第3話 予約
「割と誰でもなる病気ですね。何か怪我されました」
「いや、自覚症状はないです」
「うん。怪我とかをすると、それを治そうと毛細血管が集まるんですけど、血管が集まりすぎたんだと思います。ちょっと大きさが大きいんで、麻酔を打って、切除した方がいいと思います」
くるりと女性医師の方を向いて、
「今日は無理か」と日程を聞く。
「今日はいっぱいですね」
「来週の月曜日は」
「あ、開いてます」
「来週の月曜日は大丈夫ですか」
ということで、月曜日に手術をすることに決まった。
すぐ隣の診察室に移動して、手術の手続きを行う。「手術」という言葉の響きにぎょっとしてしまうかもしれないが、わりと簡単なものでも病院では「手術」と呼ぶ。「処置」でいいではないかと思ってしまうのだが、おそらく「手術」と「処置」では保険の点数が違うのだろう。
女性の医師と予約を調整していると、男性の医師が顔を出して、
「一応手術してそれを生検にまわします。皮膚科の診断って、検査が終わって確定なので」という説明をした。それは慰めてくれているようであった。
「うん、疑ってないよ」と思い、内申苦笑した。
私は病院では神経質な性格だと疑われやすい。病院で自分の病気のことを聞いて、あっけらかんと笑っていたらバカである。
きっと、「肉芽腫」の「腫」にこちらが引っかかったと判断したのではないか、と一瞬で推察した。「悪性リンパ腫」などの使い方に似ている。
ただ、件の病名を「ニクメシュ」と呼んでいたことに、一抹の不安を覚えた。
手術の同意書に記名させられ、その日は終わり。手術等々の注意書きが書いてある用紙を帰宅してから見たが、簡単な手術だと強調したいのか、「小手術」という表現で書いてあって、興味深かった。
この半月強、とにかくくちびるから出血した。顔を洗えば出血し、食事をすれば出血。寝る前に滅菌ガーゼで保護をして寝ないと、翌朝枕カバーや布団カバーに点々と血の染みがつくことになった。ティッシュの消費量が尋常でなかった。
観察をすると、イボのような真っ赤なプヨプヨの一部から出血しているのではなく、全体から滲み出ていた。出血後、すぐに瘡蓋のようなものがイボを包む。だが、顔を洗ったりすると、すぐに取れてまた出血する。イボの頭の付け根は当然くちびるについているのだが、ついている部分はごくごく小さい。それは診断でもそう指摘された。だから、切除部分は狭くて済むらしい。
診察室に入ったときの男性医師の顰められた眉の印象が尾を引いて記憶に残っていた。
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