあるが、それよりも何よりも楽しみが勝っていた。
(あと、二人を捕まえられるとしたら……方法として罠になりますわね……)
アルホンヌもクラリッサもこの国一の騎士と呼ばれるほどになっている、余程のことが無い限り大丈夫だろう。
例えばシェリーやディオンを盾に、あの二人を捕まえる。
その可能性はなくも無いが、先ずシェリーとディオンを捕まえる事自体普通の騎士では難しいだろう。
それにアルホンヌとクラリッサがニーナの大切な家族から目を離すはずはない。
それにもし敵が毒を使ったとしても、野生の勘が鋭いディオンとアルホンヌがいれば、気づかないはずがない。
まー、ニーナが作った美味しい毒なら飲み切ってしまうかもしれないが……
「それにしても、シェリル、ベランジェ、貴方達も舐められたものね。あの程度の鍵の数だけで貴方達を閉じ込める事が出来ると思われるだなんて……フフフ、皆子供の頃の貴方達を知らないからかしら?」
「ニーナ様、私は淑女でございますから、そう思われても仕方がないのですわ」
「私もですよ、紳士ですからねー。まあ捕まったとしても簡単に逃げられる自信は有りますけどねー」
フフフ、ハハハとシェリルとベランジェは穏やかに笑う。
だが、目は笑ってはいない。
自由を奪われようとした……
二人にも怒りが込み上げている。
そう、忘れてはいけない。
シェリルとベランジェもセラニーナが育てたという事を……
今や立派な大聖女となったシェリルは元は貴族の娘だった。
聖女の才能があり、小さな頃に神殿に引き取られた……いや、親に売られた……と言ってもいい。
その為か幼い頃のシェリルは気が強く、弟分のベランジェを揶揄う者がいれば、自慢のこぶしでブン殴り黙らせていた。
年頃になれば言い寄って来る愚かな男どもを、文字通り黙らさせるぐらいの武道の才能はあった。
それにセラニーナと同じく、大聖女として危険な地へ行く事だってあった。
それを知らない若者達は、シェリルは大人しく美しい品のある聖女としか映っていないのだ。
知らぬが仏とはまさにこの事だろう。
そして有名研究家のベランジェ。
実験大好きなベランジェが、誰かにやられてやられっぱなしな訳がない。
攻撃して来た相手は、即ち、ベランジェが何を仕返ししても良い実験相手となる。
幼い頃、ベランジェが 「糞ボマー」 と呼ばれていた事は、今や知る者は少ないだろう。
何を爆破させてそう呼ばれていたかは秘密だ。
ただし、ベランジェは魔獣にも詳しいと言う事だけはお伝えしておこう。
すぐには匂いの取れない物を使った糞ボマー。
ベランジェに攻撃を仕掛けるものは徐々に……いやすぐにいなくなったそうだ。
それに例え城の牢屋に入れられたとしても、この二人なら簡単に抜け出すことだろう。
伊達にセラニーナの弟子を名乗っている訳ではない。
シェリルとベランジェ、この二人も充分に怪物だった。
「結界は問題は無いようね……」
ニーナの屋敷に向かう途中、ニーナが張った結界には問題は無いようだった。
まあここはカルロが所有している屋敷になっているので、その関係でカルロが調べられている可能性もある。
そう考えれば今この屋敷が攻められていない事を見ると、王の補佐官とやらにはニーナの存在は知られていないのだろう。
いや、四人に送った葉書にはキチンとニーナの名前を書いてはおいたが、ベンダー男爵家という存在が分からなかったのかもしれない。
もしかしたら他国の貴族だと勘違いされている可能性もあるだろう。
そう考えるとアランに目立つように買い物させた事も、要らぬ誤解を生んだのかもしれない。
ただし、だからといってシェリルやベランジェを閉じ込め、自分達の思い通りにさせようとするなど許せる事ではなかった。
そう、ニーナは笑顔だがとても怒っているのだ。
「ねえ、ベランジェ、シェリル、アレクには私の下に来る事はきちんと話したのかしら?」
「勿論です。アレクは王になった今も未だに甘えん坊ですからね。話さなければ後で何を言われるか……二人きりの時に葉書も見せましたよ」
「私もですわ。神殿から手紙で連絡を致しました。あの子も良い大人ですもの、私の引退を理解してくれたでしょう」
「そう……一応聞きますけど、自慢したりはしなかったでしょうね?」
ニーナの問いかけにベランジェとシェリルの視線が泳ぐ。
それは自ら 「自慢しましたー」 と言っているも同然だ。
二人のその姿にニーナは大きなため息を吐く。
話に出ているアレクとは、この国の王、アレクサンドル・リチュオル。
母を早くに亡くしたアレクは、セラニーナに教育された。
その為シェリル、ベランジェ、アレクは幼馴染であり、幼いころから姉弟の様に過ごして来た。
一番年下の可愛いアレクを揶揄う。
シェリルとベランジェのそんな困った癖は相変わらずの様だった。
「まったく、貴方達は……どうせアレクの前に葉書を出して「良いだろう、良いだろう」と自慢したのでしょう?」
「ニーナ様、私はそんな事はしておりませんわ、ただ……手紙には国王は自由がなくって大変ね……とは書きましたけど……」
「ニーナ様、葉書はアレクが見たいって言ったんですよー、何で自分には葉書が来ないんだって拗ねるアレクを……揶揄ったりなんかは……ちょっとしかしてないです……」
「ハー、まったく貴方達は……本当にいつまで経っても困った子達ねー……」
ニーナも流石に国王であるアレクを、ベンダー男爵家に来ないかとは気軽には誘えなかった。
それがこれ程大事になってしまったのだろう。
ただし、アレクの指示がどう下へ伝わっているかは分からない。
今日の事を考えると、三人の事情を知らない王の補佐官と言う人物が、先走りしている様にも思える。
だが……
「フフ、私の家族に危害を加えたら、どんな理由があっても許しませんことよ……」
そう小さく呟いたニーナの笑顔は、誰かに見せてはいけない程恐ろしいものだった。
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