第37話変わり始めたベンダー男爵家

 ベンダー男爵家では新しい生活が始まっていた。


 屋敷も綺麗になり、掃除の時間が減った事で皆新しい事を始めていた。




 先ずはディオンとアラン。


 二人はファブリスから習う剣の稽古は勿論だが、ニーナに教わりながら、傷薬など、日常で使う薬の勉強を始めていた。


 癒しを使えない二人は今後戦いの中で何か有った時、自分たちで対処しなければならない。


 ニーナはいずれはこの二人にも最低限のポーション作りは出来るようにさせたいと思っていた。


 決してそれを売りに出し儲けようなどと邪な気持ちからではなく、二人のケガを心から心配しての事だった。




 そしてベルナール。


 ベルナールは魔法の勉強はニーナに習い、そして普段はファブリスに付き、密偵の心得を学び始めていた。


 素直過ぎるベルナールには、ファブリスのような闇で生きてきたものの対応が勉強になるのではないかと、ニーナが考えての事だった。


 決していずれ諜報員に使えそうだとか、そのような邪な考えではなく、ベルナールが自国へ戻ってもアランを守れるようにと思っての事だ。ニーナの優しだと言ってもいい。




 そしてその教育係でもあるファブリスだが、ニーナに魔法を教わり直したことで、本来ファブリスが持っていた力が開花したと言える。


 ファブリスはこれまで以上に仕事に励んでおり、ファブリス自身ニーナの補佐だと思っている。


 その目には生き生きとしたものがあり、ベンダー男爵家を立て直すため、自分も活躍しようと気合が入っているようだった。


 ニーナが良い側近が出来たと喜んでいる事を、ファブリスはまだ気が付いていない。


 それを聞いたならばニーナに心酔しているファブリスは、きっと歓喜することだろう。


 これ以上ニーナに敬慕させないためにも、その事実はもう暫くファブリスには伝えない方が良いだろう。




 そしてメイドのザナ。


 ザナは魔法の掃除を覚えた事で時間に余裕が出来、屋敷の管理も手伝い始めている。


 ファブリスの補佐官に近い存在になっており、ザナの急な成長をニーナは素直に喜んでいた。


 助手がもう一人増える。そう思ってニヤケてなどいないはずだ。




 そしてエクトル。


 定期的に珍しい魔獣が手にはいるようになり、その上簡易魔法袋をニーナからプレゼントされた事もあって、料理の幅が広がり腕を上げていた。


 その上ニーナにお菓子作りというこれまで経験の無かったことを習い始め、今充実した毎日を過ごしていた。


 決していずれお菓子も販売しようとニーナが企んでいるからではなく、皆に美味しいものを提供したいとニーナの優しい気持ちあっての教育なのだが、それはベンダー男爵家には良いことだらけであった。


 いずれベンダー男爵領の魔素の強い野菜を練り込んだお菓子を作り、売りにだそうと、ニーナはエクトルに相談していた。


 エクトルは尊敬するニーナに期待され、今やる気が溢れていた。


 エクトルの料理の腕前は益々伸びて行く事だろう。


 それはニーナの思う壺……ではなく純粋に喜ばしい事だった。




 そして庭師のロイク。


 ロイクは温室の管理をニーナに任されていた。


 温室にはロイクがこれ迄見たことの無い薬草が育てられていて、ニーナにその使い方を教わることが日課となっていた。


 ニーナがいずれこの薬草を使い、様々な薬を作りだし、こちらも売りに出そうと思っている理由で、ロイクに薬草を教えて居る訳ではない。


 決してない。


 純粋に自然が好きなロイクに薬草を教えているだけだ。邪な気持ちは全くない……はず。


 ただそれが結果として将来ベンダー男爵家の大きな収入源になることは確実だろう。


 そしてそんなロイクが育て続けている魔素がしっかりと詰まった野菜も、いずれは街で販売される。


 そうなればどうなるか……今未来を予測しほくそ笑んでいるのは、この価値を知るニーナだけだろう。




 そしてそんなニーナとシェリー。


 今一番成長しているのはこの二人だろう。


 ニーナとシェリーは一日交替で父親のエリクに癒しを掛けて居る。


 それも自身が一日に使える魔力ギリギリを使ってだ。


 シェリーは初日、エリクに癒しを掛けた後、魔力の使い過ぎで寝込んでしまった。


 夕食の時間には元気に起きてきたが、一日おきにこの生活が続き、一週間も経つと一気に魔力量が増えることになった。


 それからは安定してエリクに魔法をかける事が出来るようになっていた。


 癒しの魔法の力が付いたことで、シェリーの魔法はかなり成長したと言える。


 いずれシェリーが進む道がこれでまた広がったと、ニーナは心の中でガッツポーズを上げていた。


 大切な姉の未来。


 出来るだけ選択肢は多い方が良いだろう。





 そして守銭奴化しているニーナ。


 ニーナは両親を救う為、魔力量を増やそうと修行を始めていた。


 ニーナはまだ6歳。


 本来ならば魔法を使う事すら、まだ学ぶのが早いぐらいの年齢だ。


 けれどセラニーナは、幼い頃の教育が魔法使いになる為には大切だという事が良く分かっていた。


 そして魔力量の伸ばし方も、セラニーナの記憶のお陰で良く分かっていた。


 毎日ギリギリまで魔力を使い、その上で魔素の強い食事を摂る。


 そして自身で作った安眠の魔法陣をハンカチに刺繡し、夜はぐっすりと眠る。


 また聖水を週に一度少しだけ摂り、体の魔力を循環させる。


 魔力を感じる事に敏感なディオンとファブリスには、恐ろしいほどのニーナの成長が良く分かる様で、「ドラゴンってあんな感じ?」と呟いたディオンの言葉に、ファブリスは小さく頷いていた。


 その魔力は6歳の幼女でありながら、既にこの国10本の指に入るぐらいに成長していた。


 ベンダー男爵家を立て直す事しか頭にないニーナは、すっかり子供である自分を忘れ、恐ろしい存在になり始めていた。


 ベンダー男爵家の中には、幼いニーナの行動が、その存在自体が、可笑しいものだと突っ込む者がいなかったため、ニーナの枷は外れたままになっているのだった。


 そんな皆の成長と共に、これからベンダー男爵家の躍進が始まっていくのだった。

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