第72話王都の武器屋
今、ディオン、アラン、ベルナール、そしてアルホンヌ、クラリッサ、カルロのメンバーは王都の武器街に来ていた。
そう、ディオンとアランの教育を任されたアルホンヌとクラリッサは、ニーナの屋敷で二人の携えていた剣を見て驚いた。
ディオンは木刀……と言うよりはただの棒切れを武器にしており、アランの方はどう見ても儀礼用だと思われる剣を使っていた。
これでは戦うのは無理だろう……
と実戦を知っている騎士ならば誰もがそう思うところだが、そこはニーナの家族。
「二人はグリズリーを倒せるぐらいの実力はありますのよ」
とニーナがそれはそれは嬉しそうに自慢した。
熊魔獣グリズリー。
それはとても狂暴な魔獣だ。
それをただの棒きれと、儀礼用の剣で倒すだなんてっ!
ニーナの言葉にアルホンヌとクラリッサの目が光る。
これはしごきがいありそうだと、この国一の騎士二人をニーナは本気にさせていた。
そしてニーナは自分の言葉が騎士二人のハートに火をつけている事など気が付かず、ヒョイッと二人に……いや、そこは安心できるカルロにお金を渡した。
ディオンとアランに合う武器を、騎士のプロの二人に見繕って貰いたい。
見た目だけは可愛らしいニーナに、上目遣いでそう可愛くお願いをされた二人は……
ニーナ様に試されている!
騎士としての自分達の価値を、成長を試されている!
とそう感じ、アルホンヌとクラリッサの瞳には熱い炎が益々燃え上がった。
これを街に連れて行くのか……
カルロだけは二人の熱に胃が痛む思いをしていた。
「ディオンお兄様は、どんな技が得意なんだ?」
アルホンヌに聞かれ、ディオンは考える。
得意な技は……火、水、雷、魔法は全部均等に使える。
だけど得意と言われれば、それは勿論素早く動く事が何よりも得意だった。
「アルホンヌ師匠。俺は、動く事が得意です。魔法は持ってる属性は普通に? 使えると思います?」
「……」
アルホンヌは黙っていた。
いや、師匠と呼ばれ、感動して言葉が出なかった……というのが正解だ。
これまで騎士の後輩は沢山いた。
だけど師匠だなんて呼ばれたのはアルホンヌでさえ初めてだった。
それも滅茶苦茶可愛い男の子に!
アルホンヌは今感動に打ちひしがれていた。
「あ、あの? 師匠? アルホンヌ師匠?」
「あ、ああ、ディオンお兄様、申し訳ない。少し考え事をしてしまった。ディオンお兄様はどうやら俺とタイプが似ている様だ。任せろ、俺が必ず良い武器見つけてやるからな!」
「はい! 師匠、宜しくお願いします!」
可愛い!
可愛すぎる!
ディオンの無駄に高すぎる顔面偏差値は、金の騎士と呼ばれる甘いマスクの男まで虜にしたのだった。
ベンダー男爵家長男恐るべし!
