第97話先ずは本を借りましょう

 ニーナ達は王都の屋敷に着くと、御者のドラゴにお願いをして、早速王立図書館へと向かう。


 あの『呪い、呪われ、呪、呪い、あなたにピッタリの呪いを授けましょう』というタイトルの、禍々しい本を借りる為だ。


 馬車組はニーナ、ファブリス、ベランジェ、チュルリ、チャオ、グレイス、そして王立図書館の後は大聖女神殿へ行くためシェリルも一緒だ。


 今日こそあの面白そうな本が借りられると、ニーナはご機嫌だ。


 ベンダー家の呪いを解く!


 それはニーナの願いの一つでもあった。


 そして歩いて王都へ向かうのは、ディオン、シェリー、アラン、ベルナール、そしてクラリッサとアルホンヌだ。


 皆お肉を売ったら屋台で買い食いする気満々の様で、既に何を食べようかと、ディオン、シェリー、アルホンヌは話し合っている。


 確かさっき朝食を食べたばかりなのでは?


 と誰もが思うところだが、お肉は別腹、美味しいものは別腹、それを習得出来ている三人には、朝食とかオヤツとか区別などは何も要らなかった。


 目の前に美味しい物があったら食べる!


 そう、三人は食に対して素直なだけだった。


 ただし、食べる量は……シェリーは大人以上、ディオンは大食いの大人以上、そしてアルホンヌは底無し……とだけは伝えておこう。


 そしてこの三人なら大食い大会でも優勝可能だと、そこもお伝えしておこう。



 ニーナ達の馬車は進み、実家へ向かうグレイスを途中で降ろす。


 グレイスはニーナがグレイスの為に作ったスッキリ茶の茶葉を持ち、ご機嫌のニコニコ顔だ。


 クラリッサがこの顔を見たら、きっと大打撃を受けていた事だろう。


 クラリッサの体と心の健康を保つためには別行動で良かったのかもしれない……


 ただし……このままでは発展はしなさそうなので、クラリッサが頑張るしかないだろう。


 そんな鈍感なグレイスは、今日は自宅に両親が居るらしく、お茶の自慢が出来ると喜んでいた。


 素直で可愛いグレイス。


 その笑顔は6歳児のニーナでさえ、誘拐されないかと心配になる程だった。




「では、用事が終わりましたらお屋敷へ向かいます。ベランジェ様ー、おトイレはギリギリまで我慢してはダメですからねー」


 グレイスに手を振り分かれると、馬車は王立図書館へと到着した。


 ニーナは前回の教訓をもとに、今回の訪問ではキチンと馬車から降りる前に姿を消した。


 今日は禁書庫へ入る予定はないのだが、また子供が居ると騒がれては困る。


 いや、面倒だ。


 姿さえ消していれば大丈夫だろうと、ニーナはそんな考えでいた。


 その事自体が人々を驚かせている事にニーナは気付かない。


 そう、姿を消しても喋っては意味がない。


 何かに夢中になると周りが見えなくなる。


 そこはニーナの研究者らしいところの現れだった。




「こんにちはー、予約してた禁書庫の本を取りに来たんだけどー」

「は、はい。べ、ベランジェ様?! えっ? シェ、シェリル様までも?! しょ、少々お待ちください! ただ今準備致しますので!」


 受付の女性は前回倒れた二人とは別人だった。


 どうやらあの後倒れた二人は、恐怖の受付にはもう入りたくないと、部署異動をお願いした様だ。


 ベランジェが一週間後にまた来る事が分かっていたからかもしれない。


 自分達もベランジェ同様、呪いの少女に呪われてしまうと怯えた様だった。


「お、お待たせしました! ベランジェ様、こちらでお間違えないでしょうか?」


 ベランジェは呪いの本を手に取り、ジックリと確認をする。


 そして悪気は無いのだが、この本を読みたがっていたニーナに渡そうと振り返る。


 だけど勿論ベランジェにもニーナは見えない。


 弟子であるベランジェが困っている事がすぐに分かった気遣いが出来る心優しき6歳児のニーナは、手首だけ姿を現すと、「ありがとう……」とお礼を言い、ベランジェから本を受け取り自分の魔法鞄へと大事にしまった。


 帰ったらジックリ読もう、楽しみからニーナは皆に姿が見えないからと安心し、ニヤニヤしていた。


 そう、小さく可愛い白い手だけを現したままで……


「有難う、貸し出し期間は二週間だったかな?」


 ベランジェが受付の女性に振り返りそう問いかけると、何故か女性からの返事はなかった。


 女性はカウンターに突っ伏していて、急に寝てしまった様だ。


(きっと疲れていたんだろう……)


 優しいベランジェは女性を起こさないで立ち去ることにした。


 ただ周りの職員達までもが、青くなり震えている事には気付かなかった。


 ベランジェ様は呪われている?


 呪いの少女に呪われている?


 王立図書館でそんな噂が立つのはもう間もなくのことだった。




「無事本ゲットですねー!」


 チュルリが大聖女神殿へ向かう途中の馬車の中、お気楽な様子でそんな事を言う。


 確かにニーナ達一行には、何の問題も無かった。


 ただし王立図書館側は違う。


 前回と良い、今回と良い、ベランジェを受付た女性たちが皆倒れている。


 もしやベランジェ様の呪いの影響では?


 あの場に居た誰もがそう思っていた。


 次回ベランジェが王立図書館に来る時、受付に立ちたい者はいない事だろう……


 自分達の行動に何の疑問も沸かないニーナ達一行が、そんな些細なことに気がつくはずがないのだった。



「おっ、大聖女神殿じゃーん、相変わらずでけーなー」


 チャオが車窓から見える大聖女神殿を見てそんな言葉を言う。


 ニーナも大聖女神殿へ行くのは久しぶりだ。


 いや、ニーナになってからは初めてだ。


 セラニーナ時代、聖女として才能のあったセラニーナは、周りの期待を一身に背負っていた。


 国中の期待を背負っていたともいえるのだが、勉強や魔法が好きだったセラニーナは、そのプレッシャーに負けることは無かった。


 厳しい修行の上で、大聖女まで上り詰めたセラニーナ。


 そして自身が大聖女になると、厳しすぎる聖女教育にメスを入れ。


 改革し、若い聖女達の未来を守ってきた。


 自由に結婚し、聖女以外の道も歩めるようになったのはセラニーナの功績ともいえる。


 果たして今の大聖女神殿はどうなっているか……


 ニーナは楽しみでもあり、そして懐かしくもあるのだった。


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