第19話
「ちょっと待って……一体どういうこと?」
「あの男には、お前への愛情が見受けられん」
キッパリそう切る魔女に、瞬きを繰り返すローズ。
つまり、アリムがちゃんとローズを愛せば何も問題はないのだ。
以外な発言に、ローズはしばらく放心状態になってしまう。
不意に、アリムの言葉を思い出す。
『魔女に愛されている』という、あの言葉を。
「おばあさま……あなたは、あたしを愛しているの?」
その質問に、魔女は答えない。
「ねぇ、あたしはただの実験台じゃなかったの?」
更に言葉を続けると、ザイアンは渋々口を開いた。
「ただの実験台なら、わざわざ王の姫をさらうものか」
「それって……」
「お前は、自分の生まれ落ちた境遇を受け入れられるか?」
ザイアンの言葉に、ローズはグッと喉の奥に言葉をつまらせた。
胸に苦いものがこみ上げてきて、幼少期の記憶が一瞬にしてよみがえる。
あれが王の娘だと、指を差さていたときのことを。
王は女好きだから娼婦にまで手を出して、そしてできた娘だと、笑われていたときのことを。
国に帰りたい。
だけど、帰りたくない。
その思いから、『本当に、国へ帰るの?』と、アリムに口走ったのだ。
塔へ戻りたいワケじゃない。
だけど、国にもあたしの居場所はどこにもない。
「あたしは……」
震える声で、呟くように言った。
目を閉じ、アリムの顔を思い出す。
「あたしは、大丈夫よ。アリムが一緒なら」
「何を言っておる! あの男は金が目当てだとあんなにハッキリ――」
「でも、信じてる」
ザイアンの言葉を遮り、ローズは言った。
信じてる。
妹のために、街ではすでに忘れ去られているような姫を救い出す男を。
誰も迎えに来なかった姫を迎えに来た男を。
「信じてるのよ」
もう一度言うと、ザイアンは馬を止めた。
咄嗟に、ローズはその背中をおりる。
「本当に、いいんじゃな?」
三角帽子の長いツバから見え隠れする小さな目が、少し濡れているように見えた。
「えぇ」
「現実は、過酷じゃぞ」
「もう、知ってるわ」
「勝手に飯を運んでくるババァもおらんぞ? ドレスも、自分で買う必要があるぞ」
魔女の声が震え、シワの刻まれた頬に一筋の涙が流れた。
「わかってるわ」
ローズはザイアンの手を握り締める。
「どんな苦悩にも、立ち向かうつもりよ」
その決心を目の前に、ザイアンは「そうか……」と、頷き、マントの中に片手を入れた。
「これを……」
そしてその手を開くと、赤い薬が1つ乗っていた。
「これは?」
「今、国で流行っている感染病を完治させる薬じゃ」
「これ、もらっていいの!?」
「あぁ。持っていけ」
「ありがとう!!」
ローズがそれを受け取ると、魔女は無言のまま馬を走らせた。
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