第6話

「麦茶を買えない病気かもしれない」


麦茶のパックを切らして早1週間。

最初の2、3日は、あー今日も忘れちゃった!

で過ごしていたのだけど。

その後はメモに書いたり、スマホに貼ったり、アラームかけたりあらゆることをしても麦茶を買うことが出来ない。

これはもしや、見えない力で麦茶を買うことを妨害されているのか!

もしくは麦茶を買えない病気なのではないか!


その後麦茶は無事に我が家にやってきたのだが、その次にやってきたのは。


「紅茶を買いすぎてしまう病気かもしれない」


忘れないように買うのだけど、買ったことを忘れていて我が家には今紅茶の箱が4箱になった。


買える買えないの病気の心配ではなくて(そもそもそんな病気はない)

他の分野の心配をした方が良さそうかも…


今日は何を買うのを忘れなければいいんだっけ?

と考えながらパートに向かう。


****************


本日のお客様

安田様


奥様1人でご来店

多くのお客様は2回目からは予約をしてご来店なのだが、安田様はいつも買い物ついでにふらっと来店。


「約束はしてないんだけど、東山さんいますか?」


東山さんは新人君なので、大抵は事務所にいる。


幼稚園児のお子様1人と築地でお鮨屋の店長をしているご主人との3人暮らし。

お子様が小学校に上がるタイミングで引っ越しをご検討されているのとのこと。


建て売りではなく土地を探してるようで

どうやら建物にかなりこだわりがあるらしい


「ちなみにどのようなところに拘ってらっしゃるのですか?」

という質問に


「コンロは2つがIHで1つはガスがいいの」

「あと魚焼きグリルはいらないの」

「お風呂の鏡もいらないかな」


「・・・」

「なるほどですね。えっとそれは間取り的な拘りとかではなくかなり細かい部分の…」

慎重に言葉を選んでいるが(え?そんなこと?)と言う気持ちが前面に出てしまっている。


となりの課長が見かねて

「そういったところでしたら、建売でもリクエストで変更することも可能ですよ。土地だけで探されるよりも選択肢の幅が広がると思います」とフォロー


その後もご主人の通勤を考えて色々な物件を紹介しているところに


「主人は職場を変えてもいいんで場所はどこでもいいんです」


「・・・」

「なるほどですね。えっとそうなりますとどの辺りがご希望で」

(まじかよ先に言ってくれよ)の顔である。


しばらく時間をかけて物件を探し、「川越などはいかがでしょうか」との提案に


「川越か〜川越って聞くと震えますね」


(何言ってるんだこいつ)の顔である。


「とりあえず今日は油揚げ買いに来たついでによったのでまた来ますね〜」

と帰っていく安田様に


「次回からは突然来るのはやめてください」


あー言っちゃった。

受付帖は心の中でつぶやいた。


頑張れ新人君!

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