第88話セラの森
「ニーナ様、森についての本を見ました。そこで面白い物を見つけたんです」
ベランジェが数冊の本を持ってニーナたちの所へと戻って来た。
そこにはあの ”セラの森” の事が詳しく書かれていた。
【セラの森】
大聖女セラ・ナレッジ様の活躍により名付けられた癒しの森。
そこには多くの生き物が住み、美しい植物が生息している。
足を踏み入れた者の心を癒し、幸福感で包まれる森である。
心のオアシスと言える森でもある。
「セラの森……」
ベランジェが最初に見つけた本を見て、ニーナは自分の推測が正しかったことを理解する。
そしてベランジェは今度は別の本を開いた。
「ニーナ様、見て下さい、同じ図鑑の新しいものにはセラの森の事が全く書かれていない……これがあのユビキタスの森だと私は思うのです!」
ベランジェがドヤ顔で自慢をする。
けれどニーナは既にそこまで推測が出来ていた。
癒しの森だったセラの森が、いつしか負の感情を引き寄せるユビキタスの森へと変わってしまった。
やはり強力な呪いが掛けられている。
ニーナはそう感じた。
「ふー……今日はこれだけ分かれば十分でしょうね。後は王家管理の書物を見なければ考えはまとまらないわ」
「「「王家管理の書物?!」」」
「フフフ……ええ、そう、王族のみが閲覧できる書物があるのですよ」
ニーナの言葉に研究組の目が輝く。
まさにお宝発見っ!
トレジャーハンターそのものだ。
きっと秘密の呪いや、植物、それに不思議な現象の事などもたっぷりとその王家管理の書物には載っているのだろう。
研究組の目はギラギラしたものになっていた。
「それから……後は大聖女神殿へ行って……過去の聖女名簿を調べなければならないでしょう……王立図書館でも聖女の詳しい書物は置いていない様です。ベンダー家の聖女と……呪いをかけた聖女……同じ年代、同じ時期にいた聖女……ベンダー大公がいた時代の聖女……それが分かっただけでも大収穫ですわ」
ニーナは自分に言い聞かせるように話をまとめた。
王城と大聖女神殿。
この二箇所に秘密が隠されている。
それが分かった。
それに隣町の名がクエリであることや、隣の隣町の名がゼロディであることも分かった。
これは大収穫だ。
あの二つの町を、そしてベンダー男爵家を立て直すには名前はとても大切な事。
忘れ去られた町ではなく、未来ある希望溢れた町に変えてみせる。
ニーナは呪いを掛けた古き聖女に打ち勝ち、長年続いたこの忌々しい呪いを解く気でいた。
私の家族を苦しめる者は許しません!
ニーナは笑顔の中に静かな闘志を燃やしていたのだった。
「さて、それではお昼にでも参りましょうか? もうこんな時間ですものね、誰か良いお店はご存知?」
ニーナの問いかけに誰も手を上げない。
お昼を食べに行くのは嬉しいが、引きこもり体質の研究組が街の店に詳しいはずは無く、ファブリスに至っては王都から長年離れていた為、店に詳しい訳がなかった。
ニーナもセラニーナ時代の若い頃ならばいざ知らず、今の王都に詳しいはずが無い。
「グレイスが居てくれたら違ったのかしら?」
「うん、ニーナ様ー、グリグリならどっかいいお店知ってた思うー」
「グレグレは街っ子だもんなー」
「ええー、ちょっとー、グレイスは私の補佐官だからねー、皆んな勝手に使わないでよー」
そんな会話をしながらニーナ達は取り出した本を片付けていく。
ベランジェの片付けは雑な為、ファブリスが仕方なくお手伝いだ。
チュルリとチャオも本が逆さになっていようが気にしない。
場所さえ合っていれば問題なし。
研究組の片づけなどそんな物だった。
そしてちゃっちゃっと片付けると、出口に向かう。
「あれ、ニーナ様、姿消さないんですかー?」
「あら、そうね。やっぱり子供がいたら怒られちゃうわよね?」
ニーナは禁書庫の扉を開ける瞬間に姿を消した。
ただチャオが扉を開けたと同時だった為、新しく座った受付の女性には子供が一瞬だけ見えた気がした。
それも宙に浮く幼女。
新しく座った受付の女性も、研究組が受付に近づいて来るとガタガタと震え出した。
「ああ、すまない、こちらの本を借りたいんだが」
ベランジェはニーナに頼まれた『呪い、呪われ、呪、呪い、あなたにピッタリの呪いを授けましょう』というタイトルの本を受付へと差し出した。
その本のタイトルを見て女性は「ひっ……」と声を上げる。
呪い。
あの幼女は呪いの幼女。
自分の前に座っていた女性も呪いを受けて倒れてしまった。
もしや自分も呪われる?!
そう思うと女性は今すぐ逃げ出したい気持ちになった。
「ベ、ベランジェ様……申し訳ありません。こちらの本は危険書籍となっている為、持ち出し不可となっております」
「「「えー」」」「まあ、それは困りましたわ……」
受付の女性はビクリとした。
今確かにベランジェと一緒にいる男性ばかりの声の中に、女性の、いえ、女の子の声が聞こえた気がした。
どう見ても女の子などこの場にはいない。
もしかして自分は既に何かに取り憑かれている?!
そう思うと女性は寒気までしてきた。
「あ、あの、で、ですが、ベランジェ様……陛下からの承認が降りれば、その、貸出も可能です……」
「えっ? そうなの?」
「は、はい! この書類を書いて頂いて提出下さい。早ければ一週間後には貸し出せるかと……」
「一週間?」「一週間?」
女性はベランジェの言葉に頷いたが、また少女の声が聞こえた。
絶対に聞こえた。
間違いなかった。
寒くないはずなのに震えは止まる気配はないようだ。
ベランジェはそんな女性の様子など気付きもせず、サササッと書類を書き上げる。
こう言った仕事は手慣れたもので、ベランジェは自分の興味が有る事だけは素早い。
女性に本の事を良く頼み、書類を提出すると、また一週間後に図書館へ来る約束をして、ベランジェ達研究組一行は図書館を後にした。
「申請よろしくお願いしますわね」
耳元にそんな少女の声が聞こえた受付の女性は、この後悲鳴を上げ気を失った。
呪いの少女ニーナの通るところに恐怖あり。
この後暫く受付に着きたい職員は出なかったそうだ。
それも致し方ない事だろう。
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