第一話 「最後の受験生」

 『新田香織』という存在を失って十年ぐらいの月日が経過した。その間自転車業界は多少なりとも変化があり、それは特に学生通学に関して言えば、ひと昔ではシティ自転車が主流だった。しかし昨今の主流ではスポーツ自転車に置き換わっている。

 そもそもこの自転車の一台平均金額は諭吉さんが十人以上は必要である。

 そんな高級な自転車が買える裕福な家庭が、全ての家庭に当てはまるとは決して思えない。ただそれを可能にした政府の政策がある。それはただの副産物に過ぎないけども・・・・。昔の財政は非常に苦しく政治家たちも自分勝手な政策を施行し、現状回復さえもせずどんどん財政はひっ迫していったが、ある年から徐々にだがひっ迫していた財政が回復していった。そして、政府は来年度に追加政策を施行予定である。それに伴い【今年度の高校三年生の受験】は戦争並の激しいものとなると専門家は云う。


 「あーあ。最後の受験世代に産まれてくるとは思いもよらず、出来るなら一年遅れて産まれて生きたかった。」

 教室の席で天を仰ぎながら文句を漏らす一人の男子生徒。その文句に対して友人が言った。

 「でも、来年以降の子たちは更に約二~四年勉学が続くぞ。」

 「それは嫌だなぁ。無理やり進路を決められるこの政策に皆不満は無いのか?」

 「まぁ、なくは無いがそれでも親の世代と比べると・・・さ。」

 「つっても京友は進学なんだろう?しかも『学校推薦』という落ちる可能性が格段に低い受験方法を使って。」

 「いつも思うが、中が俺らの事をBL感覚で呼ぶから一部の女子からそういう目で見られ、かなり風評被害を受けている。せめて分けて言ってくれ。」

 「攻めてなら友京かな?」

 「違う!そんな事より中お前はどうすんだ?まだ三年生になったばかりとは言え、時間は無限にあるわけではない。

 「友哉」

 「何?」

 「お前は俺の先生か」


 そう。俺らの世代で【受験生】という言葉が消える。

 たしか事の発端は政府の教育政策の一環として始まったのが『高校授業料無償化』だったと思う。この無償化の対象は低所得者層で、お金のせいでやむを得ず中退を防ぐ役割があった。それから数年後に『大学授業料無償化』も低所得者層を主眼に施行した。これには専門家同士で意見が割れた。

 「少しでもいい大学に入学すれば未来は安泰」と暗示を真に受けたその当時の親や政府が教育最後の策として【小中高大授業料無償化】を打ち出した。なんだかんだ施行するまでに時間かかりようやく施行されるのが来年度になるらしい。この政策ではほとんどの受験生は受験をしなくても繰上り進級する。当然ながら、単位を落とせば留年するし退学処分行為を行えば退学になる。例えば高校や大学を留年すると、その年から授業料通常通り発生する。話が少し逸れるが基本義務教育の間は留年や退学も無い。

 この政策で再来年度以降の新入社員は特例を除き一時的にいなくなる計算になるため、今年の高校三年生はかなり貴重な人材となるテレビで云っていた気がする。ともあれ勉強が嫌いな人ほど大学四年間は死ねるし、一生フリーターやニートで暮らせる訳ではない。どこかで【就職】を決めてある程度安定しなければ次世代の若者に馬鹿されるのは目に見えている。でも、それでも少しぐらいの猶予が欲しい。「最後の受験生」ともてはやされ早々と周囲の雰囲気に呑まれ決断を誤るのは、自分は御免だ。

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