第35話

☆☆☆


数週間後。



トクイアン王国は、街人たちの手により完全に幕を閉じた。



王であるトクイアン本人は金も権力も失った。



そして、ここはアリムの家。



「ローズ、店番を頼む」



「えぇ。いいわよ」



ローズとアリムは妹のサリエを交え、3人で暮らすこととなった。



2度も自分を助けてくれた青年。



王子じゃないけど、お金も、権力もないけれど。



姫には似つかわしくない人だけど。



それでも、ローズはずっとこの街で一緒に暮らせていけたらと思っていた。



自分の父親のこと、母親のこと、魔女のことが気にならないわけじゃなかった。



どれだけ冷たくても、どれだけ無関心でも、両親だから。



ローズは店の茶色いエプロンをつけて、カウンターに立った。



窓の外から、店の様子を気にするホワイトの姿。



「大丈夫よ! 昨日サリエにお会計の仕方を教えてもらったから」



ホワイトに聞こえるように言い、片手をあげてみせる。



そのサニエは、今日はアリムの変わりに新しい商品の下見に出かけている。



アリムは、なにか大切な用事があるといっていた。



「このお店がもっと繁盛してくれたら、ホワイトの小屋を作れるのに」



今のところ、ホワイトは店の外で寝起きしていた。



雨などが降ると、山へ飛んでいって木々の間に身を潜めて過ごすのだという。



「農機具だけじゃなくて、キッチン用品も置けばいいわ。それから店内をもっと明るくして、小窓ももっとオシャレなカーテンに変えて――」



店内の掃き掃除をしつつ、そこまで言ったとき外が騒がしくなってきた。



いろんな店がほぼ同時にオープンするので、このにぎやかさはいつものことだった。



しかし今日は、その騒がしさが、次第にこちらへ近づいてきているのだ。



「あら……お客さんかしら?」



手を止めて、カウンター内へと戻る。



いつもは開店してもしばらくお客はこない。



昼頃くらいから徐々にお客は増え始め、商品を吟味しては小首をかしげて店を出る。



そんな事が多かった。



なのに、バンッと開いた店のドア。



勢いよく入ってくる数十人、いや、数百人はいそうな客数。



その数に、カウンター内で唖然として立ちすくんでしまうローズ。



(これは一体、どういうこと……)



「ローズ! 鍬はどこにある?」



「俺は馬をひく綱を探してる!」



「畑の肥料は、置いてるのかしら?」



次々と浴びせられる質問に、ローズは「あ、えっと、あの、こちらっ!」と、しどろもどろに受け答えをする。



「一体、今日はどうしたって言うんですか?」



ちょうど、ローズを地下室から助け出してくれた街の一人と目が合い、ローズは訊ねた。



「今日は街のみんなの給料日なんだよ。薬を分けて助けてくれたアリムに、ちょっとでも恩返しするために来たんだ」



「はぁ……」



昨日サリエに会計を教えてもらったからといって、1人でさばける人数ではない。




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