第3話
キッチンの引き出しを開ける。
そこには、ナフキン、栓抜き、箸置き、コースターなどがシンデレラフィットしたニトリの小分けボックスにお行儀よく並んでいる。
1番手前の輪ゴム置き場の隣に場違いな物が綺麗に収まっていた。
そこにあるべきではないシャウエッセンが。
二度見ならず三度見をしてようやくシャウエッセンと理解したほどだ。
そこですかさず写真をとり、グループLINEに報告する!
みて!こんなところにシャウエッセン!
すると我も我もと犯した罪の自慢大会が始まる。
今回の優勝者は、お味噌汁の鍋の蓋を開けたらお椀が浮いていたという大罪を持っていた晴子に決定した!
一緒に老化する友人ってありがたい。
保冷されていなかったシャウエッセンに謝罪しながらゴミ袋に入れ、さらにいくつかの袋を大きなビニール袋にまとめてきっちりと結ぶ。
今日は週に2回の燃えるゴミの日だ。
ゴミを出しつつパート先に向かう。
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本日のお客様
小田切様
40代男性お一人様
息子さんとの二人暮らし用の戸建てをご希望
作務衣に草履、タオルをおでこの辺りに巻いている。
普段受付の私たちとお客様が会話をすることはほぼないが、彼はしきりに話しかけてくる。
ショウルームにはいくつかの絵画が書かられているのだが、一枚の波の絵の前で腕を組み
なつかしいなぁ。
と割と大きな声でつぶやく
そこでもう一人の事務員武田さんが
絵を描かれていたんですか?
と愛想良く相槌をうつ。彼女は人と話すのが好きなタイプで彼もいつも武田さんの方に向かって話している。
いや、まったく。
絵を見たまま笑うでもなく真顔で答える。
・・・・。
じゃあ、サーフィンをされてたとか?
いや、まったく。
・・・・。
流石の武田さんも次に繋げる言葉が見つからず
仕事にもどった。
そんな小田切様は、息子さんの意見がとても重要のようで
事あるごとに、俺はいいけど息子がなんと言うか…
と営業を困らせている。
一度書類上で仮契約を交わしたものの、翌日になって息子さんの反対のため流れた事もあった。
ようやく親子の意見が一致したところで、今度は小田切様の姉の意見が合わないとの事でなかなか話がすすまない。
その度にお店に訪れて色々な話をして帰る。
奥の席にご案内しても、ここでいいよと受付の前の席を希望するようになった。
そう。彼は家を買いに来るというより、不動産屋に交流をしに来ていたのだ。
そう判明した時、なんだかとても愛おしく思えた。
不動産屋は家を買うだけの場所ではなかったのだ!
良いおうちが見つかりますように…
それまで何度でもご来店お待ちしています。
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