サイレントマジョリティ

感情がないのが答えでしょうか。

樹立する私のプログラムに違和感を覚えた。使い尽くされた生命持続の方法。

余りに簡易すぎる。これ以上を持てないのが私か。個人の限界か。

満たされた私。限度の私。

いつまでも刻まれた私と云う妄想に心を支配されている。描くキャンバスは別にあるはずだと空想しながら自分の器に惑わされ続ける。すぐそこにある世界を見つめられないんだ。

だから歩いた。踏み出した。泣いている。この器に描くことは難しい筆遣いで苦しみながら、何か変化が起こるキャンバスに視線が映り変わることを祈っている。全て私なんだ。私以外に私はいない。私のこれまでは当然のように私。全ての思考、想い、行動、出来事。

何かが変わるような気がする。絶妙に変化を促す言葉を受け止めて微笑する。そして別離する。

黒い雨が降っている。雨は涙だよって教えてくれた女の子は元気かな。

夏に耐えうる格好をした子供たちが泥色に汚れながらはしゃいでいる。夏と雨のかおり。

世界は今日も割れる。いつも誰かが産まれて死ぬ。喜びも悲しみも幾年月、人の思考はどこまで許されるのか。

無駄に思える。このようにして放棄したつもりになっても頭を使っている。感じる。自分が保護した気を行使しなくても、俺は俺の中を彷徨っている。

言葉も挨拶も私を透過しない。私は私の外側をおぼろげに眺めている。世界を見つめる日は来るのか。私が私を肯定できる日はくるのか。

強い女を探している。私は女が好きだ。女は筆なのだ。世界に対する。私が描けない世界への色彩を女は持っている。だから強い女でなければならない。強い女が世界を鮮やかに変える。

俺は出逢えるのだろうか。世界の果てですら愛することを持続させられない私が。

自分の罪に泣くな。罰に怯えるな。

私は私と他人に裁かれる。いつだって拍子抜けの死が待っている。こうやってぼけっと後悔してもし足りない空気のない日常に侵されたときに死んでもおかしくない。

死を恐れていた時期を越えて、生命の平穏に浸かっている。その状態で明日には白い病室で罪を数えている可能性は含まれている。

いつまでも自分自身のくだらない話しかできない私はよほど自己愛に富む人間だ。根本は今でも封建主義で懐古主義で保守派だ。産まれた国で育ち死ぬのだ。

何を求めて始まったのか。ここまでに血潮が肉体から抜け出した理由は?

示唆を産み出そうと思慮を繰り返す眼前に女は飛び出してきた。

血走る黒い瞳。鮮血を浴びた全身。呼吸が不規則。

運命を捻じ曲げた女にかけられる言葉を私は持ち合わせていない。唐突さが人生の代名詞は戦争の土地からのお便りを頂かなければ想像だに出来ない事実が薄い。

狼狽が板についている。

女はもう目の前にいない。私の後背を駆けていく。

遠ざかる女の背中は黒く雨に汚されて消失する。

何を希求するか。私に人生はなくドラマはなく生きる血潮を求めては白骨死体ばかりを愛でて。

殺害願望を孕んでいるわけでもあるまい。人生の土台、なんだそれは。生命を勘違いしていないか。

何もかも存在し、誤解だ。過去は確かに存在したが紛い物。生きていって、殺されるか死ぬか。数えきれないパターンの安全圏で笑って生き抜くなんてできず、どうしようもない不浄な曖昧なバランス、不出来な要素を恨みながら自分の人生などに理解を寄せられないままに誤解に陶酔したまま寿命に事切れて何一つ真相のピースに思い当たらないくだらなさ。良い物語こそ幻想だがリアルに富んでる。そしてルーレット。定まらない。なぜこんなにもバラバラ。

良く捉えてほしい。素晴らしい傑物だと褒められたい。君こそ英雄なんてそれこそ紛い物だな。

自身を解体し続けた先に何が眠るか。気狂いの要件を越えても思考を辞めない。誰しも想像だに出来ないからと云って偉大になれるわけでもない。見放されて、捨てられて、自死の申し子だ。

女を追うべきだ。どうして。理由などない。物語と人生。何もないとあるは流転しながら同義の色彩と見違えるように混ざり合う。天から見ればこの世はたった一つ。地球だ。終了。

語りも無駄だ。そのくせ聴いたり語る。虚無の海を巡る。虚無の中に有意義は発見できたかい。僕の鼓動を楽しいなんて思いこめたね。鼓動を敵だなんて思っているのさ。実に愉快だろ。

行為の既成と新規のどうしようもないパターンに納まる浅ましい物語に自分に関わった所でどうしようもないため息を漏らすだけと知っておきながら私は何故消失した選択肢の一つに縋ったふりをするのか。浅ましいパターンに納まる物語の初演に苦笑を浮かべながら、くだらなさに胸を痛めながら動作するのか。

もう生命の呼吸に溺れるしかないのか。溺れているのか。

生きる流転の中で何のバトンの連鎖か。有無を語るか。

与えられていたんだ。熱を。

冷えたくないと細胞が叫んでるんだ。

ただそれだけなのだ。

黒い雨が止む。泥が暴れて地面が黒く抉れる。黒から白い蒸気が産まれる。地球は見渡せない。無意識の構図に納まった私は無謀にも右往左往に苦しみながら疾走する。何を追いかけているかも考えずに。

紅い太陽が灰色の空を割き、蒸気を撫でる。女の顔が見える。

雫。透明の雫で構成された横顔を思わず撫でる。

女は微笑み、私の指を噛んだ。

そしてそのまま呟く。

「サイレントマジョリティー」

脈絡ない言葉が私の神経を乱す。

人生は想像を越える。気狂いをみんな求めている。気が触れた先に個人の楽園が眠っていると確信している。

主役の条件はソノモノの動きを見つめたいかと云う。

私は気がふれた女がどのように生きるのか、見つめたくなった。

また新しい筆と出逢った。

今日もまた記念すべき日。

直ぐ去る。そして忘れるが、だからこそ。

今を愛するのだ。

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