第六話 「結果」
結果:新田光織の負けだった。
序盤の時点でかなりのリーチがあった。明らかな力の差を見せつけて相手が諦めるように促した。だが、それが通用するのは常人だけであって非常識な人には全くと言えるほど、寧ろ相手の心を奮い起こした結果として、中盤から終盤にかけて優勢に見えた勝負はあっという間に逆転していた。僅差の状況で最後の直線(ゴールスプリント)で、光織はほんの一瞬トルクを緩めた。踏み続ける段階での判断ミスは致命傷になる。傍から見て光織の行為は一瞬過ぎてよく判らないほどの微々たるものだが、間近で見ていた者や練習を観ていた者はすぐに理解できるものだった―勝ちを確信した愚行に・・・光織自身ほんの少し集中力が薄れた瞬間の出来事に過ぎず、それでも自身が有利な状況には変わらなかったと思っていた。でも、ゴールラインを先に通ったのは自分では無かった。制服姿のただのクラスメイトの一般男子に負けた。
「そんな・・・」
「結果は結果。素直に認めろ。まぁ変な気で無かったら光織が勝っていただろうに」
「ん?今、私の名前言った⁉」
「ああ、ってか気にするとこそっち!別にいいじゃん。新田家が今ここに二人もいるんだから、消去法で名前を言うほかないだろう?」
「そりゃそうだけど・・・」
「それよか、俺は光織に勝ったので『なんでも云う事を聞く』権利を行使してもいいだよね?」
「何⁉まさか変な命令をして私を辱める気、最低‼」
「光織はそんなのを所望するとは・・・それはあとで命令でできるからいいとして、今度の週末俺に付き合ってよ。」
「はぁ⁉命令できるのは一度だけ」
「あれれ?おかしいな、あの時【制限を設けていましたっけ?】まさか負けるとは思っていなくて、そこまで想定していない。と、そんなのはそちらの勝手な都合ですよね。ねぇ親父さんもそう思いますよね?」
「ちょっと‼パパを連れて来ないでよ。分かったから!」
「なら早速連絡先交換。」
観念したようで光織は携帯を取り出した。連絡を交換中に光織が「ねぇ、これだけは約束して。学校では他人のフリしてくれる?」その問いに中は
「それは当たり前だ。光織にとって不利な事しか起こらないからな。それは約束するよ。
「ありがとう。」
新田光織は戸惑っている。あの日の勝負で負けて『なんでも云う事を聞く』こととなったが、あの日以降連絡が全然来ない。学校でも他人のフリをしている為かなかなか黒星自体が一人になっている時間が無く、割と普通に一週間が過ぎていた。確かに黒星はあの時に『今度の週末。付き合って』と言っていた。となると、この土日に連絡が来ると踏んでいたのに、まったく携帯が鳴る気配が無い。
「せっかくの休日空けたのに無駄になるじゃん。いい加減に連絡しろ!黒星中!」
と言った途端、突然携帯が鳴った。すぐに画面を開くとそこには【黒星中】の文字が表示されていた。内容は『明日暇なら付き合って。一応、光織にも拒否権があるから安心してクダサイ』と何故か最後カタコトで終わっていたが、すぐに光織は【はい】と返信した。でも、よくよく考えたらこれは所謂【デート】ではないか?と思うと、急に恥ずかしくなってしまった。
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