第73話王都の武器屋②

 アルホンヌ御用達の武器屋で無事にディオンの剣を購入出来たので、次に向かうは勿論クラリッサ御用達の武器屋だ。


 クラリッサは魔法騎士の為、魔力を流しやすい魔鉱石から作られた剣を使う。


 魔法が得意なアランにもきっとそれが合うだろうと、クラリッサはそう思っていた。


 そしてアルホンヌの武器屋から歩いて数分、先程の武器屋とは違い、高級感丸出しの武器屋に着いた。


 魔法剣は高い。


 それは作り手が少ないからと言う理由もある。


 そして宝石と同じ様な扱いになる為、この武器屋も剣をショーウィンドウに入れて飾ってある。


 初めて入る高級武器屋にディオンは目を輝かせる。


 宝石が美味しそうなお菓子に見える。


 そんな姿がまたまた可愛くて、アルホンヌとクラリッサの心臓を鷲掴みだ。


 まだ出会って半日足らず。


 だがクラリッサとアルホンヌは、すっかりディオンの可愛さに骨抜きにされていた。




「これはこれはクラリッサ様、ようこそお越しくださいました」


 とても武器屋の店主とは思えない品の良い店主が、カウンターから出てクラリッサに頭を下げる。


 この国一の魔法騎士、クラリッサの事を知らぬ者など魔法剣の武器屋にはいない。


 それにクラリッサはこの店の上客、気がつけば店員達までもクラリッサ達を囲む様に集まっていた。


「やあ、店主、久しぶりだね。今日はこの方の剣を探しに来たんだ」

「それはそれは、クラリッサ様のご友人にいらしていただけるとは、願ってもない光栄でございます」


 そこで頭を下げながらも、店主はサッとクラリッサと一緒に来た客達を見る。


 先ずはアルホンヌ。


 クラリッサに負けず劣らずの有名人。


 金の騎士。


 武器屋の店主がそれを知らない訳がない。



 そしてカルロ。


 便利屋だと名乗っているが、闇ギルド長なのは周知の事実。


 敵に回してはいけない人間。


 それがカルロだろう。



 そして騎士らしい青年(ベルナール)。


 アルホンヌかクラリッサの補佐だろうか?


 緊張からか眼光鋭い気迫のこもった様子だ。


 きっと上司を守るため気合が入っているのだろう。



 そして滅茶苦茶可愛い美少年。


 アルホンヌの弟か?


 いや、高位貴族の子息だろうか?


 アルホンヌがあれだけ目尻を下げていると言う事は、下手したら王子なのかもしれない。


 縁を作っておくほうが店の利益になる。


 出来るだけ良い印象を持っていただこう。



 そしてクラリッサに紹介された客。


 どっからどう見てもお忍びの王子。


 もしや隣国の王子辺りが、お忍びで買い物に来たのだろうか?


 それこそ太いパイプを作るべき。


 絶対に逃がしてはならない客。


 店主は一瞬の状況判断でここまで見抜いていた。



 そう、これは下手な物は売る事は出来ない。


 王子に適当に見繕った物など渡しては、店の沽券に関わる。


 店主は従業員達にサッと目配せをし(上客だ! 全員全力で掛かれ!)と指示を出したのだった。


「では皆様、こちらへどうぞ」


 店主はすぐにクラリッサ達を個室へと案内する。


 勿論店一番の応接室だ。


 そしてすぐに街一番のお茶とお茶菓子を持ってこさせたのだが、ミニ王子が呟いた小さな声が聞こえた。


「ニーナのお茶とお菓子の方が美味しい……」


 その言葉に金の騎士のアルホンヌが、ニヤケ顔のまま無言で頷いている。


 ニーナとは?


 もしや店の名前か?


 いや、王子のお抱えのシェフか?


