初めての町
第34話お父様
「ファブリス、そろそろお父様に会わせて頂けませんか?」
ニーナの問いにファブリスは渋い顔をする。
今夜もまたファブリスを自室の呼び出し、ニーナのお願いが始まっていた。
これ迄何度もファブリスにはお父様に会せて欲しいとお願いしてきたが、それは叶うことがなかった。
ニーナはまだ幼いため、父親の寝込み弱った姿を目の当たりにすれば、セラニーナの魂が入っているとはいえ変調を起こすかもしれない。
ファブリスの心配するその気持ちは良くわかる。
けれどセラニーナの魂が入っているからこそ、父親の病気の原因が分かるかもしれない。
それをファブリスには何度も言って居るのだ。
「ファブリスお願いです。お兄様は子供であってもお父様にお会いしているのですよね? でしたら私やお姉様がお会いしても宜しいのではないですか?」
父親が寝込んでしまったのは母親が失踪してすぐの事らしい。
その頃からディオンだけが父親に会っているのだとすれば、今のニーナと同い年の時からディオンは病気の父親に会って居ることになる。
ならばニーナやシェリーが今の年で父親に会う事は何の問題も無いはず。
ニーナがそう伝えると、ファブリスは遂に下を向いてしまった。
「ファブリス、何か抱えている事があるのならば話してくださいませ。貴方は家族ですが、一使用人でもあります。貴方が一人で悩む必要はないのですよ」
ファブリスの余りにも頑なな様子に、父親がただの病気では無い事はニーナには予想が付いていた。
そして他の使用人たちには父親の事は深くは伝えられておらず、ファブリスだけが抱え悩んでいる事もニーナには分かっていた。
きっとディオンも詳しい事は聞かされてはいないのだろう。
だからこそファブリスはニーナにも話せずにいるのだ。
「ファブリス、私を信じて下さいませ。決して悪いようには致しませんわ……」
ファブリスはニーナの言葉にやっと頷き、父親との面会を許可してくれた。
ニーナ、シェリー、ディオンの父親はエリク・ベンダー。
元は別の貴族家の息子らしい、母親であるアルマが少女の頃、ある日森で拾ってきたそうだ。
そしてエリクとアルマは恋に落ち、結婚した。
そこまではシェリーからの情報で分かっている。
エリクは婿養子で、アルマがこのベンダー家の後継者。
その二人がいない今、ファブリスが抱える物は途轍もなく大きい。
ニーナは少しでもファブリスの心を軽く出来たらと、そう思っていたのだ。
そして次の日の早朝、ディオンやシェリーが起きるよりも早く、ファブリスに連れられて父親が眠る寝室へと向かった。
父親の部屋には勝手に入れないように鍵がしてあった。
それもディオンが開けれないように数字を入れる南京錠だ。
けれどこれだってあのディオンならば、簡単に開けてしまえるような気がニーナにはしていた。
けれどそれをしないところを見ると、ディオンは自分から進んで父親に会うのが怖いのではないかとそんな気がした。
ファブリスがカギを開け、部屋へと入る。
ベットには天蓋が掛けられていて、部屋に入ってすぐには父親の顔が見れないようになっていた。
そしてベットに近づき、ニーナとファブリスは天蓋の中へと入る。
ニーナが初めて見た父親はディオンによく似ていた。
つまりは美男子だ。
ニーナはジックリと父親を見つめた。
「これがお父様……」
病気だと聞いていた父親は確かに日に当たっていない、青白い顔はしていた。
けれどやせ細っているわけではなく。
病人……
というよりはただ寝ているだけ……
とそう見えた。
ニーナはそっと父親の手に触れてみた。
父親の手のひらは力がなく重いものだったが、冷たくなったり、細くなったりしてもおらず、倒れた際そのまま眠りについた……という言葉がピッタリな気がした。
「ファブリス、ベットの四方について居るものは……結界? かしら……?」
ベットの四隅には宝石のような紫色の石が置いてあり、それがベットの中を守っているようにニーナには感じた。
ファブリスはその言葉に頷くと「奥様が準備されていた物です」と答えた。
ニーナはその言葉を聞いて新たな疑問が湧いた。
母親の方が先に行方不明になっている。
なのにこの結界を前もって準備していた。
それはまるで父親であるエリクがこうなることが分かっていたように思えた。
(お母様はもしもの時を考えて準備されていたのかしら……自分が居なくなる時の事を考えて……)
ニーナは寝ているエリクのベットに登り、今度は瞼を開け瞳を確認した。
特に瞳にも悪い部分はない。
呼吸も正常でぐっすりと眠っているだけの人……
と言えるだろう。
ただし、可笑しなことが一つ。
それが魔力だ。
エリクの体からは禍々しい魔力が色濃く感じられていた。
ニーナはファブリスに声を掛けた。
「ファブリス、お父様の布団をはいでくれるかしら?」
ファブリスは一瞬確信を突かれたようなドキリとした表情になり、戸惑いながら小さく頷くとエリクの掛け布団をはいだ。
体も特に痩せこけて居る様な印象はない。
そうそのまま時が止まったかのように筋肉も一般男性並みに付いている。
そしてニーナはエリクの寝間着のボタンに手を掛けた、そこで父親が何故寝ているのかが分かったのだった。
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