第3話

翌日、月曜日。

学校が終わった彼は帰ろうとしたところを、イジメてくる相手に捕まった。

「おい。待てよ。一緒に帰ろうぜ」

 相手はなれなれしく彼の肩に手を回してきた。

「あ…う…うん」

 いつものパターンだった。相手は帰り道、小突いたり金をゆすったりするのだ。萎縮し、恐怖し、諦めるだけの彼だったが今日は違った。こうなることを望んでいたのだ。

「なあ、わりーんだけど金貸してくんねー」

 にたにた笑いながら相手が言った。

「え…でも…」

「少しでいいんだ。たのむぜ」

 今日の彼の躊躇は演技だった。

「じ…じつは…」

「なんだよ?」

 煮え切らない彼の態度に相手は少しいらだったようだった。

「昨日…夜ぶらぶらしてたら、家の近くの山で…カバンに金が入ってるのを見つけたんだ。

それもすごい額…」

 それを聞いた相手の目の色が変わった。

「おい…ほんとかよ、それ。今その金、家にあるのか?」

「いや、重くて一人じゃ持てないくらいだったから、その林の中に埋めてあるんだ」

 相手はますます興奮しだした。

「よし、それじゃ今から掘り返しにいこうぜ」

「あ…ああ…」

 彼は仕方ないといったそぶりで、相手を林へと連れていった。

 道路に自転車を止めた2人は斜面を登っていった。

「ん、あれ池か?」と相手が言った。

「ああ」

 彼は頷いた。

「あの池の前に埋めたんだ…」

 彼は地面を指差した。

「そうか」

 相手は用意してきたスコップで地面を掘り始めた。必死に掘るその様の後ろで彼は笑えてきて仕方なかった。身体中がゾクゾクとしてきた。滑稽な姿を十分楽しんだ後、彼は言った。

「出てきていいぞ」

 振り返った相手は不思議そうな顔をした。

「ん?他に誰かいるのか。柴田か?斉藤か?」

 相手が名前を上げたのは同級生だった。

「いや…」

 と彼は首を振った。

「怪物だよ」

 池が激しく揺れ始めた。

 そして怪物が姿を表した。

「う…うわああああ」

 相手はスコップを放りなげた。

 怪物は相手をぎょろぎょろと見た。

「お…おい…こいつはなんなんだよ」

 相手にかまわず彼は言った。

「食べていいぞ。怪物」

 頬を緩ませながら、どこまでも冷たく。

 怪物の口がパカッと開いた。

 相手は逃げ出そうとした。だが、怪物は大きくジャンプすると相手の背中に張り付いた。

「ひいいい!」

 恐怖の叫びが林の中に響いた。

 牙を光らせた怪物は食欲を満たし始めた。

 彼はその光景を満足そうに見ていた。

 10分もすると、相手の姿は完全になくなった。

 食事が終わると、怪物はいつものように一礼して池に戻っていった。

「あははははは」

 彼はしばらくの間笑い続けた。

 翌日から彼の世界は変わった。

 いじめるリーダー格の人間がいなくなったことで彼に対するいじめはなくなった。

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