第60話魔獣販売②

「それで……セ……ニーナ様、魔獣の買取でしたか?」

「ええ、カルロ、先ずこちらを見て下さる?」


 この場所に飽きてしまったシェリーの相手を闇ギルドの職員に任せ、ニーナとカルロの話し合いは続いていた。


 ディオンとアランそれにベルナールは、カルロの部屋にある骨董品の甲冑などを見せて貰っている。


 ファブリスだけがニーナの傍にいるが、どことなくよそよそしい。


 そう元闇ギルドの人間としてギルド長の部屋は、ファブリスにとってとても居心地が悪い場所だった。


 そんな事は気にもせずニーナはカルロに簡易魔法袋や、新しく作った本物の魔法袋に入っている品を見せた。


 そこには体全てが様々な用途に使える蜘蛛魔獣のモノリスや、これまた珍しい熊魔獣のグリズリーなどなど……この辺りでは中々手に入らない魔獣がたっぷりと詰め込まれていた。


 けれどカルロの目を引いたのはそこでは無い。


 そう、魔法袋だ!


 先ずは簡易魔法袋。


 普通の布で作られている魔法袋。


 こんな物を作れるのは世界中探してもニーナぐらいだろう。


 これだけでも王都の立派な屋敷が買えるぐらいの価値がある。


 想像するだけでも怖いが、ニーナはこれを幾つ所有しているのか……カルロはごくりと喉を鳴らした。


 そして魔法袋。


 こちらはニーナの保護の刺繡が入っており、本人が許可しなければ他人が中を覗くことが出来ないようになっている。


 それにその容量の多さ。


 ニーナでなければ作れない品物だろう。


 それに見た目の美しさ。


 保護の魔法刺繡が花開いているように美しい。


 その上神になったセラニーナが作った魔法袋だと売りだせば……


 幾らになるかなど想像が付かない。


 カルロは魔獣よりもそちらに気を取られていた。


「どうかしら? 幾らになりそうですの?」


 ニーナは今日、王都でがっぽりと稼ぐ予定でいた。


 ディオンは間もなく受験。


 そのお金が欲しい。


 それに出来れば王都に屋敷も準備して、気軽に魔獣を売りに来れる環境を作りたい。


 それに魔道具技師のダンク。


 ダンクを雇い、王都で魔道具を販売したい。


 それからシェリーやディオンには、学園入学前に王都で友人を作らせたい。


 それにアランやディオンの武器。


 今日の目的の中にはそれもある。


 ニーナは今欲しいものがとめどなく溢れていた。


 そうニーナにとって、今日はお金を稼ぐ日!


 ニーナはこの日を待ちわびて、しっかりと準備してやって来たのだ。


 なので今日はカルロ相手に稼ぐ気満々だった。


「あ、ああ……魔獣は……金貨一千枚ってとこだろうか……」

「あら、そう……思ったよりは少ないわね……まあ、簡易袋の方は鮮度が少し落ちているししょうがないわね……」


 この場で驚いていたのはファブリスだけだった。


 他の皆は各自別の物に夢中だ。


 金貨一千枚。


 森で捕まえた魔獣がまさかそれ程の金額になるとは……


 ファブリスは今まで如何に魔獣を無駄にしてきたのかと、頭を押さえたくなった。


「ニーナ様……それよりこの魔法袋だ……これを売りに出せないか?」

「まあ、フフフ……流石カルロね、その価値が分かるだなんて、貴方も立派になったじゃないの」


 6歳児がいい大人のカルロを立派になったと褒める。


 ニーナの中にセラニーナが居ることを知らなければ笑いが起きるところだが、カルロはテレていた。


 するとニーナは自分のポケットサイズの魔法袋から、新品の魔法袋を三つ取り出した。


 そしてカルロの前に置く。


 宝を前にカルロが目を輝かせたのは当然の事だった。


「これを売ってくれるんですか?」

「ええ、今回はこの三つだけね。簡易の方は売る予定は有りませんわ」

「ええー! そんなー、これもかなりの価値になるんですよー」

「簡易の方は致し方なく作った不良品ですわ。そのような物を人様にお売りする訳には参りませんわ」


 カルロは渋々引き下がった。


 ニーナを怒らせれば今後取引は出来なくなるだろう。


 それを考えれば、簡易魔法袋は諦めるしかない。


 だけど自分用に後で欲しいとお願いをして見ようとは思っていた。


 簡易魔法袋……ニーナにしか作り出せない宝。


 このまま見逃すだなんてカルロには出来なかった。


「カルロ、この三つの魔法袋の代わりに屋敷が欲しいのです、どこかに手ごろな良いお屋敷があるかしら?」

「これはセラニーナ様の作品と言って良いんですか? だったら滅茶苦茶デカい屋敷をお渡しできますが?」


 ニーナはカルロの言葉に首を振る。


 セラニーナは死んだ。


 そこは間違いない。


 それにこれはニーナの作品だ。


 そこはきちんとしたかった。


「でしたらまあ、大きさはそれなりの屋敷ですが、直ぐにご準備出来ますよ」

「そう、でしたら今回はそのお屋敷にしましょう。貴方の事は信用しているから間違いないでしょう」


 カルロはまた褒められて頬を染める。


 6歳児に褒められてテレているおっさんの姿は痛々しいが、ファブリスにはその嬉しさが良く分かった。


 尊敬する人物に褒められることは、これ以上ない喜びを感じる事が出来る。


 それはファブリスも同じだからだ。


「それから……カルロ、これを……」

「これは……ポーション!」


 セラニーナの作るポーション。


 それは素晴らしい効能がある代物だ。


 これ迄のセラニーナが作ったポーションは、王家が独占していて、一般庶民には手に入りはしなかった。


 それが今目の前に五本もある。


 その価値が分かり、カルロはまた喉をごくりと鳴らしたのだった。


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