第16話

洞窟の中に風が吹き込み、ヒューッと冷たい音をたてた。



ローズは対峙している2人の邪魔にならないように、ホワイトの体の影に身を潜めた。



さっきまで眠っていたホワイトも、この緊迫した雰囲気に目を覚まして「キュウ」と、不安そうな鳴き声をあげた。



「大丈夫、大丈夫よ」



囁くようにホワイトへ向けてそう言い、その背中をさすった。



じりじりと距離を縮める2人。



先に手を出したのはザイアックの方だった。



アリムは突き出された拳を屈んでよけて、お腹に一発くらわせる。



「いいぞ!」



ローズは思わず拳を突き上げて喜び、再びホワイトの背中へと身を隠した。



「そんな王子やっつけちゃえ!」



その声援にこたえるように、アリムは何度もパンチをくらわせる。



「どうした? 王子様は剣術に優れていても素手じゃ話になんねぇのか?」



調子に乗ってそんな事を口走り、バランスの崩したザイアックの上に馬乗りになった。



これでもう勝ったも同然だ。



ザイアックの頬に右から、左から、何度も何度も拳を落とす。



「ほら、観念するなら今のうちだぞ?」



ザイアックは鼻血を吹いて、口の端を切った。



しかし、その目はしっかりとアリムを捕らえていて離さない。



「どうする? もうあきらめろよ」



しぶといザイアックに、アリムの力は緩んでいく。



このまま殴り続ければ死んでしまう。



早く逃げ出すなり、なんなりしてもらいたかった。



「ねぇ……ねぇ、アリム、大丈夫なの?」



ローズが、心配そうに聞いてくる。



「あぁ……たぶん」



目を開けたまま気絶してるってことはないよな?



そう思い、手を止めて様子を伺う。



ザイアックの目はしっかり見開かれているものの、焦点があっていないようにも見える。



「まじかよ」



こんなところで気絶せずにさっさと帰ってもらう予定だったのに。



予定外の展開に頭をかいた、その瞬間。



ザイアックの拳がアリムの顔面をとらえた。



急なことで避けることもできず、そのまま横へなぎ倒される。



「アリム!!」



思わず、ローズは叫んだ。



ホワイトも「キュウキュウ」と鳴き声をあげる。



しかし、アリムはその一発で完全にノックアウトされ、ピクリとも動かなくなってしまった。



それを確認し、「わたくしの勝ちだ」と、ザイアック。



(冗談でしょ!?)



さっきあれほど殴られていたにもかかわらず、ザイアックにはほぼきいていなかったのだ。



血は出ているけれど、倒れるほどのものでもない。



クルっと振り向いたザイアックから身を隠すように、ローズはまたホワイトの背中の後ろにしゃがみ込んだ。



「姫、行きましょう」



隠れても無意味だということはわかっていた。



すぐに見つかり、腕を掴まれる。



「嫌よ!」



「どうして?」



首をかしげて聞いてくるザイアック。



「だって、あたしを助けてくれたのはアリムよ!」



「だから、この青年には金をやると言ったんです。まぁ、それは拒まれましたがね」



「お金の問題じゃないわ! 気持ちの問題よ!」



「では、姫はこの青年が好きだとでも? ハハッ! 王国の姫が、このボロ雑巾のような青年を?」



冗談はよしてください。



ザイアックはそう言い、ローズを強引に引きずっていく。



「行かない……!」

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