第9話子供たちの属性検査
ニーナはまず祭壇の掃除から始める事にした。
魔法が掛けられ綺麗な状態に保たれてはいるが、それとこれとは別だ。
儀式を執り行う前にはきちんと祭壇を整えなければならない。
これは聖女時代が長かったセラニーナにしっかりと身に付き、当たり前のようにしみついている習慣だった。
セラニーナ・ディフォルトの記憶があるから準備は簡単に……
とは……残念ながらいかなかった。
先ずニーナは子供だ、体が小さい。
物を動かすにしても、掃除をするにしても非力だし、一人では限界があった。
そこは兄のディオンが普段から屋敷の手伝いをしているだけあって、ニーナの指示に従い良く動いてくれた。
姉のシェリーも掃除慣れしているため、二人の力を借りて祭壇は順調に整えられて行った。
「これで後は聖水を聖盆に流すだけだわ」
ディオンに高い位置に有った聖水の入れ物を取って貰う。
そして祭壇の中央に置かれた聖盆に聖水を流す。
ディオンとシェリーは初めて見る儀式の準備に興奮した様子で見入っていた。
こういった儀式の準備は祭司や、聖女しか普段は見ることは無い。
一般の子供たちでも普段体験できない事だ。
無いものばかりのベンダー男爵家の子が新しい体験を出来たことに、ニーナは少しだけ喜びを感じていた。
(この子達には広い世界を見せてあげたい……)
ニーナは大聖女になって国中を回る様になり、この世界の様々な事を知った。
元から本が好きで、勉強することも好きだったセラニーナには、この世界の知識だけは豊富に有った。
けれど外へ出て体験することは知識だけを得る事とは全く違った。
海の広大さ、地平線の美しさ、星の輝き……
言葉では言い表せられないほどの感動がこの世界には広がっている。
それをディオンとシェリーには体験してもらいたい。
子供の頃の体験は大人になっても覚えて居るもの……
ニーナはいつしかディオンとシェリーには、これ迄育て上げた聖女候補たちに向けた以上の愛情を持ち始めていた。
(この子達を幸せにしなければ……)
それはニーナの体に入りこんでしまった償いともいえるし、元聖女としての使命でもあった。
それと共にニーナ本人の体が、ディオンとシェリーの二人に向けている愛情をセラニーナも感じている所があった。
これまでセラニーナ時代に家族に恵まれることの無かったニーナは、自分が感じている感情が家族愛だとハッキリとは気づいていないのだった。
「さあ、お兄様、お姉様、順番に魔力検査を致しますよ」
「はーい」と手を上げ返事をする二人を可愛くも感じながら、これで今後の二人の育て方が決まると、ニーナは気を引き締めた。
先ずは年上のディオンから検査を始める。
銀盆に手を掲げさせ、銀盆の中の水がどう動くかを見る。
聖盆の水が、赤、青、そして黄色に光った。
ディオンには三つもの属性があり、火、水、雷と攻撃に向きそうな物ばかり揃っていた。
体を動かす事が好きなディオンは、やはり騎士に向いているとニーナは思った。
ただし、ニーナに基礎教育の指導はできても、騎士の教育はニーナには出来そうにない。
ディオンと相性のいい教師を見つけ指導を仰がなければとニーナは心の中に書き留めた。
実は大聖女だったセラニーナにはディオンの剣の教師には当ては有った。
ただし、相手がセラニーナだと信じてくれるかという事と、手紙を送るお金を調達しなければならない……という大問題が先ずはあるのだが……
まあ、そこも何とかなるだろうとニーナは考えて居た。
次にシェリーの検査を始めた。
聖盆は白と水色に輝いた。
そのことでシェリーは光と風属性を持っている事が分かる。
シェリーの検査結果を見て、やはりベンダー男爵家の女性には聖女になる素質が生まれ持ってあるのではないかとニーナは感じた。
シェリーはニーナの育て方次第では大聖女にまで上り詰める可能性があるだろう。
責任重大だと思いながらも、これまで多くの聖女候補の少女達を育て上げて来たセラニーナの心が燃える。
(シェリーを自分以上の聖女に出来たら……)
と、ニーナはそんな強い思いまで浮かんでいた。
「私も検査してみますわ」
ニーナも聖盆に手をかざす。
するとニーナは火、水、土、雷、光と五色に輝いた。
どうやらニーナは兄弟の中で一番魔法の才能がある様だ。
何故なら聖盆の水がニーナの強い魔力に反応して兄弟の中で一番波打っていたからだった。
これにはもしかしたらセラニーナが体に入り込んだことも関係しているかもしれない。
(ニーナはどう育てようかしら……)
研究好きのセラニーナで有れば、学園に入学した後は研究職に就く道を選ぶところだろう。
けれどニーナにとって何が幸せなのか……
ニーナはどんな人生を送りたかったのか……
もしかしたら今後この体にニーナ本人が戻ってくる可能性もある……
その時ニーナが安心できる生活環境と、幸福な人生だと感じてもらえる道を歩いていたい。
これは責任重大だと感じたニーナは大きく深呼吸をした。
「お兄様、お姉様、これからベンダー男爵家を幸せにするために力を合わせて頑張りましょう。先ずは貴族学校へ向けてのお勉強を始めますからね、宜しいですね!」
「はーい」とまた良い返事を返してきた二人の瞳は希望に満ち溢れ輝いていた。
ニーナの為にも、そしてこの子達の為にも、ベンダー男爵家を立て直そうと、今セラニーナはこれまで以上に強い決意を固めていた。
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