第33話未来への一歩(アラン)

 私の名はアランデュール・ラベリティ。


 ラベリティ国の第一王子である。


 私の母は側妃だった。


 父である王と王妃の間には結婚してから三年間子供が出来る様子が無かった為、伯爵家出身の母が側妃として上がる事になった。


 母が無事私を出産した後、王妃の懐妊が分かった。


 一つ違いの第一王子と第二王子。


 けれど王位は王妃の子である弟の第二王子にある。


 私も周りも皆そう思っていた。


 その為、未来の王として弟は城の奥で大切に育てられた。


 それも当然だ。


 王妃にとってはやっと出来た我が子。


 国にとっては大切な跡取り。


 沢山の侍女や乳母、それに厳選された遊び相手。


 今なら分かる、弟が我儘に育つ事は当然だった。



「兄様ばっかりズルイ、なんで剣を持っているのだ!」


「兄様ばっかりズルイ、なんで外へ出れる!」


「兄様ばっかりズルイ、家庭教師に褒められてばかりいる!」


 弟の言葉を聞けば、その願いが叶う様に周りは動く。


 私の行動は制限され、勉強も最低限の家庭教師が付くだけになった。


 けれどそれが私には当たり前の事だった。


 生まれた時からこの世界は弟を中心に回っている、そう思っていたのだ。




「アラン第一王子! 貴方は弟殿下の婚約者を誘惑し、その上王太子の座を奪おうと画策した! よって国外追放処分とする!」


 それは当然の事だった。


 夜会の席でそう告げられると、私は兵士達に縛り上げられた。


 ベルナールが弁明をしてくれだが、耳を傾ける者などいない。


 他の私の側近達は下を向き、私を見ようともしなかった。


 裏切られた……


 その時はそう思ったが、今なら分かる。


 王妃に睨まれてはあの国では生きては行けない、そう、彼らは私ではなく、家を守っただけなのだ。




 目隠しをされた私は荷馬車に乗せられどこかへと連れて行かれた。簡単に纏められた私の荷物があった事から、これが前から準備されていた事だと気がついた。


 ベルナールだけは国に残して欲しいと頼んだが、ベルナールは私に付いて来る事を選んでくれた。


 ベルナールは貴族だ、彼の実家を心配する私に、「自分の両親は大丈夫です」とベルナールは笑って答えた。


 大丈夫な筈はないだろう。


 こんな私に付いてきたら、降格処分か下手したら貴族位返還だ。


 けれどベルナールの両親こそがそれを望んだのだとまた笑顔で返された。


 そして私の荷物の中にあの指輪が有るのを見つけ、誰かが忍び込ませてくれた事が分かり、私は一人ではない事を実感した。  


(私に出来る事は何だろうか……)


 捨てられた森の中で自分のこれからを考える時間はたっぷりあった。


 初日は森の些細な音にもビク付き満足に寝ることも出来なかったのだが、城からほとんど出たことがない私にはそれも当然で、怯えながらも私とベルナールは生きるために川を見つけては水を飲み、木の実が有れば恐る恐る口にした。


 そのせいか腹を壊す事もあり、虫に刺され手が腫れたりもした。


 それから一週間ぐらい森を彷徨っていただろうか?


 そろそろ町へ着くのでは? とそう思っていた時に大きな蜘蛛の魔獣に出会った。


「ベルナール逃げるぞ! 荷物を捨てろっ!」

「アラン様、ですがこの中には……」

「命が大事だ! 私はお前まで失いたくはない!」


 私達は森の中を疲れ切っている体を鼓舞し走り抜いた。


 慣れない森の中での生活は疲労の毎日だった。


 私達の荷物に飽きた魔獣はすぐに私達に追いついてきた。


 腰に携えている剣を構えはしたが、私は結局使い方がキチンと分からない。


 弟の為、次期王の為と言いながら、私は全てを投げだしていたのだ。


 仮にも王子で有るならば国を思い動かなければ行けなかった。

 

 弟を廃するべきとまでは言わないが、国を守る為には弟の我儘を注意するぐらいの気概を見せるべきだったのだと、死を目の前にし、王子として反省した。


(母上……情け無い息子で申し訳ございません……)



「まあ、まあ、まあ! お兄様、モノリスですわ!」


 突然子供が、そう、幼い少女が現れたと思ったら、魔獣を見て嬉々としてそう述べた。


 嬉しそうな少女の横には少年も側にいて、その少年の武器はただの木の棒だった。


 もう一人大人の男性も居たのだが、魔獣を見て前に出ているのは何故か少女と少年だった。


 そして恐ろしい魔獣を大切な素材だと少女が言い切ると、二人は次々に魔獣を倒して行った。


 あの美しさ、あの子達は天使なのか?


 いや、森の妖精なのか?


 私が驚いている間に、二人の子供たちは全ての魔獣を倒してしまった。


 やっと人に会えた嬉しさと、魔獣を倒して貰いホッと出来た安心感と、自分には無い才能を持った子供たちを見て悔しいという複雑な気持ちになった。


 私も彼らのように誇れる自分になりたい……


 屋敷へと招待せれ森を歩く中、ディオンは倒した魔獣や使える魔法の話をしてくれた。


 それが羨ましくもあった。


 私も強くなりたいとそう願っていたからだ。


 剣の腕前、体の強さも、魔法の力もそうだが、何よりも自分の試練に打ち勝つ力……


 そう心を強くし、立ち向かう勇気が欲しかったのだ。



「お兄ちゃんももしかして強くなりたいの?」


 子供たちのもう一人の兄弟であるシェリーの言葉に私は驚いた。


 そう、心が見透かされたようなそんな気がしたからだ。


 強くなりたい……


 私はその言葉に頷いた。


「だったらニーナに相談すると良いよ」


 長子のディオンが気軽にそんな事をいう、私達がこの屋敷に滞在すれば、いずれこのベンダー家に迷惑が掛かる可能性もある。


 悩む私の背中を押してくれたのは一番小さな少女である、ニーナ・ベンダーだった。

 

「暫く我が家に滞在されませんか?」


 賢い彼女にはきっと全てが分かっていた事だろう。


 それでも私達をこの屋敷においてくれるという彼女の言葉に私は感動した。


 このベンダー家にいれば私は何か変われるかもしれない……


 その期待を胸に、私は今自分に出来ることと精一杯向きあっていく覚悟を決めた。


 王子としてではなく、アランとして、そうアランデュール自身として、歩みだした初めの一歩となった。



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