第52話届いた手紙
ニーナと初めて町へ来てから半年が経ち、ファブリスは定期的に隣町に来るようになっていた。
ファブリスの魔力量も増え、隣町へまでは気軽に転移で一っ飛び出来る様になっていた。
週に一度のペースで町へ来ては、馴染みの店を回る。
肉屋にはニーナが作った本物の魔法袋を渡し、小物の魔獣類はここに卸している。
現金で支払われる事は殆どないが、それでもニーナが近隣の町とは繋がりが大事だと、物々交換になったとしても今まで通りの関係性は変えるつもりはない様だった。
そして生地屋にも本物の魔法袋を渡した。
とても感謝され、そしてまたまた色々な生地を渡され、ファブリスは申し訳ない気持ちになったが、きっとニーナならばこの生地屋にも後々何か仕事を回すのだろうと、繋がりを大事にするニーナの行動には想像がついた。
そして文具屋だ。
こちらにも寄り、ニーナに頼まれた、エクトルが作ったパンやジャムを渡す。
縁があった人達とは何かあるのだからと、ニーナは町人達との繋がりを大切にしている。
ファブリスは尊敬する主のそう言った優しさがとても好きだった。
流石ニーナ様。
ファブリスの中でニーナの価値が爆上がりなのは確かだった。
「こんにちはー」
ファブリスは郵便屋さんへと顔を出した。
ニーナが葉書を送ってからと言うもの、町へ来るたび郵便屋さんは覗いている。
ファブリスはニーナが返事がいつ来るかと楽しみにしているのを知っている為、出来るだけ早く届けて上げたかったのだ。
そして今日やっと待ちわびていたその日が来た。
「ああ、ファブリスさん、いらっしゃい。待ってたのよー」
「えっ、まさか!」
「ええ、そうよ、ニーナちゃんお待ちかねの手紙。それも四通も、昨日届いたのよ。それも超特急便でね」
郵便屋の女店主に差し出された手紙は確かに四通だったが、その分厚さからその倍はある様に見えた。
そして便箋も高級な素材で出来ている物で、ニーナが連絡を取った相手が、それだけでお金持ちである事が分かった。
まさか金の催促をした訳では無いよな?
いやいやあのニーナ様に限ってそれだけはあり得ないと、ファブリスは首を振る。
ただより怖いものはない。
それがニーナの口癖だ。
物々交換で、例え無料で上げると言われても、必ずニーナは何かを返す。
だからニーナに限って金の無心などありえない。
そうは分かっていても余りの手紙の分厚さに、ファブリスはやはり少しだけ不安になったのだった。
そして屋敷へ戻り向かうはニーナの下だ。
手紙を渡して喜ぶ姿が一番に見たい。
そんなファブリスは、少しテンションが高くなっていた。
ニーナの部屋の前へ行き軽くノックをする。
ニーナは丁度部屋で刺繍をしていた様で、部屋の中にいた。
ニーナはファブリスが今町から戻って来た事を知っているので、ニーナ特製のお茶で労ってくれた。
「ファブリス、お疲れ様です。町の人達に変わりはなかったですか?」
「はい、どの店の店主たちも元気そうで、今日は可愛いニーナちゃんはいないのか? と度々聞かれましたよ」
「フフフ……まあ、お世辞でも嬉しいですわね。今度お姉様を町へ連れて行きましょう。本物の美少女を皆にお見せしなければいけないわ」
フフフ……と姉自慢をしたがるニーナが可愛く笑う。
ファブリスはそんなニーナをもっと喜ばせようと、郵便屋で受け取った手紙を差し出した。
するとニーナは小さなため息をつき、ファブリスにお礼を言いながら手紙を受け取った。
「まったくあの子達ったら、返事までに随分と時間がかかったものねー」
ニーナは手紙の封を開けながら「あの子達もまだまだね」とどこか嬉しそうに、それでいてちょっと呆れた様子で呟いていた。
そして分厚い手紙に一通一通目を通して行く。
一人につき10枚ぐらいの手紙になっているため、読むのも時間がかかる。
ニーナは時折クスクス笑いながら、それはそれは懐かしそうな笑みを浮かべ手紙を読んでいた。
そして全ての手紙を読み終わると、ファブリスに話しかけた。
「ファブリス、お兄様とお姉様の家庭教師が決まりました」
「それは良かったです。もしかして手紙の方達ですか?」
「ええ、誰か一人でも来てくれたらと思っておりましたけど、四人とも我が家に来たいそうですわ。フフフ……心強い子達で、助かりますわね……」
ベンダー男爵家を立て直す為、ニーナはここ半年、町で仕入れた物を使い沢山の準備をして来た。
それにディオンやアランは森へ行っては魔獣を倒しお金になる物を……いや自分たちを鍛え、修行をしていた。
そしてシェリーやザナは生地屋で仕入れた生地をハンカチにし、売り物に……ではなく刺繍の練習を行って来た。
そしてニーナは温室の薬草や毒草を使い、セラニーナにしか作れないであろう薬をたっぷりと準備した。
まだ街へ行きお金には変えては居ないが、”セラニーナの薬” それはどう見繕っても金貨がザクザクなのは間違いなかった。
「フフフ、やっとお兄様の入学資金を手に入れられそうですわ」
今ニーナが手に入れている物を売りに出せば、ディオンは軽く100回は学園に入学出来るだろう。
そう、本気になったニーナの準備は完璧だった。
「ファブリス、近いうちに王都へ行こうと思っていますの」
「王都ですか? ですが……馬車が……」
流石にファブリスの魔力では王都まで転移できない。
隣の隣町が良い所だろう。
だがニーナはニヤリと笑った。
「あら、ファブリス、私はしっかりと修行しましたのよ。今ならどこへでも転移できますわ」
そう、このベンダー男爵家には恐ろしい六歳児がいる。
修行を積んだニーナは、今や向かう所敵なしだ。
その結果、ファブリスのニーナへの尊敬は益々高まるのだった。
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