「アラン様はどの様な魔法を使われるのですか?」
クラリッサも、アルホンヌと同じ様に自分の弟子となったアランに質問をする。
ニーナからアランの事情を簡単に聞いたことで、本当の名でも、殿下呼びもしていない。
王子としてではなく、一人の騎士の卵としてアランを見る。
クラリッサはそう決めていた。
「はい、クラリッサ様、私はディオンの様に縦横無尽には動けませんが、炎系の魔法はニーナ様とファブリスに鍛えられています。なのでそちらを活かせる剣が欲しいと思っております」
「他の属性をお聞きしても?」
「はい、後は無と闇を持っております」
「……無と闇……」
クラリッサはアランの話を聞いて、流石王族の血筋だと思った。
無も闇も魔力が強くなければ出ない属性だ。
鍛え甲斐がある。
魔法騎士としてクラリッサの血が煮えたぎった瞬間だった。
馬車の中、そんな会話をしていると先ずはアルホンヌ御用達の武器屋へと着いた。
アルホンヌは可愛いディオンの手を取り、意気揚々と店内に入っていく。
そしてアルホンヌが気軽な感じで「おーい、オヤジー」と声を掛ければ、店主らしき頑固そうな男性が店の奥から出て来た。
「なんだ、アルホンヌか、どうした? 刃こぼれでも起こしたのか?」
相手がアルホンヌだと分かると、頑固そうな店主の顔に笑顔が浮かぶ。
アルホンヌの腕や腰を触り、話しながらも変化が無いか見ている様だった。
そしてアルホンヌの剣を調べ出したところで、アルホンヌがディオンを前に出した。
「オヤジ、俺の弟子のディオンお兄様だ。剣を求めてやって来た、良いやつを用意してくれるか」
「はっ? 弟子でお兄様? アルホンヌ、お前酒でも飲んでんのかー?」
口では文句を言いながらも店主はすぐにディオンの側に来て、手や腕、それに背中、腿、脹脛などを丁寧に触っていく。
なのでディオンは厳ついオッサンにベタベタ体を触られながら挨拶をした。
「えーと、武器屋のご主人様、初めましてディオン・ベンダーです。宜しくお願いします、うははははっ」
店主は「おう」と返事をしながら、今はディオンの靴を脱がし足の裏を触っていた。
ディオンの笑い声はくすぐったいから出たものだ。
そんな姿も皆にキュンを与える。
従業員達までディオンを見ては頬を染める。
ベンダー男爵家の長男の可愛さは、どこでも無制限のようだ。
そして店主は何やらうんうんと納得すると、靴を履き直したディオンに声を掛けた。
「よーし、ディオン坊、ジャンプしてみな」
「えっ? あ、はい」
ディオンは軽くジャンプし、天井に一旦足を着けるとクルッと回転して戻って来た。
店主はそれを見て「おー」と喜び、また違う事を指示してきた。
「よし、ディオン坊、今度は反復横跳びしてみろ」
「はんぷくよことび? えーと、ご主人様、俺それ分かりません」
店主はディオンの言葉を聞くと、右へおっちら、左へおっちら、とても反復横跳びには見えない動きをした。
恰幅の良い体のお尻がプリプリ振れてしまうのはご愛嬌、けれど純粋なディオンはそれをしっかりと再現した。
右へぴょんぴょん、ぷり。
左へぴょんぴょん、ぷりり。
可愛い。
可愛過ぎる。
アルホンヌとクラリッサは口元を押さえ悶絶した。
冷静なカルロでさえ、しゃがみ込み何かと戦っている。
そして店員もたまたま店に来ていた客までも、貰い矢を受けてキュン死寸前だった。
ベンダー男爵家長男恐るべし。
「よーし、分かった! ディオン坊に合う剣を今持ってくっからよー!」
なんだかんだとディオンを動かしまくった後、店主はそう言って店の奥へと入って行った。
その間アルホンヌとクラリッサは師匠という立場を使い、ディオンに反復横跳びをせがんでいた。
何度か可愛らしい反復横跳びをディオンが終えると、店主が大きくて立派な剣を持って来た。
「ディオン坊! ドラゴンの牙で作った剣だ、ホレ、持ってみろ」
「えっ?! ドラゴン?! ドラゴンの剣?!」
ドラゴンと聞いてディオンの瞳は輝く。
ベンダー男爵家三兄妹は、ドラゴンの大ファンだ。
憧れのドラゴンさんの剣と聞き、ディオンは嬉しくってしょうがなかった。
「わぁー、不思議ー、重いのに軽ーい!」
ディオンの野生の感は素晴らしい物で、ドラゴンの剣は軽いが、その一振りはとても重い。
ただしそれは剣との相性が良い者だけが感じることが出来る事。
その辺の騎士がこの剣を持ったとしても、扱いに困り、戦いぬくことは出来ないだろう。
「ご主人様ー。俺この剣にします! すっごくカッコイイもん!」
こうしてディオンの剣は無事に決まった。
ただしそのキラキラ笑顔は店内中の人間を攻撃したのだった。
ベンダー男爵家長男恐るべし!
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