逆那沙紗は止まらない

―interlude side Sasa―


 星ノ杜学院から一県跨いだ古都。その西に位置する、桜や紅葉の名所で有名な観光地を訪れていた。

 観光地といっても、訪ねてきた場所は、地元の中学校、小学校、そして、これから向かうのは、とある民家。

 この地の最終目標である、春深家へと歩を進めていた。


 私がまず気になったのが、春深咲恋の交友関係だ。

 あの現象が、小中でも起こっていたというならば、春深咲恋という存在はほぼほぼ認識されていない事となる。

 春深咲恋が卒業したという中学では、予想通りの回答が得られた。道すがら訪ねた、同年代くらいの者にも聞いてみたが、同じ内容だった。

 つまり、彼女は確かにいたが、誰の目にもその姿が春深咲恋だと認識できていなかった。

 私が奇怪に出会ったのは、春深咲恋の小学校時代の知り合いで、中学は別になった者に行き当たった時だ。

 何人目かは忘れたが、私の問いに「お姫様みたいな子だったよ」と答えたのだ。



「お姫様?」

「うん、そう。お姫様だったよね」

「そうそう、すっごく可愛くてね。みんな、春深さんのこと好きだったの」

「可愛いって、どういう風に?」

「んー、全部かな!?見た目はもちろん仕草とかも!」

「声も可愛かったよねー。守ってあげたくなるっていうか、何でも言う事聞いてあげたくなるっていうか」

「彼女は、その可愛さでみんなに言う事を聞かせていた?」

「えーっ、違うよ!そんなんじゃなくて、ねぇ」

「うんうん。すごく謙虚だったし、何かしてあげたら、ごめんね私の為にって言ってくれたし」

「愛されキャラみたいな?」

「そうそう。とにかく可愛かったなー」

「ねー、今頃何してるんだろ?」

「今、どこにいるのかは知らない?」

「うん。えーっと確か、転校したんだっけ?」

「そうだっけ?でも、いつの間にかいなくなってた、のかなぁ?」

「その辺りは覚えていない?」

「そうだねー、何でだろ。あんなに好きだったのに?」

「だねー。なんでだろ?」

「そうですか。時間を取らせてしまいましたね。ありがとうございます」



 その後、卒業したと記載のある小学校で、春深咲恋の卒業が確認できた。

 とある、事件の記録と共に。




「さて」

 いよいよ、春深家である。

 私の今の肩書は、児童福祉を勉強している学生だ。レポート作成のために、養子縁組の実際のケースとして取材させてほしいと伝えたら、二つ返事で応えてくれた。

 私は、学会に出席する時に着用するスーツの襟を正し、呼び鈴を押した。


― interlude end―

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