第6話 小手術で大騒ぎ②

 「いや、痛くはないですが・・・・・」

 触っているのは分かる。メスなのも分かる。特に患部を触っている感覚がある時点で麻酔があまり効いていないということなのだが、このときは緊張からか、まったく理解できなかった。とにかく、何も考えず身を任せることしか考えてなかった。数カ所をメスで刺すのだが、場所によってはメスの切っ先の感じが分かる。

 「ではまず、患部の切除から行います」

 決して痛くはないが、切っているのは感覚的に分かる。あまり心地の良いものではなく、汗が全身から噴き出す。が、場所が場所だけになにも話せない。

 「毛細血管拡張性肉芽腫」自体が非常に出血しやすい状態である上に、くちびるも出血しやすい。

 ――止血のために、モノポーラで焼きますね。

 と言って、バリバリバリと傷口あたりを焼き始めた。それも感覚がある。鼻腔に焦げ臭い匂いが漂ってきた。「モノポーラってドクターエックスで出てくるやつだよな」とかくだらないことを考えていた。

 再び患部を切り離す作業を始める。ちょっとメスの感覚が強くなる。「あれ」と警戒心が強くなる。

 ――じゃあ、患部を切り離します。

 と言ったあと、激痛が走った。

 「んーーー」

 と思わず叫んでしまう。

 ――はい、血を止めます。

 またモノポーラを患部で焼き始めた。

 「んーーーーーー」

 激痛が走り、叫び、右手を挙げて、異常をアピールした。

 ――痛いですか。

 と医師に聞かれたので、「はい」と答えた。

 患部を焼くのを医師は続行した。

 ジジジジジジ・・・・・・という不気味な音と、味わったことのない激痛が走る。スタンガンを受けるとこんな感じなのかな、というような、連続する電気ショックの激痛だ。もちろん、スタンガンを食らったことはない。

 「んーーーーーー」と再度声を上げ、右手でアピールした。

 歯医者でも経験があると思う。「痛いときには言ってくださいね」と言いながらも、「痛い」というと無視される。なかには、「痛いです」と言うと、「痛いよねぇ」と同情だけして続行した“いごっそう”の歯科医もいた。(たぶん土佐の生まれではない)

 ――麻酔を追加しましょう。

 と医師は麻酔の追加を決断してくれた。

 そのあと、麻酔を追加するのだが、針が刺さったあと、「バシュ」という音がして、口元が濡れた。「麻酔が漏れた」と感覚的に分かった。

 だが、そのあとモノポーラで焼いても、痛みは感じなかった。

 そして、ふた針ほど縫って、“はい終わりました”と言われた。全身から力が抜けたのがわかる。“傷口に薬を塗ります”と患部に薬を塗る感覚があった。

 顔の覆いを外す。全身が汗ぐっしょりなのがわかる。それを察したのか、看護師さんが、

 「暑いよねえ」と笑顔で声をかけてきた。

 だから、「いや、途中から痛かった」と正直に言った。

 「あらあら」と言いながら、看護師さんはスルスルと立ち去った。

 「君子危うきに近寄らず」

 どこの病院の看護師さんも、トラブルへの嗅覚は素晴らしく鋭い。こういうときには察知して立ち去るものだ。別にクレームを付ける気もなかった。医者が下手くそなのは慣れっこだ。

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