第10話俺の妹(ディオン)

 俺の名前はディオン。


 俺の下の妹が急に可笑しくなった。


 俺には妹が二人いて、上の妹はシェリーって名前で、お喋りが大好きな明るい妹だ。


 そしてもう一人の妹はニーナ、大人しくって口数が少ない、俺達の後をいつもついて回るそんな妹だった。


 だけどある日、ニーナは姿を消した。


 俺やシェリーが家の仕事に追われている時は、ニーナは自室の掃除や、俺達の部屋の掃除をしているのだけど、俺とシェリーが仕事が終わってニーナの部屋に向かうと、ニーナの姿はどこにもなかった。


 俺の家は無駄に広くって、取りあえず屋敷の中を使用人たちと一緒になって、皆でニーナを探し回った。


 ニーナを探しながら母上がいなくなった時の記憶が甦って来た。


 あの日も普段通り過ごしていただけだった。


 なのにいつもの時間になっても母上は戻ってこなかった……


 もしニーナも同じことになったら……


 母上の事を思いだし、ニーナももしかして森に行ったのではないかと俺は思い付いた。


 シェリーとメイドのザナを屋敷に残し、俺を含めた男だけで森へと入った。


「ニーナ、ニーナ」と大きな声で呼びながら森の中を探す。


 余り森の奥まで行くと強い魔獣が出るため危険だ。


 それに辺りは段々と薄暗くなっていた。


 あと少しの時間でニーナを探し出して、俺達も屋敷に戻らなければ危険になる。


 そう思い始めた時、森の先で光が見えた。


「ファブリス、見た? 今あっち光ったよね?」

「ええ、ディオン様、見えました……アレは癒しの光?」

「癒しの光?」


 ファブリスの言葉に首を傾げる。


 俺は癒しの光というものを知らなかった。


 でもファブリスは確信がある様な顔をしていた。


 そこにニーナがいるかもしれない。


 俺達は急いで駆け出した。


「ニーナ、ニーナ」


 ニーナの名を呼びながら、光が見えた方へと向かう。


 するとまた光が見え、木々迄キラキラと輝き、その後木々がガサガサと大きな音を立てていた。


 俺達がその光の場所へと到着すると、そこにはボロボロの姿になったニーナが倒れていた。


「ファブリス、ニーナだ! 血まみれだよ、どうしよう!」


 ニーナのドレスは血に染まっていて、とても酷い状態だった。


 それに肩の部分は破れニーナの細い肩が丸見えだった。


 ファブリスがニーナに近づき呼吸や脈を確認した。


 ニーナの顔は青白く、まるで死人の様だった。


 俺はもしかしてニーナは……って悪い想像をしてしまった。


「ディオン様、ニーナ様はご無事です。これは魔力切れを起こしているようですね」

「魔力切れ?」


 ニーナが無事だったことにホッとしたけれど、魔力切れという聞きなれない言葉に首を傾げた。


 そんな病気を俺は聞いたことが無かったからだ。


「ニーナ様はここで怪我をされて、ご自分で傷を治されたのかも知れませんね……それは子供であるニーナ様には大変なことだったでしょう……」


 ファブリスがすぐにニーナを抱えてくれて、皆で大急ぎで屋敷に戻ることになった。


 その間もニーナは人形の様に動かずぐったりしていて、やっぱり危険な状態なんじゃないかって、俺は心配になった。


 屋敷に戻るとシェリーとザナにニーナを預けた。


 ニーナを着替えさせて、泥や血を拭き落とすから男である俺は近づけなかったんだ。


「ニーナは大丈夫かな……」


 そう言った俺の肩をファブリスが抱きしめてくれた。


 魔力切れは一晩寝れば何とかなるのだと、ファブリスが教えてくれた。


 だから心配いらないから俺もゆっくり休むようにとファブリスいったけど、その日は俺は何だか寝付けなかった。


 あの森で倒れていたニーナの姿が頭から離れなかった事もある。


 ニーナが無事だと分かっても、不安がどうしても拭いきれなかったんだ。





 そして……次の日からニーナは急に可笑しくなった。


 起きて始めの日は、まるで俺たちの様子を伺う様な感じだった。


 そしてその翌日から俺やシェリーの仕事を手伝いだしたかと思うと、掃除だって食器洗いだってニーナは俺たちよりもずっと上手だった。


 それに何故か家の中を見て周りたがった。


 どこに何があるか、どんな施設があるのか、と一人ぶつぶつと何かいいながら確認している様子だった。


 それにお喋り好きのシェリーの話を好んで聞きたがった。


 俺たち家族の話を、まるで何も知らない人の様にシェリーから聞いていた。



 そして一番可笑しいと感じた事は、俺の事を「お兄様」、シェリーの事を「お姉様」と呼んだ事だった。


 今までニーナにお兄様だなんて呼ばれた事はない!


 俺が色んな事に驚いていると、ニーナは自分はニーナであってニーナでは無いのだと言いだした。


 そう聖女セラニーナ。


 俺もシェリーもセラニーナ様の名は知らなかったけれど、これでニーナが可笑しかった理由がハッキリと分かってホッとした。


 それにニーナは俺たちベンダー男爵家を立て直すって言い出した。


 父上も、母上も居ない状態で、使用人達は傍にいてくれているとは言え、俺はずっと不安だった。


 だけどニーナが、セラニーナ様が、自分がいるから大丈夫だと言ってくれて、俺は凄く嬉しかったんだ。


「さあ、これからベンダー男爵家を立て直しますわよ!」


 この言葉に俺もシェリーも勿論「おー!」と元気に返事をした。


 皆で幸せになる。


 それが俺たちのこれからの目標になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る