第11話~夏海サイド~

理解すると同時に、咄嗟によけることができなければ自分もあれに巻き込まれていたのだと思い、強く身震いをした。



「早紀!!」



凌が悲痛な叫び声をあげた……。



早紀の過去~早紀サイド~


一ヶ月前。



あたしは少し人よりトロくて、会話に入っても的を得ないことしか言えなくて。



そんな自分の性格をしっていたから、無理に友達を作ろうともしなかった。



みんなでおしゃべりをするのも好きだけれど、それ以上に小説を読むことが好きだったからだ。



ファンタジー小説に恋愛小説に青春小説。



もちろんホラー小説だって読む。



小説を読めばどんな世界にだって飛んで行けるし、魔法だって使えるようになる。



人から少しズレているあたしにとって、それはとても大切な趣味になった。



「今日も本なんて読んでんの?」



後ろから声をかけてきたのは同じ3年E組の梓だった。



梓は派手な見た目で、性格もサバサバしていて男の子っぽい。



そんな梓はクラスのムードメーカーで、あたしからしたら少し怖い存在だ。



あたしはひきつった笑みを浮かべて「うん」と答えるのが精いっぱいだった。



「なんで?」



「え……?」



あたしは驚いて瞬きをする。



質問の意図がわからなかったからだ。



「なんで本ばっか読んでんの?」



「えっと……」



まさかそんな質問をされるとは思っていなかったあたしは、しどろもどろになって教室内を見回してみた。



けれどみんなそれぞれで楽しくおしゃべりをしていて、困っているあたしに気づく子はいなかった。



「好き……だから」



そうとしか答えようもなかった。



ただ本が好きだから。



こんなあたしでも楽しむことができるものだから。



「ふぅん? でもさ、ちょっと暗くない?」



それが自分の趣味や性格や見た目を指しているのだと気がつくまで、少し時間が必要だった。



「そう……かな?」



「その話方もさ、もっとちゃんと話せないの?」



梓はズバズバと指摘してくる。



あたしはまたひきつった笑みを浮かべる。



この前、あたしは梓に前髪を切られた。



あたしにとってはひどく悲しい出来事だったのだけれど、そのまま家に帰ると母親から「あら、美容院へ行ってきたの? いいじゃないその前髪」と、言われてしまった。



鏡を見てみると、確かに梓の腕は上手だと認めざるを得なかった。



でも、とあたしは思う。



あんな切られ方をしたら誰だって嫌だ。



それが原因で他のクラスメートたちにもクスクスと笑われ、蔭口を叩かれた。



だけど、梓はそれに気がつかない。



梓には悪気がないから余計にたちが悪いのに、本人は気がつかない。



梓への対応に困っていると、凌が近付いてきた。



眉間にシワを寄せて梓を見ている。



「また早紀のことイジメてんのかよ」



「はぁ? どこがイジメてんのよ」



梓は怪訝そうな顔になる。



そう、梓はあたしをイジメてなどいない。



梓にそんな気はないのだから。



ただ、梓を発端にしてあたしへのイジメが加速していることは、事実だった。



「本が好きで何が悪いんだよ。暗いとか、決めつけるなよ」



凌がハッキリとした声で梓を被弾する。



梓は一瞬ひるんだ表情を浮かべ、それから「はいはい、わかりました」と頷いた。



「凌はほんっと早紀のことが抱き好きなんだから」



呆れた声で言い、教室を出ていく梓。



あたしはその後ろ姿を見送ってホッと安堵の息を吐きだした。



梓はあたしと凌の関係をからかったりもしない。



それはいいことだった。



でも……今日もこうして凌に助けられることで、他の女子たちからの痛い視線を感じるのだ。



凌も梓も気がつかない。



自分たちのしている行動が、この後あたしにどのようにして降りかかってくるのかを……。

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