やさしい羽

絵空こそら

やさしい羽

彼女の羽根は黄金色。村人は皆彼女を天使と云いました。

 陽に輝く羽根を欲しがる彼らに、彼女は惜しみなく分け与えました。

 

 ある時、村の外からやってきた男が彼女の羽根を欲しがりました。羽根を売って商売にしようとしたのです。

 彼女の翼は、すでに薄くなっていました。それでも彼女は羽根の数枚を引き抜いて、男に渡しました。

 数日の後、男はまたやってきて

「あの羽根はよく売れたからまた分けてくれ」

と言います。

 彼女が「これ以上は分けてあげられない」と断ると、男は怒って彼女の羽根を無理やり引き抜きました。すると血がついたその羽根は、色が黒く変わっていきます。彼女は魔法で羽根を金色に染めていたのです。

 

 このことが村に広まると、村人たちはたちまち

「偽りの金!」

と言って、彼女の羽根を捨てました。

 飛べなくなった彼女は、泣きながら羽根の打ち捨てられた石畳を走って森へ逃げ込み、二度と村に帰ってきませんでした。


 それからというもの、村にはたびたび不幸が起きました。魔物になった彼女が魔法で悪さをするのです。

 ある時、新しくいらっしゃった牧師さまが、彼女に悪さをするのをやめるよう、説得に出かけました。

 大きい木の穴の中にうずくまる彼女は、全身がまっ黒でした。牧師さまは、なぜ悪さをするのかと問いかけました。

 彼女は悲しいからだと答えます。かつて愛していた村人たちに嫌われたことが悲しくて、どうすればよいかわからずに、悪さをしてしまったといいます。

「でも、わたしのような黒い羽根を偽らず、どうして人々が愛してくれましょう」

 そう言って泣く彼女を、牧師様は可哀想に思いました。森に逃げ込む前、彼女が人間に悪さをしたことは一度もありませんでした。


 牧師さまは村に帰ると、村人たちに事情を説明しました。彼らは彼女に優しくしてもらったことを思い出して、自分たちの行いを深く反省しました。

 

 牧師さまはまた森へ出向き、彼女に村に帰ってくるようお願いしました。

 しかし、彼女は獣に近い姿になり、もうほとんど言葉を話すことができませんでした。

 彼女が翼を翻すと、一枚だけ金色に光る羽根がありました。

 彼女はそれを引き抜いて牧師さまに渡すと、もう完全にことばを理解することができなくなりました。


 牧師さまはその羽根を村に持ち帰り、教会の中に大切に飾りました。

 村人たちは今でも、その羽根を見るたび彼女に祈りを捧げています。

 彼女の最後の羽根の色は、染めたどの羽根の色よりも綺麗でした。

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やさしい羽 絵空こそら @hiidurutokorono

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