第5話状況把握
セラニーナ・ディフォルトがニーナの体に入ってから一週間が過ぎた。
その間に仕入れた情報によると、ニーナは今現在6歳の様だ。
そして姉のシェリーが8歳、兄のディオンが10歳らしい。
全てお喋り大好きなシェリーからの情報なので確実かどうかは分からないが、話が聞こえていたであろう周りの者が誰も突っ込まない所を見ると、確かなのだろう。
そしてニーナのいるだだっ広い屋敷は、ベンダー男爵家と言う名の貴族の屋敷だった。
ベンダー男爵家の屋敷はとても広く、田舎だから広いとかそういう理由では無い事は確かだった。
ただし使用人が少ないからか、手入れが行き届いていない事も確実だった。
屋敷内には離れが二つほどあり、一つは ”花の屋” と呼ばれていて、花壇に囲まれた屋敷になっているのだが、庭は草だらけで、花壇は全く手入れがされていなかった。
そしてもう一つが、”星の屋” と呼ばれ、屋上に星が見れるテラスが付いている屋敷なのだが、こちらのガラス張りのテラスも手入れが行き届いておらず、ガラスに鳥のフンが付いたままであったり、蜘蛛の巣が張られていた。
どうしてここまで放って置かれているのかと言えば、理由は簡単だ。屋敷の大きさに対して使用人が少な過ぎるのだ。
今現在ニーナ自身で確認が取れている使用人はたったの四人。
執事のファブリス、メイドのザナ、料理人のエクトル、そして庭師のロイクだけだった。
これだけの屋敷を維持するならば、最低でも後10倍の使用人が必要だろう。彼らだけでは屋敷を維持するだけでも無理がある。
だからこそ兄のディオンや、姉のシェリーも、屋敷の手伝いを進んで行っていた。
今のこの屋敷の管理だけで手一杯の状態では貴族の子としての教育時間を持つなど無理な話だ。
それにこの屋敷には教科書になる本も無ければ、紙もない。
それに本来ならば子供たちの教育者となる母親も居ない。
このままではニーナを含め三人の子供が庶民落ちする事は目に見えていた。
貴族学校へ通え無かった子供は貴族としては認めて貰えない。
今のベンダー家の現状では三人の子供を学校へ通わすなどどう考えても無理な話だった。
(貴族学校は12歳から……ディオンは残り2年、シェリーは4年……ディオンは今から学習に力を入れてもギリギリという所ね……シェリーに至っては淑女としての教育も必要になる……勉強だけ出来る様になったとしても恥をかくのはシェリーだわ……何とかしなければ……)
ニーナが頭を悩ます問題は他にもある。
ベンダー家にはとにかくお金がない。
使用人達にそれとなく聞いてみると、どうやら給料自体貰っていない様なのだ。
シェリーが聞いてくれた話なのでどこまで本当かは分からないが、今いる使用人達は全員森で倒れていた所をこのベンダー家に拾われたらしい。
その恩を返すために屋敷に勤め、衣食住代が給料の代わりの様だ。
それを聞いた時ニーナはいつの時代に来たのかと頭が痛くなった。
使用人に給料が払えず、その上物が何も無い男爵家……
三人の子供が学園に通えたとしても、今のままでは潰れてしまう未来しかニーナには見えなかった。
ただ救いなのはベンダー男爵家で育てられている野菜はとても栄養価が高く、味も良いと言う事だった。
庭には庭園ではなく野菜園が出来ていて、庭師のロイクが丹精込めて育てている。
ここの土地は土に魔素が豊富に詰まっているようで、それが野菜に影響を与えている様だ。
売るほど野菜は取れる為、本来ならば街に売りに行きたい。
ただし、近くの街でも歩きで日帰りとは行かない為、馬も馬車もないベンダー家では無理な話しだった。
一応この辺りはベンダー男爵家の領地の為、領民に販売出来ればとも思ったが、領民こそ沢山の野菜を育てているため、それも無理な話しだった。
本物のニーナがこの体に戻ってくる可能性が少しでもあるのならば、このベンダー家を少しでも良くしておきたい。
その為にどうするべきかと、ここ一週間頭を悩ませるニーナだった。
「ニーナ、今日は何のお話しようかー?」
姉のシェリーは屋敷の掃除をしながらいつも色々な話をしてくれる。
それがニーナになったセラニーナ・ディフォルトの大切な情報源なのだが、シェリーとの会話では父親と母親の話があまり出無い。
今現在ニーナの両親の事で分かっている事は、ニーナの母親が男爵家の娘であり、父親が婿養子だったと言う事だけ。
そして情報源のシェリー自身も二人の事はあまり聞かされて居ない事が分かる。
何でも父親は病に伏せていて寝込んでいるらしく、子供達は会わせては貰えないようだ。
詳しい事は分からないが、長男のディオンだけは週に一度父親の体調が良ければ会わせてもらえているらしい。
そして母親は森へ出かけてからもう4年もの間行方不明のようだ。
シェリーからその話を聞いて最初に浮かんだ事は、恋人と逃げたのでは無いか? と言うものだったのだが、どうやらそれは違うようだった。
母親はこのベンダー家の跡取りとして森を守る為に毎日出掛けていたようだ。
なので考えられるとしたら魔獣に襲われたと言う可能性だろう。
勿論シェリーにはそんな事は伝えない。
母親が早く戻って来るようにと期待する返事をした。
「お姉様、それでは森について分かっている事を教えて下さいませ」
「うん、良いよー。でもニーナってば話し方へーん。早く治るといいねー」
ボロボロの服をさらに汚しながら掃除するシェリーを見て、早く淑女教育を始めなければと心の中で焦るニーナだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます