第5話 小手術で大騒ぎ①

 受付番号ではなく、名前で呼ばれ、「処置室」と書かれたドアから部屋に入った。

 部屋のなかは、二畳か三畳くらいの細長いスペースだった。左側に処置用のベッドが置かれている。まずは荷物置き場に荷物を置くように指示される。

 おそらく補助であろう後輩の医師がやってきた。

 「これから一度マスクを外してもらって、様子を見せてもらいます。そのときはなるべくお口はチャックで」

 「わかりました」

 マスクを外した。唇の下に滅菌ガーゼで保護し、それをテーピングテープで貼ってあった。

 先ほど私を呼んだ医師が戻ってきて、患部を見る。私はガーゼをゆっくり外した。

 「それはご自身で貼ったんですか」ガーゼを指して言った。

 「うい・・・・・・」

 頷いて、曖昧に返事をした。しゃべらない方がいいと判断した。

 「これはずっとこの大きさですか」

 これはしゃべらないと返事ができない質問だ。

 曖昧に「いや・・・・・・」と口のなかでモゴモゴ言った。

 ちょっとムカッときた。話さなきゃ返事できない質問するなよ。

 「マスクをいったん戻してください」

 と言われ戻した。

 「これから写真を撮影します」

 いかめしい一眼レフを医師が持ってくる。写真屋さんのような垂れ幕のロールがドアの上に設置されていて、それを引き出す。その前に立ち、指示通りのポーズを取り、患部の写真を撮影される。

 皮膚科では恒例行事のようなもので、他の疾患でやってきたときも撮影された。よく患部の写真がネットなどにあがっていることがあるが、あれである。もちろん、個人が特定されないように配慮はされているのだろう。だが、個人情報保護の説明や署名はされていない。

 マスクをつけ、ベッドに横たわるように指示される。またすぐにマスクを外す。そして目を閉じた。

 顔面を覆うようにおそらく不織布の覆いをされた。正確にはそれが不織布なのか、どんな色をしているのか、目を閉じているのでわからない。不織布は患部だけが露出されるように穴が開いている。以下は目を閉じているので、会話と想像による情景だと思って欲しい。

 ――麻酔を打ちます。

 と医師が言って、恐怖の常套句「はい、チクッとします」を言って、麻酔を打った。

 それから数分放置された。この数分が後の展開につながる。

 数分後、「では始めます」と言って、“小手術”は開始された。

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