逆那沙紗は決められない

「でも、やっぱり無理です」


「は?」


 ……いやいや、待って。今のいい流れだったでしょ。普通ならここで、止めて引きながらエンディング曲が流れ出す展開でしょうに。あれー?なんでだー?あんれぇ~?

 って、いかんいかん。混乱した。落ち着けー私。私出来る子。頑張れー私。

「えっと、どうして無理……なの?」

 脳内の大混乱を何とか抑えつつ、恐る恐る聞いてみる。

「だって、それって私には、この力以外、何もないって事でしょ?」

 そんなの無理、と俯いてしまう。

「い、いやいや、そうじゃなくて。ほら、原石!あなたは原石なんだから!ね!」

「原石って、中に眠っている石によって、価値もまちまちですよね」

 うわー、屁理屈まで言い出したよ、この子ってば。あーもー、難しい事は止めだ止め止め!

「あーもー!あんた、歌劇同好会に戻りたいんでしょ!?じゃなかったら、あんなところで三七三ちゃんを心配してたりしないよね!?」

 一昨日の放課後、噴水で落ち込んでいる風の三七三ちゃんをじっと見ていたのは、心配だったからだと思っている。だからこそ、私は彼女に興味を持ったし、今こうして頭を悩ませながら説得しようとしているのだが。

「確かに燈火ちゃんの事は心配したけど……私、歌劇同好会に戻りたいって言った事は一度も無かったと思うけど?」

「えっ……」彼女との会話を思い出す……

 い、言われてみれば……無いかも……

 じゃあなに、私が勝手に勘違いしてたってだけ……

「え、えーっと。じゃあ、歌劇同好会に戻りたくはないの?」

 改めて聞いてみる。これで戻りたくないって言われたら、どうしよう。

「それは……」

 彼女の戸惑いを含んだ返事に、私の疑念は杞憂に終わる。

「悩んでるなら、戻っちゃえば?」

 我ながら軽いなぁ、とは思いつつ、告げてみる。というか、先程までのテンションにはもうどうやっても戻れなさそうだ。

「どうして……」

「えっ?」

「どうして、そこまでするの?」

 困惑した表情。どうしてって言われても……

「自分のため?それとも……」

 自分のため……私はいつでも自分のために生きてきた。でも、今回は違うのだろうか。それとも……

 気が付くと、私は見知らぬ誰かの手首を掴んでいた。

「えっ?」

 と、一瞬力が抜けた私の手から、彼女が逃れて立ち上がる。

「しまった。あの力か!」

 油断した。こんな単純な手に引っかかるなんて。

「……さようなら」

 彼女はそう呟いて、この部屋を去っていく。

 追いかけるべきだ。頭ではそう判断できても、私の足は一歩も動かなかった。

「どうして……」そこまでするの、か。

 私の呟きに応えるものは、この部屋にはいなかった。


― interlude end―

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