第2話 なにそれ

 診察の日、いつも通っている外来に、予約外で入った。コロナ禍に入ってから、なるべく通院の機会、というより都心に出る機会を減らすために、電話診断をこの一年間続けてきた。電話診断はいつも見てもらっている医師ではなく、おそらく研修医か、若手の医師だった。大学病院の担当のローテーションはとても短い。現に主治医は変更されていた。だから、予約を入れてもらうといっても、どういう手続きを取ったらいいのかわからなくて、結局予約外になってしまった。医師と患者の関係も難しいものだ。しかも、電車のラッシュアワーを避けるために、朝一番から待つのではなく、少し遅めに行った。長時間待たされることを覚悟した。

 しかし、行ってみると皮膚科外来は閑散としていた。予約外でも、ほとんど誰も待っている患者はいなかった。「きっとみんなオレと同じで我慢してるんだろうな」と思った。

 外来の受付にいるクラークに来院時に発行される細長いシートを手渡し、順番を待った。あまり待たずに診察の順番になった。数年前に新しくなった病棟の、割と新しいドアを開く。ドアには病院の周囲に自生する木々の種類のイラストと名前が書いてあった。引き戸の向こうには、いわゆる診察室が目の前に現れる。診察室のなかには診察に足りる最低限の物しか置かれていなかった。PC、プリンター、簡易ベッド、それくらいしか置かれていない空間だった。

 診察室には二人の医師が座っていた。

 一人は男性、年の頃は三十代半ばくらいだろう。もう一人は女性。年齢は二十代だろう。二人とも当然マスクをしているので、正確ではない。

 男性医師は私が入った瞬間、眉が曇っていた。血の気の引いた白蝋のような肌で、眉は鋭く剃り上げられていた。女性医師は長い赤っぽい髪で、後ろで束ねられていた。女性医師の方が眉の処理がきちんとしていなかった。

 男性医師の曇った眉を見たときに、「あれ、この人機嫌が悪い」と少々警戒した。高齢の医師は今も、そして若いころからそういう傾向があるが、そのときの機嫌の悪さを露骨に患者にぶつけた。今の若い医師は本当にそういうことが少なくなった。だが、目の前の医師がそうでないという証拠はない。

 顰められた眉は、すぐに戻った。

 「それでどういう症状・・・・・・。なるほど」、手元に来院時に、簡単に現在の症状を書いた紙があり、それを見て得心したようだ。それで判断するなら、もう少しきちんと書けば良かった。簡潔に「くちびるにできもの。五月下旬から」と書いた。まあ、それで十分だろうけど。

 「それではマスクを外してください」

 と促され、マスクを外した。何かにこすれると簡単に出血してしまうので、滅菌ガーゼをテーピングテープで固定した物でカバーしていた。それもゆっくり外す。

 「ふうん、なるほど。これ、ずっとこんな感じ?」

 「はい」と答える。

 男性医師は定規を持ってきて、サイズを測る。

 「毛細血管拡張性肉芽腫」ですね。

 スマホの検索でもあまりヒットしなかった結果を告げられた。

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