姫を助けたのはボロ布をまとった青年でした
西羽咲 花月
第1話
幼い頃魔女に連れさらわれた王の娘はローズという名をしていた。
バラのように美しかった幼少時の姫。
愛娘を救うため、王様のトロクイアンは口を開いた。
「魔女の用意した塔の最上階に閉じ込められたローズ姫を助け出せば、莫大な遺産をやる!」
最上階へ行くには塔の1階にいる兵士たちを倒し、2階にいる真っ赤な龍の首にかかっている鍵を奪う必要があった。
最初の頃こそ、勇気ある若者たちが塔へと挑んでいたという。
しかし、最上階までたどり着く者はおらず、月日は流れて十数年。
とらわれの身、ローズ姫は18歳を迎えていた……。
灰色の室内。
真っ白なベッドが窓辺にあるだけで、あとはなにもない部屋の中、姫、ローズはため息をこぼした。
窓から見える景色も、今日は天気が悪くて灰色がかっていた。
白く輝くドレスを身にまとったローズは窓辺に座って、代わり映えしない砂漠景色を見るのが毎日だった。
長く絡みのない金色の髪に指を通すと、絹のような肌触り。
長年外へ出ていない肌は病気のように白く、華奢だった。
(あたしをここへ連れてきたとき、魔女はあたしを魔法の実験台にするって言ってたわ)
ローズは思い出す。
真っ黒なマントに身を包み、先端の尖った帽子を常にはずさない魔女の姿を。
そのしゃがれた声を。
帽子の大きなつばから見え隠れする、赤く光る目を。
思い出すだけでぞっとして、身を縮めた。
(魔女はどうしてあたしを選んだのかしら。
魔法の実験台なら、別に王の娘を選ばなくてもよかったのに)
魔女は1日3回ローズの食事を運んでくる。
ローズは恐る恐るその食事に口をつけるが、今のところ変わったことはない。
むしろ、その料理はどれもおいしく、ヘルシーだった。
まるで自分の体を心配して作ってくれているようだと、ローズは何度となく感じ、何度となくその考えを打ち消してきた。
(自分を誘拐した魔女が優しいワケない。
きっと、あたしをもっと成長させてから最初の企みを実行する気なんだわ。)
窓は開けずに、今にも雨が降り出しそうな空を見上げる。
ここ数か月前から、魔女はローズに『窓を開けるな』と、指示していた。
(何かが始まったのね)
ローズは直感的にそう思った。
十何年も一緒にいて、窓を開けるなと言われたのは、これが初めてだったから。
とうとう魔女の実験が始まったのかもしれない。
そう思い、ぶるっと身震いした次の瞬間、突然窓の外に真っ白な竜の背に乗った、見知らぬ青年が姿をみせた。
驚きのあまり、悲鳴も忘れてその場から後ずさりするローズ。
「なに……?」
(一体どうなってるの?)
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