第80話王城は大騒ぎ?!

 リチュオル国の王城内に激震が走った。


 それはこの国の有名人である、研究家のベランジェ、大聖女のシェリル、そして金の騎士アルホンヌ、炎の騎士クラリッサの四人が消えてしまったからだ。


 確かに四人とも仕事を辞めるとは報告していた。


 けれど各部署の役員たちはそれを引き留めていたし、勿論承諾もしてはいなかった。


 きっと母のように慕っていたセラニーナ・ディフォルトが亡くなり、四人とも心の中に大きな喪失感を味わっているだけで、少し休めばすぐに復帰するだろう……


 と役員たちはそう甘く考えていたのだ。


 国王陛下からも「城に残って欲しい……」と、四人には直々に声が掛けられていたらしい。


 だからこそ役員たちは安心していたという事もある。


 まさか国王陛下の願いを断る人物がいるだろうなどと、誰が思うだろうか……


 だからこそ今城は大騒ぎになっていた。


 何故なら四人を見張っていた間者達が、全員の姿を見失ってしまったからだ。


 こんな事は前代未聞。


 公に出来ないほどの国の恥。


 もし四人全員が他国へと流れていたとしたら……


 下手したらリチュオル国は滅びてしまうかもしれない。


 あの四人にはそれだけの実力が有り。


 その上国民からも慕われている。


 下手したら国王よりもよっぽど国民に愛されている事だろう……


 勿論そんな事は誰も口に出したりはしない。


 もし国民から絶大な人気を誇るあの四人がこの国に不満があって出て行ってしまった……などと噂にでも上がってしまったら……


 暴動が起こり、国の崩壊は確実だといえるだろう。


 その為各部署の重要人物達が王の下に集まり、今まさに緊急会議を開いていた。


 ベランジェ、シェリル、アルホンヌ、クラリッサ。


 この四人を探し出し、絶対にこの国へ帰って来てもらわなければならない。


 ニーナの完璧な魔法でベンダー男爵家へ連れて行かれた四人を探し出すなど、到底無理な話だが、彼等は国の威信にかけて捜索隊を結成しようとしていた。



「それで呪い課の課長、君の所の職員がベランジェ様に付いて行ったようだが、その事について何か聞いているか? どんな些細な事でも良い、我々に情報をくれ」


 呪い課の課長は来たくもない会議に無理矢理引っ張られて来られた。


 ベランジェがいなくなった今、研究所はとても忙しい。


 その上呪い課は、課のエース二人が抜けてしまった。


 こんな意味のない話し合いをするぐらいならば、研究をしていたい。


 だってあの四人が本気で逃げたとしたら、見つけられる者などここにいる訳がない。


 呪い課の課長はその事が十分に分かっていたため、この会議はただの時間の無駄使いだとそう思っていた。


 だが城で働いている以上、呼ばれたら出ない訳にも行かない。


 特に国王陛下参加の会議とあっては、大事な研究費が削られてしまわないようにするためにも、課長として出るしかないだろう。


 なのでやる気のない呪い課の課長の会場入りは勿論ギリギリ。


 質問は一番最初にと条件迄付けての参加なのだが、余りにも愚かなことばかり話す参加者たちに、課長は辟易していた。


(あーあー、俺もベランジェ様に付いて行けばよかったなー)


 なーんて事を考えながら質問を受けた呪い課の課長は、面倒なのであった事そのままを、ここに集まる皆に伝える事にした。


「はい、えーと……チュルリ……あー……ベランジェ様に付いて行った我が課の一人ですが『やったーやっと出発だー。うっしっし、まだ見ぬキノコちゃーんまっててねー』といっておりました」

「……きのこ……?」


 呪い課の課長はチュルリの物まねをこの会議場で披露した。


 けれど残念なことにチュルリを知っている者がこの場にはほとんどおらず、笑いを取ることは出来なかった。


 呪い課でチュルリのものまねを披露すれば、大爆笑だったのに……と残念がりながら、呪い課の課長は素直過ぎる話を続けた。


「それからもう一人、チャオの方ですが『風呂入ったのいつだったかなー? まあいっか、ベランジェ様よりは綺麗だろう』と言っておりました。グレイス君のお陰で、チャオの週に一度だったお風呂タイムが、なんと週に三回に増えたんですよ! いやー、彼は本当に優秀だ。もっと早く出会いたかったですねー」


 アハハハハと呑気に笑う呪い課の課長の姿に、皆が頭を抱える。


 キノコの次が風呂の話。


 確かに些細な情報でも欲しいと言ってはいたが、出てきたのはクソどうでもいい話だった。


 だがここでグレイスの名が出て議事進行役はハッとする。


 そう第16事務課の青年グレイス。


 彼が受け取った手紙が事の発端だという情報は、流石に掴んでいた。


 なので進行役はその事を、まだ一人楽しそうに笑っている呪い課の課長に聞くことにした。


「ゴホンッ、あー……そのグレイス君が呪い課へ葉書? を持っていったそうだが……課長、その送り主の名を、君は覚えているかね?」

「名前? 名前ですか?」


 呪い課の課長は、この世に名前が有る事を今初めて知ったかのようにポカンとした表情になった。


 そして腕を組み、呪い課の課長が考える姿を会場中の皆が見つめる。


「えーと……確か ”に”? そう、”に” が名前に付いたようなー……な、に、ぬ? あー……なーに? なーに・いってんだー? そう、確かナーニ・イッテンダーって名前だったと思います」

「ナーニ・イッテンダー? ほう……貴族の女性か? その者が何者なのかは君は分かっているのかね?」

「いえ、私はまったく。緊急の仕事があったので、残念ながらベランジェ様についてはいけなかったのでねー。あの日どっかのバカな課が、呪いの掛かった箱を開けてなければ一緒に行けたんですけどね! まったく危険って書いてある箱を開けるだなんて……」


 思いだし怒りを始めた呪い課の課長を、皆が苦笑いで見つめる。


 そのバカな課の課長もこの場にはいるからだ。


 だがしかし重要な証言が手に入った。


 そう、 ”ナーニ・イッテンダー” 。


 葉書の送り主の名がハッキリと分かった。


 それも家名持ちだ。


 つまり貴族の女性。


 そのイッテンダー家を調べれば、すぐに四人の行方は分かるだろう。


 進行役の王専属補佐官は、四人を見つけるのも時間の問題だろう……と、そう気軽に考えていた。


 残念な事に進行役は知らなかったのだ。


 呪い課に居る者が、人の名前を覚える事が苦手な事を……


 ニーナ・ベンダー……


 その名はナーニ・イッテンダーに変換され、四人の有名人の捜索は益々困難なものになっていくのだった。



☆☆☆



おはようございます。白猫なおです。進行役(王補佐官)と、呪い課の課長には一応名前が有ります。そのうち出そうかなーと思っております。バーソロミュー・クロウとブラッドリーです。(=^・^=)

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