夢の中、鳥

灰色の大地で佇む。

誰かを探す気力はない。

存在して出逢ったとしても救いはない。

誰かと通じ合わなければ、苦しい。

通じ合えないものと出逢うことほど徒労はない。

何もせず座り込む。

まるで自分も灰の彫刻のようだ。

このまま何も起こらなければいい。いっそのこと。そうすれば自分は自分自身ですら新しい色を塗り込まなくて済む。一枚の絵画として不動を言い渡される。誰かに批評される。時代の流れに取り残されて過去として消化される。取り残されることだって悪くない。

この言葉を誰かは蔑むかな。そうだ。俺はこのような人間だ。誰にも感化されず独りで思いに耽っていたなら、進歩的な考えをしない世界の歯車として自分自身ではない誰かの為に与えられた肉体を維持するしか能のない人間だ。

俺よ。私よ。僕よ。

「悲しいか」

誰に僕は話しかけたのか。

空間と僕。どちらが誰か認識が干渉している。

そのとき音が鳴る。

小さな破裂音。

はるか遠くで小さな光。

まるでレモン。

僕は瞬きをする。

鳥の声が響く。

何かが起こったようだ。僕が関与しない世界で。

さて。僕は腰を下ろしている。

このまま此処にいる。

もう私は何もしたくない。誰とも話したくない。

このまま死にたい。餓死したい。渇きに絶望したい。

灰となって、虫や鳥に身を与えたい。

救いはなんだろうか。

誰か救って欲しいと思ってしまう。

矛盾しているか?

なぜ救われると錯覚しているのか。

誰も僕を救わない。

僕が何も伝えないから。

烏滸がましい。

死ね。

著しく、死ね。

生きたいと願うなら、生きろ。

努めろ。

闘え。

いやなら。

「死ね。」

何を求めている?

求めているかどうかを何故思索する?

わからない。

自分自身の中で幾多の問いかけを用意して、僕は何から遠ざかっているのか。

おそらく。

傷つくこと。

結局は。

くだらない理屈。

私は眠りこむ。

思っても何をしても人は死ぬ。

生きることに拘りすぎたよ、結局は。



僕は眠る。

夢の中にいる。

灰色の空と大地。

僕は空を飛んでいる。

僕は鳥である。

数羽の鳥と共に。

何処を目指して飛んでいるのか。

何故飛ぶことを選択したのか。

生きるため。

鳥は大地から離れて生きることを選んだ。

何かを残して鳥は飛ぶ。

風が気持ちいいんだ。

寂しいんだ。

でも堕ちない。

胸が洗われる。

寂しさだけが残る。

笑顔や喜びは置いてきた。

大切なモノの為に。

傷ついたヒト。

笑顔を知らないヒト。

喜びを忘れたヒト。

誰かの為に鳥は飛んでいる。

キミは生きていいんだよ。

伝える為に飛んでいる。

僕はそう信じたい。

願望が強い、強いんだ。



灰が沈む音がする。

私は瞼を開き、振り向いた。

人が灰に沈まないように進む。

この大地にも人がいた。

屍のような風体。

何を求めているのか。

「貴方は一体どうして?」

私は問いかけた。

人に私の声は届かない。

歩くことが最後の使命のように進む。

人は少しずつ離れていく。

私はその場で見送る。

彼のことを羨ましく思うか。

いや。

結局は他人だ。

私ではない。

羨ましさを抑え込む。

私は胸の内に希望を求めた。

希望は私の元から消え去った。

或いは遠ざけた。

もう二度と私の前には帰ってこない。

人に与えられた益の量は定まっている。

私は充分に与えられていながら、今のような身分を選んだ。

僕ですらこの運命を苦境と呼ぶには甘えが酷い。

しばらくするとまたヒトが通り過ぎる。

ほどほどにヒトが遠すぎた。

みな、同じ方向を目指している。

あの向こうに何かがあるのか。

一体何が有るというのか。

私は立ち上がる。

数少ない人間が希望を求めるに値する何かがあるというのなら、私は通り過ぎてみてもいいと思う。

浅ましい理由だが。

私は歩み始めた。

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