第61話私の従者
「このポーションで、私の横にいるファブリスを買い取りたいの」
「「えっ?」」
ファブリスと、カルロの声が揃った。
執事の恰好をしているファブリスは、ハッキリ言って闇ギルドの人間には見えない。
カルロはニーナの言葉を聞き、始めてジッとファブリスを見た。
そう言えば……こんな奴いたか?
カルロにとってファブリスはそれぐらいの印象しかない暗殺者だった。
それが何故ニーナの傍にいるのか?
ファブリスという名を聞かなければ、カルロにとって顔を見ても思いださないぐらいの存在価値しかない暗殺者だった。
そうファブリスは人を殺せない暗殺者。
つまり使い物にならない男という事だ。
だからこそ、てっきり仕事中に死んだのだと誰もが思っていた。
それがまさか生きているとは……
カルロは驚いたとともに、ファブリスにはニーナの作るポーション五本の価値はないと判断をした。
「ニーナ様、ニーナ様の作り上げるポーションは市井には出てこない物です。その価値は大変な物で、ファブリス一人にポーション五本では割に合わないかと……」
カルロの話を聞いてファブリスは俯き、ニーナは「フフフ……」と笑い出した。
そしてニーナはファブリスの手を握り自分の横に座らせると、カルロに話を続けた。
「カルロ、そのポーションは以前の、そうセラニーナ時代の物よりも効能が良い物です」
「以前より……」
カルロのゴクリと喉を鳴らす音が部屋に響く。
ニーナは笑顔で頷くと、また話し出した。
「私にとってファブリスの価値は、その五本のポーション以上ですわ。ですから私としては高々五本のポーションで、これ程優秀なファブリスを買い取ることが心苦しいぐらいですの……」
「「えっ?」」
ニーナは今度は隣に座るファブリスに向けて笑顔で頷く。
今のファブリスにはそれだけの価値がある、ファブリスはニーナにそう言われている気がした。
胸が温かくなる。
闇ギルドに来て暗殺者当時の劣等感に飲み込まれそうだったが、ファブリスはニーナのお陰で自信を取り戻すことが出来た。
そう、自分は今はベンダー男爵家の執事。
ニーナ様の僕。
その上高価なポーション以上の価値があるとニーナ様が言ってくれた。
自信を持とう。
それに今以上にニーナ様に尽くそう。
ニーナの笑顔にファブリスは今、心からの笑顔を返せていた。
「ニーナ様、畏まりました。では、ファブリスはもう闇ギルドとは関係ない者としてみます。まあ、元々彼の事は死んだと思っていたので、こちらとしては利益しかありませんがねー」
カルロはそう言ってクスクスと笑い出した。
多分ニーナが望めば、ポーションなど無くてもファブリスの事はニーナに譲った事だろう。
けれどニーナはファブリスの為にそれをしなかった。
そう、堂々と陽の当たる道を歩ける様にしたかったのだ。
カルロにはこの事で、ニーナが相当ファブリスを気に入っている事が良く分かった。
「カルロ、もう一つお願いが有るのだけど……」
「はい、どうぞ何なりと、こちらはポーションで良い思いをさせて頂いておりますのでね」
ニヤリと笑うカルロにニーナも笑みを返す。
そしてニーナは願いを口にした。
「シェリル、ベランジェ、クラリッサ、アルホンヌに連絡を入れて欲しいの」
「ああ、彼らにも会うのですか?」
「ええ、皆私と一緒に来てくれると言うので、連れて帰ろうと思ってますの」
「えっ? えええっ?!」
ニーナが名前を出した四人は、今や押しも押されもせぬこの国の有名人。
彼らがニーナとどこかへ行ってしまえば……
この国は大騒ぎなる事だろう。
けれど誰がそれを止められるだろうか。
カルロだって闇ギルド長で無ければ、絶対にニーナに付いて行った事だろう。
ニーナの側にいれば、楽しい事が沢山起きる。
心がワクワクする。
その事を知っているだけに、付いていける四人が羨ましくて仕方がなかった。
「畏まりました。では、四人とはこれから見に行く屋敷で待ち合わせいたしましょうか? そちらの方がこちらより城に近いですし、彼らも来やすいでしょう」
「ええ、有難う。それでお願いするわ。カルロは相変わらず気がきくいい子ね」
闇ギルド長をいい子と言って、フフフ……と可愛く微笑むニーナを見て、やはり見た目は子供なんだとカルロは実感した。
そしてそれと共に、またあの忙しく楽しい毎日が戻って来ると思うと、興奮して仕方がなかった。
「お姉様、そろそろお肉を食べに参りましょうか?」
「ふぇえー! 本当にー?! 行く行く行くー!」
ぴょんぴょんと喜び飛び上がるシェリーを見てカルロは目を丸くする。
シェリーの跳躍は天井ギリギリだ。
まだ幼い少女が平然と魔法を使う。
まるで息をするかの様に自然とだ。
ニーナの教育がこの子にも始まっているのだろう。
ここにいる集団がいずれはこの国の重要人物になる。
それはセラニーナの事を良く知るカルロには簡単に予想が出来た。
「アラン、お肉屋さんではお肉の売り込みを貴方がやってごらんなさい」
「えっ? 私がですか?」
「ええ、常に笑顔を意識してね。決して動揺してはなりませんよ」
「は、はい。やってみます!」
アランは緊張気味ながらも、力強く頷いた。
ニーナの姿を見て、自分も売り込みをやってみたいと、アランは少しワクワクしていた。
「ニーナ、早く行こうー」
「ええ、お姉様、参りましょう」
こうしてニーナ達ベンダー男爵家御一行は、王都の街へと繰り出したのだった。
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