第98話おひさな大聖女神殿
「シェ、シェリル様、お待ちしておりましたっ!!」
「皆、元気そうですわね。神殿内は変わりはないかしら?」
大聖女神殿に到着すると、前もって連絡を入れてあったからか、司祭や聖女、そして聖女見習い達が出迎えてくれた。
シェリルが来た事に皆が喜んでいるのが分かる。
これまでニーナの跡を継いだ大聖女として、シェリルが頑張って来た事が皆の慕う様子で良く分かった。
シェリルの後に続き、ベランジェ、チュルリ、チャオ、ファブリス、そしてニーナも大聖女神殿へと足を踏み入れる。
久しぶりの神殿を見て、ニーナは懐かしさを感じていた。
(昔より聖女見習いの人数も増えているわね、シェリルの教育の賜物だわ……)
ニーナの心の中は今、そんな母心で一杯だった。
けれど周りからはニコニコした美少女にしか見られない。
シェリルが連れてきた 「新しい聖女見習い候補かしら?」 と思われている状態だ。
ニーナの本性を知らない聖女見習い達が 「あの子とっても可愛い」 と、ニーナの無駄に可愛い見た目に騙され、うっとりしている中、シェリル達は大聖女の部屋へと案内された。
そこにはニーナがシェリルにお願いしておいた、歴代の聖女名簿がテーブルに置いてあった。
ニーナ達が目当ての物があったと喜び席に着くと、ガチャリと部屋の鍵を司祭が閉めた。
それも前もって準備していたのか、鍵は三重にもされていた。
その上外からもガチャガチャと鍵が掛けられた様な音までした。
ニーナだけで無く、流石に他のメンバーたちもその不穏な様子に気がつく。
シェリルが一体何事かと司祭に話しかけた。
「司祭……鍵を掛けた理由をお聞きしても?」
司祭は三つの鍵を懐にしまうと、青い顔でシェリルと向き合った。
その顔には覚悟の様な物が浮かんでいた。
「シェ、シェリル様、ベランジェ様、どうか目をお覚まし下さい!!」
「はい?」
「ふぇぇ?」
シェリルとベランジェは司祭の言葉に驚く。
多分起きていると思うのだけど、もしかして寝ている様にみえたのかしら? とシェリルは自分の頬をちょっとだけ触ってみた。
ベランジェに至ってはお尻を触り何かを確認していた。
その意味はグレイスならば分かった事だろう。
「シェリル様とベランジェ様には呪いがかけられています! 城の補佐官様がお二人がいらしたら足止めしておけと、それに大聖女神殿はシェリル様がいらっしゃらなければ立ち回れないのです!」
城の補佐官?
と聞いてニーナ達一行の頭に 「?」 が浮かぶ。
それに呪いとはなんだ? とそちらにも 「?」 と疑問が浮かぶ。
もしかしてベンダー男爵家の呪いの事だろうか? と、ニーナはまさか呪いを知っているの? と不思議に思う。
ただしチュルリとチャオだけは、この緊迫した空気の中でウキウキだ。
シェリル様とベランジェ様が呪われているの?!
うわーい! ラッキー! 調べたーい! 見たーい! 試したーい! と二人はニヤニヤが抑えられなかった。
「司祭、私はセーラに跡を引き継ぎました。あの子はどこにいるのですか?」
「セ、セーラ様のお力ではこの国は守りきれず、床に伏しております。我々にはシェリル様がいなければダメなのです! どうかこのまま大聖女神殿にお残り下さい!」
そう言った司祭に声を掛けたのはシェリル……ではなくニーナだった。
それもニッコリと冷たい笑みを浮かべている。
ベランジェ、シェリル、チュルリ、チャオ、ファブリスはサッとニーナから視線を逸らした。
見てはいけない程の恐ろしいものを見てしまった。
そんな気分だったからだ。
「司祭、新しい大聖女が倒れたと仰いましたが、貴方達はそのセーラの手伝いはしたのですか?」
「へっ? て、手伝い?」
シェリルに頭を下げていた司祭は、その顔を上げ6歳児のニーナを見た。
訳の分からない事を言う少女を睨みつけ 「子供が何を言っているんだ!」 と言い返そうと思ったが、何故か言葉が出ない。
シェリルに視線を向ければ、困った様な表情をしているだけ。
てっきりシェリルが、新しく聖女見習いにでもする為に連れて来たと思っていた少女を前に、司祭は何故かブルブルと震えていた。
なんだ? この少女は? 圧が……圧が凄い!