 笑顔を崩さないまま、店主は(ニーナ、ニーナ、ニーナ……)とニーナの呪文を頭の中で何度も呟いていた。


 そんな中でも、店主は仕事に手を抜くことは無い。


 従業員に幾つかの剣を持ってこさせ、早速アランに魔法剣を合わせていった。


「では、お客様、コチラの剣をお持ち頂けますか?」

「ああ……」


 アランは渡された剣を握る。


 剣は少しだけほんのりと光ると、またただの剣に戻った。


「うーん……これではない……」


 そう呟くと店主はまた次の剣をアランに持たせる。


 次の剣は火花の様な物がパチパチと上がると、また大人しく普通の剣に戻った。


「うーん、これも反発しますねー……いや、でん……ゴホンッ、お客様の力に負けてしまうようですね……」


 うーん……と呟くと、店主はまた別の剣をアランに持たせる。


 何度かそれを繰り返してみたのだが、店主は納得しない。


 どうしても王子にはしっくりくるものを合わせたい。


 それは魔法剣販売の武器屋の店主としてのプライドでもあった。



「難しい、非常に難しい方だ。素直さの中に情熱があり、そして闇と落ち着きを持っている。それでいて愛にも溢れている……うーん……」


 店主は何かをぶつぶつ呟くと、立ち上がり部屋の中をウロウロし始めた。


 ディオンが「アレも反復縦飛び?」なんて言うからアルホンヌがお茶を吹き出す。


 だが店主はそんな事は目にも耳にも入っておらず、ハッとすると「アレだ!」と行って店の奥へと駆け出して行った。


 その間に別の従業員がアルホンヌが零したお茶を拭いてくれる。


 カルロがディオンにそっと耳打ちし、出された菓子はこの街一の物だったんだぞと教えると、同情する様な心配する様な、また新しい可愛らしい表情をしていた。


「この街の人たちって本当に美味しいお菓子知らないんだねー……」


 そう呟いた声はバッチリ従業員の耳に入っていた。


 もしかして異国の王子?


 と従業員までもディオンの事を美少年王子だと勘違いしていた。


「お客様! これは如何でしょうか?」


 店主が持って来た剣は、真っ黒で、騎士であるアルホンヌやクラリッサでさえ初めて見る物だった。


 そしてアランがそっとその剣に触れると、剣は心臓の様にドクンッと脈打った。


 そして赤く強く光ったと思うと、シューと音を立てて元の黒い剣へと戻った。


 まるで剣がアランを主として認めたかのようだった。


「店主殿、この剣は不思議と手に馴染む。まるで体の一部、そう、私の心臓にでもなったみたいだ」

「おお! やはり私の見立ては間違っておりませんでした。実はこれはドラゴンが飲み込んだ魔鉱石から作られておりまして……」

「ドラゴン?! ドラゴンなの?!」


 店主の言葉を聞いて叫んだのはアラン……では無く、ディオンだ。


 ベンダー男爵家の兄妹の前でドラゴンの話をすれば食いつくのは当然で、その破壊力ある可愛い美少年の笑顔が眩し過ぎて、店主は思わず「ウッ」と胸を押さえ目を細めた。


「わぁー! アラン! 絶対これだよー! ドラゴンだって! やったね! 皆でドラゴンだ! 俺とお揃いだねー!」


 手を叩いて喜ぶディオンの姿に皆目尻が下がる。


 いや可愛すぎて眩しくって仕方がない。


 アランはそんなディオンの言葉に頷き、剣との相性に納得していた。


「店主、私はコレに決めた。コチラを貰おう」

「ハッ、畏まりました」

「クラリッサ、良き店を案内してくれた。礼を言う」

「過分なお言葉、有難き幸せにございます」


 興奮の余り素が出たアランだったが、この店で驚く者は誰も居なかった。


 アラン王子のお忍びでのお買い物は、まったくお忍びになっていない。


 隣国の王子が来た。


 果たしてこの噂はどう広がるのか……


 その上ミニ王子も来ていた。


 王子が二人も来た店。


 この武器屋の株が益々上がるのは当然だろう。


 そしてそんな噂は街中にあっと言う間に広がっていく……


 そんな事とはつゆ知らず、アランも無事に? 武器を手に入れた。


 こうして本人の意図せぬところで、ドラゴンさん尊敬隊の一員にアランもなれたのだった。

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