第59話魔獣販売
「カルロ、お久しぶりね、元気だったかしら?」
ニーナは闇ギルドのギルド長であるカルロの部屋へ案内されると、笑顔で挨拶をした。
カルロにセラニーナだったことを信じてもらう為、その当時作ってはカルロに贈っていたお気に入りのお茶を用意し、そして合い言葉である 『カエルで大儲け』を出したので、カルロにはすんなりとセラニーナだと信じてもらえたようだった。
そう、カエルはカルロが闇ギルド長として成功するように、友人のセラニーナが協力し手に入れた高価な魔獣。そうまさに金のなる木だったのだ。
カルロならばこの合い言葉にすぐに気が付いてくれると思っていたが、どうやらそれは成功したようだった。
ただし、今ニーナの前に座ったカルロは半信半疑といった表情だ。
それもその筈、今のニーナは6歳児にしか見えない。
100歳だったセラニーナを知るカルロには、今のニーナの姿を見てもピンとは来ないのは当然だった。
そんなカルロに笑顔を向けながら、ニーナは今日の要件を話しだした。
「それでね、カルロ、今日は珍しい魔獣を手に入れたので売りに来たのよ」
フフフ……と機嫌よく微笑むニーナを前にして、カルロはまだ声が出ない。
言葉を忘れたカナリア……ではなくカルロ。
目の前の幼女は話し方や仕草は確かにセラニーナを思いだす様子だ。
けれど脳がそれを理解しきれていない。
それにセラニーナ、いや、ニーナが連れているメンバーだ。
皆美形ぞろいだが、今の家族なのだろうか?
その中に覚えのある青年が一人。
それはダークブロンドの髪の美青年。
どう見てもラベリティ王国の王子にしか見えない。
そっくりさん……で通すには似すぎていて無理があり過ぎる。
一体今のセラニーナはどんな人間なのか。
魔獣の買取よりも、カルロは先ずはそこが聞きたかった。
「あー……セラニーナ様?」
「まあ、ウフフフフ、カルロ、今の私はセラニーナではなくニーナ・ベンダーですのよ。気軽にニーナと呼んでくださいませ」
「いやいやいや、どう考えても気軽になんて呼べないでしょう! セラニーナ様……いえ、ニーナ様……一体何がどうしてそんなお姿に?」
「うーん……そうねー、気が付いたらこうなっていたと言いましょうか……」
気が付いたらって……どんな感じだよ! とカルロは突っ込みたくなったが、そこはやはりセラニーナらしいと納得がいく。
セラニーナと過ごした時間は短かったカルロだが、彼女が突拍子もない事をするのは良く知っていた。
それに今や神になったとか、女神になったとまで言われているセラニーナだ。
何が合っても可笑しくはないと、カルロはやっと現実に向きあえるようになってきた。
「それで何故王子様までご一緒に?」
アランが自分の存在を言い当てられギクリと顔に出す。
ニーナはその姿を見て、アランもまだまだねと心の中でそう思った。
ベンダー男爵家に来てアランは随分成長し、体も心も強くなったが、王子であったことを問われると、どうしても顔に出てしまうようだ。
それはベルナールも同じだった。
二人共浮かべる笑顔があからさまに引きつっている。
そこを普段通りの笑顔で通すことが出来れば良いのだけれど……
二人の教育はまだまだだですわねとニーナは改めてそう思った。
「この子はアラン、王子ではなく、私の弟子よ……」
「で……弟子ですか……?」
「ええ、とても優秀な弟子よ。いずれ力を付けた時、本当に自分のやるべきことが見つかるでしょう」
セラニーナと付き合いがあったカルロには、それだけで状況が何となくだが読めたようだった。
そう、闇ギルド長であるカルロには、ラベリティ王国の情報が入っていたし、ラベリティ王国の闇ギルドには、王子殺害の依頼もあったらしい。
横の繋がりがあるギルドの情報だ、それはかなり正しいものだと言える。
そう考えればセラニーナが王子を弟子として引き取り育てている……それも不思議ではない気がした。
ただしいずれこの王子は国に帰り、ラベリティ王国を継ぐことは確実だろう。
何て言ったってあのセラニーナが育てているのだから……
カルロは少しの情報でそこまで読んでいたのだった。
「フフフ、ハハハハ、では弟子の方たちとも仲良くさせて頂きましょう。我々闇ギルドはセラニーナ様には大恩がある。困った時はいつ何なりとこのカルロにお申し付けくださいませ、アラン様」
「まあ、アラン良かったわね、カルロに認められたら百人力ですわよ。これ程心強い味方はおりませんもの」
アランはニーナの言葉を聞き、カルロに頭を下げた。
自国とは違う国とはいえ、闇ギルドを味方に付けた。
それはアランにとって大きな後押しとなる。
もう簡単には濡れ衣を着せられたりはしない。
アランはニーナのお陰で知らず知らずのうちに巨大な力を持つ王子となりつつあった。
何故ならこのカルロは、各国の闇ギルドのトップでもある。
彼が白を黒といえば闇ギルドではそれが通ってしまう。
それ程の味方を得たことに、まだこの時のアランは気が付いてはいなかった。
そう遠くない未来にアランはこの日の出会いに感謝することになるだろう。
ニーナによってアランは強力な味方を得たのだった。
「ねー、ねー、ニーナ、お肉はまだー?」
お茶うけに出されたお菓子を食べきってしまったシェリーが、つまらなそうにそんな事を言ってきた。
ここまでハッキリ言って挨拶しか話は進んでいない。
8歳のシェリーにはそれがつまらなかった様だ。
もう一人の子供であるディオンはといえば、カルロの部屋に飾られている骨董品の甲冑や剣などに目がいき、話などどうでもいい様子だった。
可愛い兄と姉の様子をニーナは微笑ましく感じながら、シェリーに声を掛けた。
「お姉様、ここで魔獣を買い取って頂けませんとあの屋台のお肉は買えませんのよ。カルロおじ様に高値で買って頂けるようにお願いしてくださいませ」
「えー! そうなの? カルロおじ様ー、宜しくお願いしまーす」
美少女のお願いにカルロの目じりが下がる。
だがお姉様というニーナの言葉にも反応していた。
ニーナ様の姉……
そしてあの似ている少年は兄だろうか……
この二人も将来はきっと有名になる事だろう……
良縁が舞い込んできた。
カルロは闇ギルド長として、この幸運を手放す気は無いのだった。
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