12

夕方いつもどおりヨーコさんが帰ってきて、僕をドアの外に連れ出した。

「鍵かけなくても大丈夫」

「へえー、鍵預かったんだ。でも今は大丈夫」

そう言ってヨーコさんは僕の手を引いて奥の方に。

ヨーコさんの部屋にでも行くのだろうか。

そういえばヨーコさんの部屋に入ったことはなかった。

「こんばんは。いますか」

ヨーコさんは自分の部屋のさらに奥の部屋の前に立ってドアをノックした。

部屋の中がざわついているようにな音が聞こえたけれど、返事はない。

ヨーコさんがもう一度ノックする。

突然ドアが開いて、ボサボサの髪と無精ひげの男が顔を出した。

「となりのヨーコです。覚えてます」

ヨーコさんがそう言うと、男が黙ってうなずいた。

ヨーコさんがこうして訪ねっるってことは夜中に怪しい音でも聞いたのだろうか。

「今ぐらいの時間がいちばんいいのよね。大家さんから様子を見るように言われて」

「家賃はちゃんと振り込んであるはずですけれど」

「そうじゃなくて、心配なのよ。たまに顔を見ないと」

男はドアを開けて僕たちを中に入れた。

部屋の中では何台かのパソコンが

男がすわっているであろう位置を囲んで配置されている。

この人はいわゆるデイトレーダーっていう人なのかな。

ヨーコさんはジャージ姿の男を立たせて、その回りを一回りする。

「見た目は健康そうね」

「運動はしてるの」

「部屋もそこそこ片付いてるし」

男はヨーコさんを見てニヤリとした。

「どうなの、商売は」

「ホントならもう少しきれいなところに移りたいんじゃないの」

「そのくらいは儲かっているんでしょ」

「親父さんには恩義があるので」男がボソッとつぶやくように言う。

「最近シャワーの音が聞こえないからちょっと心配だったけど、臭わなかったね」

ヨーコさんは僕の部屋に戻ってからそう言った。

僕はありあわせの材料でつまみを作っている。

「意外と片付いていましたね。もしかすると僕が一人でいたときよりもきれいだったかも」

「彼はしっかりしてるの。大学に入ったころはもっとしゃきっとしていたし」

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翻る落ち葉 旧 阿紋 @amon-1968

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