第18話
その数十分後。
ローズはムスッとした表情で白馬の背中にまたがり、自分の前に座っているザイアックの背中を睨みつけていた。
「動物に剣を振り上げるなんて」
「しかし、あの竜は無傷ですよ?」
その通り。
ザイアックは振り上げた剣でローズのドレスのすそを切ったのだ。
ホワイトはギュッと目をつむり、その目を開けたときには口にドレスの端切れをくわえた状態で、ローズの姿はもうどこにもなかった。
「もう真っ暗よ? どこまで行くつもり?」
「今日は、このまま国へ向かって移動します。野宿なんてすると野生動物に襲われますからね」
「あっそ……」
ザイアックのいう事はいちいち正しくて、ローズを余計にイライラさせた。
「馬は休ませなくて平気?」
トロトロと歩く馬を気遣うふりして、どこかにザイアックの欠点がないかと探る。
「今日は昼間十分に眠らせておいたので、大丈夫ですよ」
「お腹がすいてないかしら?」
「馬の薬草と水は、洞窟に入る前にオアシスで済ませてきました」
どこまでも用意周到なザイアックに、とうとうローズは無言になった。
あたりは真っ暗で肌寒く、馬の首にペンダントのようにぶら下がっている光だけが頼りだった。
それからまたしばらくして、ローズはふとある事に気がついた。
数分前からザイアックの頭が前後左右に揺れて、まるで眠っているようなのだ。
「ザイアック?」
声をかけても、返事はない。
「馬の上で寝るなんて、危ないわよ?」
そう言って、肩に手をかけた瞬間――。
ローズは一瞬にして血の気が引いていくのがわかった。
触れたことのある感覚。
ゴツゴツと骨のでっぱった肩。
ゴクリと喉を鳴らし、唾を飲み込むローズ。
(まさか、そんなことないわよね?)
不安を抱きながら、ローズはザイアックの冠に手をかけた。
そして、それを勢いよく外した時……細かな光の粒がザイアックを包み込み、次の瞬間、その王子の姿はなくなっていた。
変わりにそこにいたのは……「おばあさま!?」ローズが悲鳴に似た叫び声をあげる。
そう、そこに現れたのは真っ黒なマントを着た白髪交じりの魔女。
ザイアンだったのだ。
ローズを長年塔へ閉じ込めていた本人が、そこにいた。
「おや……バレちまったかい」
ローズの悲鳴で目覚めたザイアンは、自分の魔法が解けていることに気づき、しゃがれた声で小さく呟いた。
「どういう事なの!?」
「ずっと……お前の行動を水晶で見ていた」
「ずっと!?」
「そう。あの窓が割られた時から」
そう言われ、ローズは初めてアリムと出会ったときのことを思い出していた。
常識外れて、強引な男。
自分にはもっとも縁のない人種だった。
それが、今では離れたくない一緒にいたいと思っている。
「あたしを連れ戻すつもりなら、どうしてもっと早く来なかったの……?」
「様子を見ていたんじゃよ。あの男が、どういう男か」
そこで言葉を区切り、ザイアンは眉間にシワを寄せた。
「その結果。やはりあの男はお前には似合わんと、結論がでた」
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