第68話カルロからの緊急連絡

 それはある日突然やって来た。


 グレイスがベランジェの研究室の掃除を終えて、お茶とお菓子でも出して、作業中のベランジェ、チュルリ、チャオを労おうかと思っていると、速達の郵便屋がやって来たのだ。


 それも速達の中でも一番金の掛かる超高速便。


 そう、超高速便は金貨一枚も掛かるため、一般ピーポーのグレイスなどは使った事など一度もない。


 その超高速便は顔パスで事務課を通り抜け、ベランジェの研究室までやって来た。


 グレイスは直ぐにその郵便屋に駆け寄った。


「便利屋のカルロ様からのお手紙でーす。えーと、王城研究所のベランジェ研究室のベランジェ様宛です。こちらでお間違え無いですかー?」

「は、はい、間違い有りません!」

「では、こちらに受け取りのサインをお願いしまーす」


 グレイスはササッとサインをして手紙を受け取る。


 郵便屋はまだ配達があるのか「どーもー」と挨拶をすると駆け出して行った。


 便利屋のカルロ。


 確かベランジェ様の友人一覧表に載っていた人物だなぁとグレイスは思った。


 せっかく準備したので、手紙と一緒にお茶とお菓子も持ってグレイスは三人がいる作業部屋へと向かう。


 昨日片付けたのに、今作業部屋に入ればもう散らかっていた。


 今日もまた忙しくなりそうだと思いながら、グレイスはまるで母親の様に三人に「お茶ですよー」と声を掛け、ベランジェの席には今届いたばかりの手紙も置く。


 三人は「わーい」と子供の様な声を出しながら、グレイスが綺麗にした席へと着く。


 以前ならばとてもお茶など飲みたいなどと思えなかった作業部屋だが、グレイスのお陰で美しさが保たれている。


 その上オヤツはグレイス手作りのマフィンだ。


 ベランジェじゃなくてもグレイスを離したくないと思うのは当然だった。


「ん? ふぁんふぁ? ふぁるほふぁらほへふぁみふぁ?」


 マフィンを頬張りながらベランジェが手紙を確認する。


 手を自分の服でササッと拭くと適当に手紙を開いた。


 そして口に詰まったマフィンを飲み込む様にお茶を口へ含むと、それを一気に吹き出した。


「ぶふぇっ!」

「うわぁー! ベランジェ様汚〜い!」

「うわぁ〜、俺のオヤツがー!」


 チュルリとチャオがビチャビチャになったテーブルから、自分のお茶とマフィンを持って逃げる。


 グレイスは急いで布巾を持って来て、テーブルを拭き、ついでにベランジェの口からまだ流れ出ているお茶も拭いてあげた。


 だけどそんなことも気付かない程ベランジェは手紙に釘付けだった。


「来た来た来た! 来たよー!」

「えっ?」「「ふぇ?」」


 ベランジェは半笑いの表情で手紙を持ってうろつく。


 だけどいつもの事だとグレイスは取り敢えずお茶を入れ直し、チュルリとチャオは何食わぬ顔でオヤツを食べ続けていた。


「ちょっと! 君たち、もっと慌ててよ!」


 引き続き部屋を彷徨うベランジェが、何故かグレイス達に八つ当たりして来た。


 でも意味が分からない三人は首を傾げるしかない。


 その様子にベランジェはハッとすると、三人に笑顔で手紙を差し出して来た。


 そしてそれを受け取り、便利屋のカルロからの手紙に目を通した三人は驚いた。


『セラニーナ様帰還 あの屋敷へ緊急集合 くれぐれも大騒ぎしない様に カルロ』


 これを見てグレイス、チュルリ、チャオも「わー!」と歓声を上げる。


 あの不思議な葉書が届いてから、まだかまだかと待ち侘びていたセラニーナ様からの連絡。


 いや、ニーナ・ベンダー様からの連絡。


 まさかこんな形でやって来るとは思いもよらず、四人はお酒でも飲んで暴れているかの様に大騒ぎとなった。


「ベランジェ様! 早く行きましょうよー! 僕、ニーナ・ベンダー様に早く会いたーい!」

「俺も、俺もー! 荷物の準備は出来てるんだ、すぐに出発しようぜー!」


 チュルリとチャオはそう言って残りのマフィンを口に詰め込むと、その手を自分の服で拭いた。


 グレイスもすぐ出れる様にと茶器を片付ける。


 だが、そこでベランジェから待ったが入った。


「待て待て待て、多分ここにシェリルやクラリッサ、アルホンヌもやって来る。先ずはそれを待つぞ」


 グレイス達は頷くと、纏めてあった自分達の荷物を今いる作業部屋にまとめ、他の三人の到着を待った。


 そして一番最初にやって来たのはアルホンヌだった。


 「よう」とグレイス達に声を掛けながら当たり前の様に席に着く。


 カルロからの緊急連絡の手紙をピラピラッとさせ、「やっと来たな」とご機嫌な様子だ。


 アルホンヌの荷物は小さなリュックだけな所を見ると、きっとベランジェと同じで魔法袋を持っているのだろう。


 グレイスがそんな事を考えていると、今度はクラリッサがやって来た。


「ベランジェ兄、届きましたか?」


 美人の満面の笑みと言うのは心臓に悪い物で、嬉しそうに部屋へやって来たクラリッサ様はご機嫌だった。


 席に着くなり隣に座るグレイスの肩に手を回し、「君も一緒に行くんだって?」と話しかけて来た。


 グレイスは一気に顔が赤くなるのを感じた。


 クラリッサ様は美人すぎて心臓に悪い。


 そして最後にやって来たのはシェリルだった。


 シェリルも手にはカルロからの手紙を持っていて、ニッコリしていた。


 美魔女の笑みもグレイスをドキリとさせていた。


 そして「私の馬車を待たせてありますわ」と言うシェリルの一声で、皆荷物を持ち立ち上がった。


「さあ、行こう、我らがお師匠様のところへ!」


 ベランジェの言葉にシェリル、クラリッサ、アルホンヌが頷く。


 やっとあのニーナ・ベンダーに会える。


 そう思うとグレイスもドキドキワクワクしたのだった。

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