司祭は子供に負けてはならん! と何とか声を絞り出す。
「せ、聖女の、大聖女の仕事は大聖女の物、我々が手伝う様な事は何も……」
「つまり貴方達は何も手伝う事をせず、大聖女になったばかりの娘一人に仕事を押し付けていたと……?」
少女の笑みが一段と美しくなると、司祭は何故か立っている事が出来なくなった。
尻餅を着き、そのまま壁際まで後退りをする。
知らずに「ひぃぃー」と声が漏れるが、下はどうにか漏らさずに済んだ。
得体の知れない何かが目の前にいる。
この子は普通の子供ではない!
司祭はニーナの本気の圧を感じ、その事にやっと気がついた。
「すぐにその子のところへ私を案内しなさい!」
「へっ?」
「新しい大聖女、セーラの下へです! 早くしなさい!」
「ふっ、は、はい! はい、た、ただいま!」
司祭は震える手で何とか扉の鍵を開けようとしたが、恐怖から手が震えすぎて上手くいかない。
焦れば焦るほど手が震えてしまう。
手にも背中にも脇にも汗がたっぷりと湧き出る。泉のようだ。
すると悪魔の少女がふわりと宙に浮き、司祭の背後にピタリとついた。
ひえーーーー! 怖い、怖い、怖いよー! 本物の悪魔がいるーーー!
と心の中で叫んでいると、司祭が鍵を開けられなくても、ガチャリガチャリと鍵が次々に開いていった。
それが益々恐ろしく、司祭はもう放心状態だ。
そんな些細なこと、ニーナが気にするはずもない。
宙に浮きながらベランジェ達に指示を出した。
「ベランジェ達はここで待機していて頂戴、女性の寝室へは連れては行けませんからね。シェリル、貴女は一緒に来てくださる?」
「はい、ニーナ様、勿論でございますわ」
扉の外には騒ぎを聞きつけ大聖女神殿の護衛騎士や、他の司祭までもが大勢集まっていた。
きっと騎士たちはシェリルとベランジェを逃がすなと、司祭が言っていた城の補佐官に指示されていたのだろう。
宙に浮くニーナを見て騎士達は剣を向け、一緒に居た司祭達は青くなった。
だがニーナはそんな騎士達の剣を魔法で簡単に奪い取ると、全て天井へと刺してしまう。
その程度の腕前でニーナに挑むとは……命知らずも良いところだろう。
この場にアルホンヌかクラリッサがいたら……
騎士たちにニーナへ剣を向ける恐ろしさを教え込めたのだが……残念だ。
ニーナは呆然とする騎士たちに優しく(本人視点)微笑んだ。
騎士達がその笑顔を見て青くなったのは言うまでもないだろう。
「フフフ……貴方達のお相手は後でゆっくりとしてあげましょうね。さあ、司祭、サッサと案内して下さいませ」
「は、は、はい!」
恐怖から腰の抜け掛かっていた司祭だが、何とか歩き出す事が出来た。
残されたベランジェ達は仕方なく、尻もちを着き呆然としている司祭や騎士達の世話をすることにした。
チャオがお茶を淹れて、皆を落ち着かせてあげようと、持ち前の優しさを発揮する。
ただ何故か顔がニヤニヤしていたが、その理由は騎士や司祭には分からないだろう。
ニーナの大聖女神殿滞在は、ある一人の補佐官の指示により思わぬ形に進んでいたのだった。
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