第二話 「黒星 中の日常」

 「おはよう、京。今日も平和でありたい。」

 「大抵の日は平和であることが多いよ。おはよう、中。」

 いつもの朝、いつものように通学し下駄箱で友人にボヤキと共に挨拶をする中、友人はそのボヤキに対しても普通に返しながら挨拶を交わす。もう一人の友人ならもしかしたら怒るかもしれないが、この友人:夏目京はおおらかな性格のようで大体はスルーしてしまう。けれど、特段話が嚙み合わない訳ではない。教室に入り既にいたもう一人の友人:飯坂友哉が二人に声を掛ける。

 「おはよう」

 「おはよう」

 「今日も平和でお願いします、神様。」

 「誰に話している?つーか俺に対して言っているのか?だとしたら・・・」

 「いや、ただの祈りだよ。自分キリスト教なんで」

 「初めて聞いた。」

 「ンな訳ないだろう、真に受けんな京」

 「そうだよ、俺が神様を信じるなんて・・・それこそ何かがあった時だけだよ。」

 「だよなぁ(笑)



 高校三年生になって初めて黒星中は窓際の席になった。一、二年の時は生徒が多く在籍していたため「く」の付く苗字の人が窓際になることはまず無い。ひと昔の話になるが、高校三年生になる時には大体一クラスぶんの生徒が何らかの理由で学校を去ってしまっているようでクラスの生徒密度もその分スカスカになる。昨今の少子高齢時代が加速しているので残り少ない生徒が今後どのようにして社会を回していくのか、些か心配である。だから、あの政策も平気で施行する時代になってしまった。まあ、こればかりは一生徒の言い分で変わったらそれはそれで大変な時代に突入したと後世に残るだろう。そんな事を考えながら黒星はウトウトしながら朝を過ごした。無論、教諭の言葉など一切耳に入ってない。彼のその姿は教諭にもしっかりと映っているが、怒る仕草も教諭はしないし普通にスルーしていく。教諭からしたら三年間も同じ生徒を持つ羽目になったからか、教諭が生徒に、生徒が教諭に文句を言う動作を周りを含めて一度見たことない。ただ、過去一度だけ彼を叱責したことがある。叱責内容は言わずもがなだが、彼曰く『周りの反応を見て先生が先刻何を言ったか大方想像が付く。その場の雰囲気も加味して行動すれば自動的に情報が確信を成して入ってくるから』だそうだ。それを聴き教諭は驚いた。たったそれだけで内容が的確に入るとは思えない。彼は生徒一人一人の信頼関係や信用度をほんの少しの挙動や言葉遣いで把握できる能力も群を抜いて優秀だった。このため叱責以外で怒られる形跡が無い。他の教科の教師陣に彼の動作について尋ねるも「特に問題もなく優秀な生徒ですよ」と返ってくる。これもあってかそれ以降この教諭は彼を注視するものの叱責することはなくなった。



 「中、担任の話聞いていたか?」

 「うん、全然聞いてないよ。」

 教諭が教室から去った後、友哉が話しかけてきた。彼の相変わらずの生返事に「オイ!」とツッコミを入れるが・・・

 「アレだろう?どうせ今週中に《進路》希望を出せって話だろう?」

 「分かっててもさー、上の人の話はちゃんと聞こうぜ。それがせめての生徒の礼儀だ。」

 「はいはい。流石優等生の言葉、心に沁みるねぇー」

 「言葉からはそんな風には決して聞こえないけど・・・」

 友人は彼の不作法さは世間には通用しないと思っている。大体そういう奴は社会自体に淘汰されてしまうからだ。高校の友人でも大事な友人である、失うのは嫌だ。

 彼は友人の思っていることは友人の顔を見れば自ずと明らかだった。だからと言って彼は自身の歩みを止めたりしない。それは友人の言葉でも無理。


 中はこれ以上の話は無駄と判断し窓の外に目を向けた。そこには全生徒の自転車駐輪場があり、クラスの場所に何かいるのを視認した。

 「なぁ?あそこってウチのクラスの駐輪場だよな?」

 「いきなり話を切るな!んん?ああ、だから何?」

 「人が居る」

 「普通この時間にいるか?特別な日ではないから、特段いないはずだけど・・・」

 友哉が教室を見渡すが、担任が先ほど言っていた「今日は全員いるな」との言葉に嘘はないだろう。なら中が嘘を言う訳もなく。

 「まさか・・窃盗犯⁉」

 しかし、そこに居たのは窃盗犯でもなくただの生徒だった。しかも、女子生徒。

 「あれ、誰?」

 「ああ・・・・いたな、そういえば【免除の生徒】がウチのクラスにいたわ。」

 「免除?」

 「たしか名前は『新田光織』だったような・・・?」

 「『新田光織』って誰?」

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