第七話(最終話) 「代償」

 その翌日、黒星中と新田光織は二人っきりで遊んだ。夕方になり二人はとある雑居ビルに入った。ビルへ入る直前、中は光織に二つの質問をした。

 ・ロードバイクは苦痛ではないか?

 ・雲の上の存在に今遭えるとしたらどうしたい?

 一つ目の新田光織の回答は「バイク自体には罪は無い。でも、やっぱり乗っているとあの時の事を思い出して悲しくなるし苦しくなる。」そして、二つ目の質問に対して回答は『無言』だった。

 ある一室のドアを開けて高校生二人の前にある人物が座っていた。その人は次期首相になるであろう人物で光織にとって因縁の相手でもある。その人がこちらよりも先に第一声発した。

 「ようこそ加賀美勝幸議員の事務所へ。と言ってもここは昔よく使っていたから(旧)事務所にはなるけど・・・ともあれ、よろしく。」

 光織は息を吞んだ。『次期首相』と呼ばれるお方が一人でここに来るなんて考えにくい。第一に自分の隣にいる彼は目の前にいる人物の圧にのほほんとしている。多分彼が何か企てたのだろう。現に議員は続けてこう言った。

 「時間もそんなないし、単刀直入に訊く。何の用だい?」

 「・・・・」

 「彼女ではないね?私を呼び出したのは?」

 「正解!じゃあこっちも直入に訊くよ。加賀美勝幸議員が約十年前に起こした事故?って本当に起きたことなんすか?」

 「ああ・・・アレは不幸な事故だよ、被害者の家族には悪い事をした。」

 「そういう事ではなく、他の議員さんが同乗していたのでは?」

 「それはどういう意味かな?」

 「どこまで白を切るつもりかは、今はどうでもいい。多分結果として変わらないから。」

 「中?」

 「ただ光織には知る権利がある。新田香織の死んだあの事故の事を」

 「・・・・そうか、そこにいる彼女があの時の子かぁ・・・」

 「そっす」

 「今になって当事者が揃うとは思わなかった。けど知ればどうなるかわからんぞ。一番危険なのは君だ。なんせ赤の他人なんだから。」

 「そんなのは分かってる。貴方をここに呼ぶ時点で覚悟は出来ている。気にすんな。俺が勝手に突っ込んだ結果として受け止めるよ。ただ俺の覚悟を汲んでくれるなら、彼女らを今度は議員アンタが守ってほしい。おそらくもうその時には俺は隣にはいないから・・・」

 「そう。君はその歳で覚悟を決めて生きているのか・・・恐れ入った。私はまだ覚悟が出来ないからのうのうと議員をやっているのかもな。」

 「ちょ・・ちょっと二人で何話してるの?お姉ちゃんの事故の真相は?」

 「光織もとい新田家は少し誤解をしている。たしかに光織の姉を殺したのは加賀美議員車の運転手。でも、後ろに乗っていた議員は違う議員が乗っていた。推測にはなるが、かなり重要なお方が隠れて乗っていた。そんな状態で事故を起こしても止まるわけにもいかずそのまま行ってしまったわけ。あとで辻褄合わせして、そこに乗っていたのは元々の所有者の名前を出した。つまり加賀美勝幸議員もまた被害者の一人である。それで合っているかな?」

 「その通り。そのお方の罪を無理やり押し付けられて裁判にもなり最終的に不起訴処分にはなったが、それでも自分を人形扱いしあわよくば切り捨てる行為は許し難い。」

 「しかも、その監視は双方今も続いている。裏切ればこの世に居るのも難しくなるように・・・あの秘書もその監視の一員。」

 「あの秘書かぁ~あの方のやり方だ。でもそろそろ潮時、こちらも仕掛ける準備はできた。私ももうあの時の臆病な私ではない。多少の傷は勲章として掲げるようにしていく。それと新田家には後日ちゃんと謝罪をしに行くつもりだが、この十年何も出来なかったのも事実。この場を借りて本当にすまなかった。人の命を無碍にした罪は必ず私があの方に分からせる。」


 彼女の前で深々と頭を下げた人は、先ほどの圧もなくただの一人の男性だった。でも、この人が『十年何も出来なかった』と言っていたが、それは違うと思う。この人はこの自転車世界にある意味革命を起こした人で、彼女が生きる道筋を与える活動をしていたのも事実。


 帰り道にて

 「だってよ。光織はどう思う?」

 「どうってまだ混乱してる」

 「でもよ。これで幾分楽しく自転車に乗れるだろう?香織もそれを望んでいる。」

 「うん。ありがとう。ねぇ~どんなことをしてあの人を呼んだの?それに・・・」

 「【何故、真実が分かったのか?】それはな、俺がなんでも出来て何もしない、超汎用性の塊だからだ。」

 「それってつまり・・・企業秘密ってこと?」

 「そうとも言えるな。」


 完

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彼女がロードに乗る理由 久遠文嶺 @akaki-murasaki

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